第2話 勇者と遭遇
……捕まえられた。町に入るなり、急に手錠のようなものをつけられて、牢屋に連行された。手錠を破って、脱出しても良かったのだが、むやみに被害を出すことはないと判断した。もし、ここで俺が暴れて、俺が領主ザイズだと知られれば、この領との関係は修復不可能となってしまうだろう。正直、俺は戦争なんてしたくなかったし、話し合いで解決できるのならば、それが一番だと思っているのだ。
牢屋の中とはいえ、町の中に入ることは出来たのだ。後は、気づかれないうちに脱獄して、領主に直談判に行けば良い。そう、段取りをつけて、俺は牢屋の中にぶち込まれた。
牢屋の中には、俺以外にも多くの人が居た。そもそも、そんなに大きな牢獄というわけでもないので、牢屋の中には男女関係なく複数人の人が入れられていた。俺の牢屋の中にも、すでに十人近い人が居た。
面倒だなと思う。一人部屋だったら、脱獄するときに気づかれにくいが、他にも人が居るとなると、難易度は一気に上がる。どうしようかなと、考えていると、一人の少女が声をかけてきた。
「新人君、私たちの牢屋にようこそ。ゆっくりしていってよ!」
捕まっているとは思えないほど、元気な声だ。その声の主に、顔を向けてみる。
年齢は、十八歳くらいだろうか、青髪で綺麗な顔をしている。なぜだか、この顔をどこかで見たことのあるような気がする。自分の領地の人間か?俺は、一応、領地の人間の顔を全員覚えている。そのため、この目の前の少女と、記憶の中の領地の民の顔を照合してみるが、どれとも一致しない。
おかしい。俺は、領地から外に出たことはない。そうなってくると、他の領からやってきた商人か?それとも、俺が転生前にどこかで………
そこまで考えて、ようやくこの顔をどこで見たのかを思い出した。
こいつ、このゲーム『ザ・RPG』の勇者じゃねーか!
嫌な汗が、頬を伝う。……嘘だろ。勇者ってまだ生きてたのかよ。とっくの昔に殺されて死んだものとばかり思っていた。というか、勇者がなんでこんな牢屋に入れられてるんだ。様々な疑問が脳裏を駆け巡る。
……一旦、落ち着け、俺。もしかしたら、他人のそら似かも。千年前の記憶だから、勇者の顔を間違えてもおかしくない。とりあえず、確認が先だ。
「……君の名前とかって聞いても良いかな?」
「え?私の名前?別に良いけど……。私の名前は、ラミーダ。新人君の名前は?」
嫌な汗がドバっと吹き出した。背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ。
やっぱり、勇者ラミーダじゃねーか!
俺を滅ぼす運命を持って生まれた少女、ラミーダ。何の因果か、こんな牢屋の中で出会うことになってしまった。
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