第238話天使侵攻7
選択を迫られたダバンの回答は・・・・・
「俺は・・・・・」
戦いの中で、覚醒を待つのが本来の形なのはわかっている。
だが、万が一、この戦いで負けるようなことがあれば・・・・・
恰好の良いことなど、言ってはいられない。
『プライド』、『魔獣の王』
そんなもの、どうでもいい。
ダバンが、デモンに頭を下げた。
「待つことが、正しいことは、理解している。
だが、後悔は、したくはない。
頼む、俺に力を!」
「うんうん、覚悟を決めたんだね。
でも、それなりのリスクもあるよ?
失敗すれば、死んでしまうかも?
生きていても、すべてを失い、ただの魔獣に成り下がるかも?
覚悟はいい?」
恐怖を煽るような言葉の後、再度、デモンに告げられたが
ダバンの意思は変わらない。
「問題ない。
覚悟はできている」
「では、始めるよ」
そう告げたデモンは、時折見せていた人型へと変化する。
──ムッ!
あの姿は・・・・・
ゴージアは、デモンのあのシルエットに、思い当たる節があった。
──あり得ません・・・・・
ベーゼ様は、何を若様に残されたのだ・・・・・
ゴージアが、色々と考えている中、
デモンが、エンデにしたように、ダバンに、何かを投げつけると
その物体は、ダバンの体に吸い込まれた。
そして、始まるダバンの覚醒。
『グガァァァァァァァァ!!!!!』
叫び、のたうち回るダバン。
エンデの時と、まるっきり違う。
「デモン!」
エンデは、この状況に、思わずデモンを、問い詰めようと声を上げた。
そんなエンデに、デモンは、至って冷静なまま告げた。
「エンデ、君は、魔族であり、天使族でもあったが
先程、精霊の力も、その身に受け継いだ。
もう、完全に、異質な存在だよ。
だが、同時に、天界の住人であることだけは、間違いではない。
だから、僕の力を、すんなりと受け入れることができたんだ。
一方、ダバンは、人間界の住人。
そんな者が、覚醒のためとはいえ、天界の住人である僕の力を打ち込まれたんだ。
この程度は、想定内だよ。
まぁ、あとは、本人次第だけどね」
言われれば、納得するしかない。
エンデは、黙って見守ることにしたが
今の会話から、ゴージアは、嘆きの沼の正体が、わかった気がした。
死人を蘇らせるだけでなく、前世の記憶をも引き継がせ
意思も与え、新たな力を授ける。
今、思えば、こんな、この世界の常識を、
覆すようなことが出来る人物など、1人しかいない。
──まさか、生きて、いらっしゃったとは・・・・・
ゴージアは、口を閉ざし、目を瞑る。
そして・・・
──感謝申し上げます・・・・・
心の中で、そう呟いた。
それから暫くしたが、未だ、ダバンの変化は収まってはいない。
目の前で、藻掻き苦しんでいる。
その状況を。ただ見ているしかないエンデのもとに
普段、執事見習いとして屋敷で控えているコーラルが姿を現す。
「ゴージア様、敵の軍が、城に迫っております。
如何なさいますか?
宜しければ、こちらで対応いたしますが・・・」
この話は、当然、エンデの耳にも届いており、
ゴージアより先に、返事をした。
「アンジェリクの軍だろ、僕が行くよ」
そう告げたエンデは、踵を返した後、デモンに告げる。
「ダバンのこと、頼んだよ」
「ああ、任せてよ」
エンデは、嘆きの沼から去り、アンジェリクとの対決場へと向かった。
その頃、
アンジェリクの軍は、城の間近に迫っていたが、
精霊の罠にはまり、右往左往していた。
──小賢しい奴らだ・・・・・
「だが、何時までも、このようなものが我らに通じると思うなっ!!!」
アンジェリクは、自身のトライデントを掲げると
天に向けて強く願う。
「天よ、我が道を阻むもの、
その全てを、打ち消したまえ」
『アナイアレイシャン』
アンジェリクの上級魔法『消滅』により
すべての効果が打ち消され
目の前に、隠されていた城が、目の前に現れた。
「進軍だ!」
号令に従い、進軍を開始する天使軍。
だが、そこに、立ち塞がるかのように、
エンデとゴージアが、姿を現す。
「性懲にもなく、現れたか」
残っている天使は2人だが、大罪の魔物もいる。
油断はできない。
お互い対峙する形となったところで
アンジェリクが、叫んだ。
「我が軍な、前進あるのみ。
全軍、かかれ!」
生き残っていた兵士達が、一斉に襲い掛かる。
相手は、2人。
戦っている合間から隙を突き、
エンデとゴージアに、攻撃を入れる。
そう思っていたのだろう。
だが、そう上手くはいかない。
「若様、ここはお任せを」
そう告げたゴージアが、再び号令をかける。
「お行きなさい」
その言葉に従い、ゴージアの影から、
コーラル、アルメディア、クアトラが飛び出すと
一気に、敵兵へと向かって、駆け出した。
「ねぇ、これって若様に、いいところを、見せるチャンスじゃない?」
「あなたって人は・・・・・
でも、その意見には、賛成よ」
クアトラが先行し、呪文を唱える。
『わが眷属にして、眠りの世界の住人達よ。
再び、現世に降り立つことを許す』
「さぁ行け!
我が眷属よ!」
クアトラが呼び出したのは、魔界の住人、サキュバス。
彼女達は、一斉にチャームを使い、兵士達を、幻惑の世界へと誘う。
武器を手放し、欲に侵された兵士達が
ヨロヨロとサキュバスに歩み寄る。
「ああ・・・ああ・・・」
もう、戦うことなどできない。
「クアトラ様、この者達を、どうなさいますか?」
嬉々として、聞いてくるサキュバスに告げる。
「好きにしろ、殺しても構わぬ」
「は~い」
語尾に、♡でも付いているかのような甘い声で返事をした後
サキュバス達は、久しぶりの人族を堪能し始めた。
その光景を、アルメディアが、黙って見ている筈もなく
同じように、眷属を召喚する。
「我が命に従い、出でよ、ヴァンパイア達」
姿を現し、アルメディアに、跪くヴァンパイア。
彼らは、アルメディアにより、ヴァンパイアにされた者達で
純粋なヴァンパイアではないが、力は、それなりに持っている者達なのだ。
「うむ、命令は1つ、あの者共を、贄とした後、八つ裂きにしろ」
「「「はっ!」」」
一斉に襲い掛かるヴァンパイア達。
2種族の攻撃に、兵士達に、成す術がない。
サキュバスに、生命を吸われ、死に逝く者。
ヴァンパイアに、血を吸われ、枯れ逝く者。
どちらも、辿る道は同じ、死しか待っていない。
だが、天使は、前衛を失っただけで、諦めるつもりはない。
兵士の後に続くのは、国の命令に従い
この戦いに参加している冒険者たちがいた。
だが、彼らの使命は、あくまでも、天使、アンジェリクの護衛であり
それ以外のことには、参加する必要がない。
そのせいか、目立って参加しようと思う者はいなかった。
「おい、貴様らも、あ奴らを倒すのに、力を貸せ!」
そう言い放つアンジェリクの命令にも、反応は悪い。
「おいおい、俺たちの任務は、万が一の時に
あんたを連れ帰ること。
勘違いしないでくれ」
──やはり、人族というものは・・・・・
ここにきても、そう言い放つ冒険者達に、
嫌気を覚えるアンジェリクだが、今は、争っている状況ではない。
──仕方がない・・・・・
「蝸牛よ、全てを溶かしてしまうのだ!」
待機していた蝸牛が、動き出した。
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