第231話サラーバ再び7

シルダを置いて、侵攻してきた兵士達の前に、立ち塞がる2つの影。



1人は、ゴスロリ服を着た女性。


そしてもう1人は、ボンテージ姿の女性。


「おい、なんだよあれは?」


思わず、兵士達の足が止まる。


「2人か・・・・・なかなかいい女だな」


 「それなら、捕らえて、奴隷にしようぜ」


誰かが呟いた言葉に従い、ボンテージ姿の女性【クアトラ】に

群がるように襲い掛かる兵士達。


それを見て、ゴスロリ服の女性【アルメディア】が、眉を顰める。


「どうして、そっちばかりに行くのよ・・・・・」


「ふふふ・・・・やっぱり、私の方が魅力的みたいね」



勝ち誇ったように告げるクアトラに

視線を合わせず、否定の言葉を投げかけるアルメディア。


「何を言ってるのよ、

 あいつらに見る目が無いだけ。


 それか、貴方の方が、私より弱く見えたのよ」


「私の方が弱い?

 どうして、そうなるのよ!」


「当然でしょ。

 高貴なオーラを放つこの私に、畏怖の念を抱いたのだから仕方ないわ」


「どこに畏怖の念を抱く要素があるのよ・・・・・

 どこからどう見ても、ただの『ロリババア』じゃない」


「!!!」


「あ、貴方、言ってはならないことを口にしたわね・・・・・」



「別にいいじゃないの。


 300歳になっても、そんな恰好をしているのだから

 『ロリババア』って言われても仕方がないでしょ」


「あなた、本気で私を怒らせたいわけ?」


「フフフ・・・それは、どうかしら?」


睨みあうアルメディアとクアトラ。


そんな険悪な雰囲気の2人の前に、もう1人の悪魔が姿を見せる。


彼の名は、【コーラル】。


立場的に、2人の上司に当たる存在。


コーラルは、間に割って入った。


「お2人さん、喧嘩なら後にして下さい。


 敵が目の前まで来ていますよ、ほら」


指を差した方向には、兵士たちの姿があった。


「さっさと片付けてください」


「そうだったわ・・・・」


「仕方ないわね」


3人は、それぞれの得意な魔法や技で、次々に、兵士達を屠ってゆく。


そして、瞬く間に、全滅へと導いた。


呆気なく、終わったしまったことに

思わず、溜息を吐くアルメディア。


「ふんっ!


 面白くも、なんとも無かったわ」


「フフフ・・・人族に、それを求めるぅ?」


「アハハ・・・・任務は終えたのですから

 そろそろ、戻りましょう」


コーラルは2人を引き連れ、城へと引き上げた。



残るは、エンデとマリウルの2組。


その内の1組、マリウルは、メイドの3人と共に

天使達が、侵攻してくるであろう方向に向かって歩いていた。


先頭にマリウル。


その後ろに、いつもは、メイド姿の3人がいるが

今日は、メイド姿ではない。


エルドラ、ウォーネ、オクトネも

それぞれに違う格好をしていた。


だが、その姿は、どう見ても戦闘に適しているとは思えない。


何故か、3人とも、化粧をし、ドレスで着飾っているのだ。


「・・・・・君たち、そのドレス。


 汚れない?」


「ご心配下さるなんて、

 マリウル様は、本当にお優しいですね・・・・フフフ・・・・」


エルドラは、笑顔でマリウルの右腕に抱き着く。


「ちょっと!

 貴方だけ、ずるいわよ!」


引き剝がそうとするウォーネ。


隙を狙い、空いていた左腕に抱き着くオクトネ。


「な!

 あなたまで!!!」


取り残されたウォーネは、恨めしそうな顔で2人を睨む。


「これは協定違反よ!

 それ相応の対価を!」


「仕方ないわね、わかったわよ。


 後で交代するわ」


不満だが、仕方なく了承をしたエルドラ。


その時、マリウルは、会話に出てきた怪しい言葉を、聞き逃さなかった。


「あの、『協定違反』って何?」


「何でも、ありませんわ」


「ええ、なんでも・・・・・フフフ・・・」


「些末なことです。 


 お気になさらず」


気にならない筈がない。


口を紡いだ3人に、もう一度、問いかけようとした時、

三又の槍が飛んでくる。



驚きはしたが

4人は、あっさりと回避した。


「現れたか・・・・・」


マリウルに、緊張が走る。


4人の前に立ちはだかったのは、天使のドットム。


「本当に、悪魔共の考えていることは、よくわからんな。


 貴様らは、ここが戦場と知って、そのような格好なのか!」


「それは、本人達に、聞いた方が・・・」


マリオンの視線の先には、エルドラ、ウォーネ、オクトネの3人がいるが

何かおかしなことでも?といった雰囲気を醸し出しており

ドットムの問いに関しても、疑問など持たず返答する。


「あら、何かおかしなことでも?

