第236話天使侵攻5
その場から、エンデの姿が消えたことで
アンジェリクの視線は、ダバンへと向かうのだが
もう、そこにダバンの姿もなかった。
「逃げたか・・・・・ならば」
アンジェリクは、生き残っていた者達に指示を出す。
「進軍だ!
奴らの城を、落とすぞ!」
負傷していたが、まだ生きていた者達の傷を癒すと
進軍を開始した。
一方、姿を消したエンデ。
彼が、引き込まれたのは『嘆きの沼』。
勿論、あの時、引き込まれたのは、エンデの意志ではない。
確かに、戦う前に、瘴気を濃くし、
地面に嘆きの沼を展開したのはエンデだが
今の状況は、エンデも知らないこと。
その嘆きの沼に、引き込まれたエンデは、
なにか柔らかく、暖かいものに包まれていた。
『本当に、無茶をするのね・・・・』
聞いたことのある声と、
暖かさ・・・・・
『まぁ、その辺りは、儂に似たのかもな・・・ハハハ』
『馬鹿なことを言わないで!』
『ああすまん・・・』
会話を聞きながら、ゆっくりと沈んでゆくエンデに、
突然、誰かが、話しかけてきた。
「大丈夫かい?」
流暢に話しかけるが、エンデには、聞き覚えのない声。
「もしかして、助けてくれたの?」
「まぁ、そうなるかな・・・・・
そういえば、 こうして、話すのは、初めてだね」
「僕の知っている人ですか?」
「知っているも何も・・・
本当なら、ここで、自己紹介をするべきだけど
今はやめておくよ。
その代わりになるかわからないけど
僕は、『嘆きの沼』と呼ばれている特異性を持つ悪魔スライムの亜種
【デモン】とだけ名乗っておくよ」
──嘆きの沼・・・デモン・・・
「そう、今ここで君が見た両親も、
2人が、ここに置いて行った残留思念が、見せたもの。
2人は、本当に君のことを、心配していたからね。
ベーゼには、本当にお世話になったんだよ。
だから、君に手を貸すことに決めたんだ」
その言葉を聞き、どうして嘆きの沼が、
手を貸してくれていたのかが、はっきりとわかった。
──すべて、父さんのおかげだったんだ・・・・・
改めて、感謝するエンデに、デモンが告げる。
「そろそろ、今後のことを考えようか」
その言葉に、エンデが頷くと
デモンが、話を続ける。
「このままでは、君、負けるよ」
エンデだって、そんなつもりはない。
絶対に倒す。
だが、デモンは、その言葉をバッサリと否定する。
「彼女達は、あくまでも、先遣部隊でしかないんだ。
そんな彼女達に、追い詰められた君が、勝てるとでも思っているのかい?」
──先遣部隊・・・・・
アンジェリクは、バルキリーの1人であり、
上位の天使ではない。
天界には、まだ多くの天使が、控えているのだ。
幾ら、異質な天魔の子といえど、
勝てる保証はない。
「僕は、死ぬしかないの?」
これは、エンデの本心から出た言葉。
自分が倒されれば、この戦いは終わる。
そう思ったからこそ、口から出た言葉だったが
デモンは、その言葉を、頭に『?』を浮かべながら否定する。
「どうして、そうなるの?」
「えっ!
でもこれが、一番かと・・・」
「アハハハ・・・
そんなつもりなら、助けたりしないよ。
さっきも言ったけど、僕は、君に力を貸す。
いや、これまで以上に、力を貸すよ」
「デモンさん・・・」
「うんうん、おもっいっきり僕に、感謝してよね。
まぁ、あまり時間がないようだから、
この後のことを話すよ」
デモンが、ゆっくりと口を開き、話を続けた。
その頃、アンジェリクは、城に向かい侵攻していたのだが
あの戦い以降、誰とも出会わない。
それどころか、魔素が濃くなり、
迷わされ、何度も、同じ道を、歩かされていた。
「小賢しい真似を・・・・・
こんなことをするのは、きっと、あいつらだ」
アンジェリクの脳裏に浮かぶのは、精霊たちの姿。
何処に隠れているのかはわからないが、
確かに、これは精霊の仕業だった。
一方、精霊から、エンデが消えたと報告を受けたルンは、
焦ることなく、こう告げていたのだ。
「あの子のことは、大丈夫だから
今は時間を稼ぐのよ」
その言葉に、精霊達は従うが
不安を持つ者もいる。
それは、マリオンを筆頭に、エンデの仲間たちだ。
「ルン、エンデは?」
「大丈夫よ。
あの子は、色々と知らなければならないことがあるのよ。
だから、今は、離れているだけ。
何も心配いらないわ。
私を信じて」
ルンの表情と態度から、
エブリンもマリオン達も、
エンデのことは、ルンに任せることにして、
今、自分ができることに専念することにした。
彼らのできること。
それは、城を守ること。
お互い、自身ができることに全力で尽くす。
それしかない。
皆が、再び配置に就こうとしているところに
戦っていた者達が帰ってきたのだ。
「おう、勝ったぜ!」
そう告げて、姿を見せるガリウス。
その後ろには、ツベッシュの姿もある。
天使を倒したとの報告に、皆が笑みを浮かべていると
今度は、両手に花の状態で、マリウルも姿を見せた。
「なんか、ガリウスとは、えらい違いね」
「ハハハ・・・」
「でも、その様子だと・・・」
「ああ、勝ったよ」
当然、このことは、
各場所に、精霊を配置しているルンは知っていたが
場を濁すようなことはせず、
今は、この状況を楽しんでいると、
いつの間にか、ゴージアも帰ってきており
あることを口にする。
「残るは、若様だけですね」
「そうね・・・」
心配はないと言われていても
完全に、不安が拭える筈がない。
一瞬曇ったエブリンの表情を、ゴージアは、見逃さない。
「エブリン様、若様は、何処に?」
「そ、それは・・・」
ゴージアの雰囲気が変わる。
「若様に、何かあったというのですか!」
「ゴージア、落ち着いて!」
慌てて口を挿んだルンに、ゴージアの視線が
突き刺さる。
「ルン様は、ご存じのようですね」
隠す必要はない。
「ええ、あの子がいるのは、嘆きの沼よ」
「そうですか・・・・・わかりました」
ゴージアは、それだけ伝えると
部屋を、出て行こうとする。
「ちょっと、何処に行くのよ?」
「執事であるこの私の行き先など、1つしかありません」
そう言い残し、ゴージアは、部屋を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます