悪役貴族に転生したけど1000年間勇者を待ってます ~ただ真剣に領地を治めていたら、いつのまにか世界最後の砦の名君と崇められていた件~
憂木 秋平
第1話 悪役貴族として転生して1000年経ちました
俺の名前は、真藤修斗。どこにでもいるゲームが好きな普通の高校生だ。そんな俺の一番のお気に入りのゲームは、『ザ・RPG』というゲームで、すでに十週近くプレイしている。こんなにこのゲームが好きだから、神様が俺を気遣ってくれたのか、気づいたら俺はこのゲームの中のキャラクターの一人に転生していた。
そのキャラクターは、このゲームの裏ボスとも言える存在で、貴族のザイズという名前の最強キャラ。勇者のパーティーのレベルをカンストさせて、ようやく勝てるくらいの、チートキャラ。
最初、このキャラに転生したと気づいたとき、俺は相当に喜んだ。裏ボスの部屋で小躍りをするくらいには喜んだ。しかし、すぐに重大な事実に気づいてしまったのだ。俺の運命は、いずれ勇者に殺されるのみではないかと。それを悟ったとき、俺は取り乱した。
取り乱して、自分の部屋に籠もりきりになっていた。けれども、その籠もりきり生活も長くは続かなかった。俺の領地の民が、俺を心配して様々な、俺の身を労る言葉を投げかけてくれたのだ。
その多くの言葉は、俺の心を徐々に癒やしていってくれた。そして、立ち直ると共に、俺は決意したのだ。例え、死の運命が待っていようと、せめてこの心優しき民を守ろう、この心優しき民には健やかに過ごしてもらおうと。
この世界に転生して、一ヶ月後の出来事だった。
それからの俺は、領地を治めることに、とにかく真剣だった。知らなかった知識を詰め込み、必要なあらゆる事を勉強し、空いた時間には、領地の民と触れ合うことも忘れずに行った。そんな、生活を続けていると、目まぐるしく時間は過ぎていく。
十年、百年、そして遂には千年もの時が経っていた。
ずっと、自分の死の運命から目を逸らして、千年。実は、俺は一度も自分の領地の外に出たことがなかったのだ。自分の領地を治めるのに忙しかったというのは、もちろんあるが、単純に怖かったのだ。外に出た瞬間、勇者に殺されてしまいそうで怖かった。自分の領地にいれば安全だと無意識の内に盲目的に信じてしまっていたのだ。
しかし、そんな俺がはじめて、領地を出なければならない事態が発生した。
多くの民が、隣の領がこちらの領に攻撃を仕掛ける準備を行っているから、話し合いに行ってくれないかと俺に嘆願してきたのだ。
魔獣が領地に攻めてくることはあったが、実は、他の領から明確に攻撃の意思を向けられるのは、千年の間で、初めてのことであった。それも、当たり前の事である。なぜなら、この世界は、『ザ・RPG』というゲームがモデルの世界なのだ。勝手に、領地を奪い合う戦争なんて、起こるはずがない。裏ボスの領地は、勇者に敗れるまで、裏ボスである俺が治めていないとおかしいのだ。
それが、どうして、このような事態になっているのかと、疑問に思ったと同時にどこか納得もしていた。
そもそも、千年もの間、勇者がやってこない事が、すでに異常事態なのだ。何かが起こって、ゲームのシナリオが崩壊したと見るのが正しいだろう。正直に言うと、俺はその事が少し気になっていた。外の世界では、何が起こったのか。外の世界はどうなっているのか。この嘆願は、それを確かめるために、丁度良いと、思ったのだ。
だから、俺は民の嘆願を受け、千年ぶりに外の世界に出ることにした。従者は一人もつけていない。一応、俺はこのゲームの裏ボスであるため、この世界で俺に敵うほど強い敵はいないと判断したからだ。
自分の領地から出てはじめに抱いた感想は、単純なものだった。
……あー、なるほど、これは勇者が負けたなぁ………
俺は、この世界の象徴とも言える、世界樹が折れているのを見て、真っ先にそう感じた。なるほど、勇者が負ければ、俺のところにこないのも当然か。しかし、勇者が負けることなんてあるのか?あらかじめ、この世界では勇者が必ず勝つようにできているのではないのかと、至極当然の疑問を抱く。しかし、この光景を見れば、勇者が負けたのは疑いようもないだろう。何となく、腑に落ちないものを抱きながら、俺は隣の領地で一番大きな町へと向かった。
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