 貴方達、天使族も、これより派手なチャラチャラした衣装で

 戦っているではありませんか」


「ああ・・・確かにあれは、派手ね」


「ええ、まるで、成金趣味のお嬢様って感じ」


小バカにした3人の言葉に、ドットムが、怒りの表情へと変わり始める。


「おまえら・・・調子に乗るなよ・・・」


こぶしを握り締めるドットムに、

エルドラが、追撃の言葉を放つ。


「天使って、普段、幸福とか、恋愛を応援する立場よね?」


「何が言いたい?」


「貴方、天使のくせに、空気が読めないのですか?」


「は?」


「折角、デートを楽しんでおりましたのに・・・・・愚鈍な奴・・・・・」


「で、デートだと!」


「ええ、天使の侵攻なんて、二の次。

 

 私達の目的は、マリオン様とお近づきになる事。


 それなのに、のこのこと出てきて、邪魔をするなんて

 本当に、空気が、読めないのね」


「ぐぬぬぬ・・・・・ふざけおって

 貴様らは、絶対に、生きては返さぬ!」



ドットムが手を伸ばすと、

そこに浮かび上がるのは、『嫉妬』の剣。


「貴様ら、この私を侮辱し、本気で怒らせたこと

 後悔しながら、消え失せろ」


剣を垂直に構え、召喚の呪文を唱える。


『我の呼び掛けに応じ、姿を現せ ドラゴンフライ!』


呪文を唱え終えると、剣が消え

ブンブンと羽の羽ばたくような音が響いた。


「これで貴様らも終わりだぁ!」


上空に姿を見せるドラゴンフライ。


しかも、1匹だけではない。


数十匹のドラゴンフライが、マリウル達を捉えている。


「くっ・・・・・」


空を飛ぶドラゴンフライ相手に、手立てがない。


マリウルは、そう思った。


しかし・・・・・


「あんな羽虫如き、何匹いようと問題ありません」


オクトネは言い切った。


そして、手には、普段使っているハエ叩き。


「流石に、それでは・・・・・」


「いえ、これで十分です」


そう言い終えると同時に、駆け出した。


裾の長いドレスを着ているとは思えないほど、素早く動き、

タイミングを見計らって、空へと飛びあがると

ドラゴンフライが、尻尾の先に生えた毒針で、オクトネを狙った。


だが、その毒針が届くことはなかった。


魔力を込めたハエ叩きで、

ドラゴンフライの頭部を、一撃で破壊したのだ。


「え・・・・・」


唖然とするマリウル。


襲い掛かるたびに、頭部を粉砕されてゆくドラゴンフライ。


オクトネが持っているのは、槍でも剣でもない。


ハエ叩きだ。


その有り得ない光景に、なっ・・・と小さく吐いたドットム。


呆然と見上げていた為、隙だらけになっている。


そんなチャンスを、ウォーネは見逃さない。


足音を立てず、背後に回り込むと

ワイヤーのような物を首に巻き付けた。


『うぐっ!』


息が出来ず、苦しそうな声を上げるドットムに

ウォーネは、小声で話しかける。


「天使のくせに、人の恋路の邪魔をするなんて・・・・下衆の極みです」


言い終えると、ワイヤーに力を込めて、ドットムの首を落とした。


ウォーネと目が合うマリウル。


思わず感嘆の声が漏れそうになる。


それを見越してなのか、笑顔でカーテシーを行うウォーネ。


戦場においても、凛とした佇まいに、

見惚れてしまいそうになるマリウルに、エルドラが話しかける。



「人の身に、我が身を映した下級の天使なんて、こんなものです。


 それよりも、マリウル様、まだ終わっておりませんよ」


確かにそうだ。


まだ、ドットムが連れてきた兵士達が残っている。


「そうでしたね。


 では、行きましょう」


「はい、お供致します」



兵士軍に向かって駆け出すマリウル。


その横を並走するエルドラ。


2人が、兵士の群れに突っ込むと同時に

手の空いたオクトネとウォーネも参加する。


縦横無尽に駆け回る4人。


あちらこちらで、叫び声と血飛沫が上がる。


ドットムの死に動揺した兵士達に成す術はない。


瞬く間に殲滅され、戦いは終わった。

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