第230話 サラーバ再び6

セルマルが倒れると、

エイトヘッド サーペントの姿も消え

元の『暴食』と呼ばれていた剣へと戻るが

バーサーカーと化した兵士達は、

未だ、暴れまわっていた。


しかし、

その戦いにツベッシュとガリウス、

それに、アンデットオオトカゲが参戦すると、

あっという間に決着がつく。


「私たちの仕事は、終わりですね。


 それでは、一旦、城に戻りましょう」



ツベッシュは、そう言って歩き出したところで

足元に転がっている『暴食』の剣に、気が付いた。


「おや、これは・・・・・」


拾い上げ、『フム』と剣を眺めた後


何か思いついたのか、剣をガリウスに向かって投げた。



「ガリウス、この剣は、貴方に差し上げましょう。


 上手く、扱ってみなさい」



放り投げられた剣を受け取るガリウスだったが、

握った途端に、体から何かが吸い取られる。


「うぐっ!」


慌てて手放すと、その状況を見て

思わず、笑みを浮かべたツベッシュが

言い忘れていた事を告げた。


「あっ!そうそう。


 その剣は、魔力を吸い取り、あの化け物を召喚するようです。


 頑張って、使いこなしてくださいね」


「はぁぁぁ?

 そんなもん、俺が使って大丈夫なのかよ?」


「さぁ?」


「おい・・・・・」


「まぁ、扱えるように私が鍛えますので、ご安心を」


数日前から、指導を受けているガリウスだったが、

その言葉には、恐怖しかない。


──安心できるかよ・・・・・

   これ以上厳しくなったら、どうなるんだよ・・・・・


ため息を吐くガリウスの肩を『ポンッ!』と叩いたツベッシュは

ガリウスが手放した暴食の剣を拾い上げると、

そのまま、城に向かって歩き出した。





セルマルとの闘いに決着をつける少し前の事。


別の場所で、新たな戦いが始まっていた。


「私の記憶が確かなら、貴方はベーゼの配下だった筈?」


「ええ、間違いございません。


 ベーゼ様の下で、執事を務めておりました。


 ですが、今は、若様の執事でございます」


「若様?」


「はい、ベーゼ様とノワール様の忘れ形見ともいえるエンデ様の事です」


「魔王ベーゼとノワールの子だと・・・・」


驚愕するような事実を知ったシルダ。


しかし、疑問が残る。


「おい、あの2人は、同じ魔族に討たれた筈。


 そう聞いているのだが?」


「確かに、仰る通りですが、

 それには色々と、事情がございますので・・・

 まぁ、これ以上は、話すつもりは、ありません」


「そうか、ならば、力づくで、口を開かせてやろう」


本来なら、ここまでの情報だけでも持ち帰ることがベストだが、

シルダは、そこまで考えが及ばなかった。


その代わり、よからぬ考えが脳裏に浮かんだ。


──こいつを倒し、その若様というべき

   エンデヴァイスを倒せば、私の名声も上がる筈だ・・・・・


思わず、笑みが零れる。


「ここで貴様を屠る。


 その後は、その若様を屠ってやろうではないか」


その言葉に、ゴージアの目つきが変わる。


「若様を屠る・・・・・そうですか、貴方の考えは、よくわかりました。


 ならば、それ相応の対価を払っていただきましょう」


「対価を払わせるだと!

  この、腐れ悪魔がぁ!!!」


先陣を切って、襲い掛かるシルダ。


まだ、距離は開いているが、迷うことなく『傲慢』の剣を振り下ろすと

風の刃のような飛び出し、ゴージアに、襲い掛かる。


「とっととくたばりやがれ!」


あと少しで、当たると思われたが

ゴージアは、あっさりと躱してしまった。


「なかなかの威力でしたが、

 当たらなければ、どうということはありません」


「・・・・・それは、どうかな?」


その言葉の通り、

躱された風の刃は、ライオンのような聖獣へと姿を変えて

再び、ゴージアに迫った。


「さぁ、ショータイムの始まりです。


 何時まで逃げ延びる事が出来るのか、見物ですね」


風の刃から現れた2頭のライオンは、縦横無尽に駆け回り

隙を見つけては、ゴージアに襲い掛かる。


防戦一方のゴージア。


その様子を見ていたシルダは、兵士達に新たな指示を送った。



「ここは、私1人で十分です。


 貴方達は、こ奴らの隠れ家を探し出し、隠れている悪魔どもを始末せよ!」



戦闘を優位に進めている事で、兵士達の士気も上がり、

雄叫びを上げながら再び進軍を開始した。


だが、ゴージアは、その進行を横目で見るだけで

止めようとする素振りすら見せないことに

シルダは、『止める余裕がない』と判断し、笑みを漏らす。


「ハハハ・・・残念だったな。


 これで、貴様の仲間も、おしまいだ」


高みの見物を決めこみながら、話しかけてくるシルダだが

ゴージアは、その言葉にも答えず、

ライオンのような成獣の攻撃を躱し続けている。


だが・・・・・


兵士達の姿が見えなくなると、ゴージアの動きが変わった。


突如、反撃に出たのだ。


両側から牙を剝き、襲い掛かる2頭のライオンのような成獣の顔を掴むと

そのまま地面に叩きつけた。


爆音とともに、地面に頭がめり込む。


その光景に、シルダも驚きが隠せない。


「どういう事だ・・・・・・」


動きを止めた聖獣のようなライオンを放置して

執事服に付いた埃を、パンパンと払う。


「流石に私でも、複数の人間から、同時に魔法を使われると、

 少々厄介ですから・・・・・」


「もしかして、貴様は最初から・・・・・」


「ええ、この程度の獣、何時でも対処は可能ですよ。


 ですが、先ほども申し上げましたが・・・・・」


怒りを露わに、言葉を遮るシルダ。


「ふざけやがって・・・・・

 貴様は、遊んでいたとでも言うのか!」


「いえいえ、遊んでいたわけではありません。


 ただ、こちらにも事情というものもございますので」


「事情だと?

 そんなもの知るか!


 いいだろう、貴様は、この私、自ら、屠ってやる!」


突如、動き出したシルダの手には、

新たな剣が握られており、

勢いに任せ、ゴージアに斬りかかる。


しかし、2頭の聖獣の攻撃をも躱すゴージアが

シルダの攻撃を受ける筈が無い。


躱すと同時に、一撃を加え、ジルダを吹き飛ばす。


家屋に衝突したシルダは、そのまま崩壊に巻き込まれ

完全に埋もれてしまったが、

この程度で、天使が、やられる筈が無い。


崩壊した家屋から、姿を見せるシルダ。


「貴様は、絶対に許さぬぞ・・・」


肩で息をするシルダだが、ゴージアからは、視線を外さない。


「流石に、天使だけあって、体は頑丈なようですね」


「ふざけたことを・・・・・

 この程度の攻撃で、天使族である我が

 終わる筈がないことなど、貴様も理解しているからこそ

 近づいて来なかったのだろう」


「そうかもしれませんね」


「クッ・・・その舐めた態度・・・貴様は絶対に、許さぬぞぉぉぉぉぉ!!!」


再び、繰り返し、攻撃を仕掛けたシルダだが、

そのすべてを躱され、反撃を喰らい、

今では、全身に傷を負い、ボロボロの状態になっていた。


そんな状態のシルダだが

撤退するという選択肢は持ち合わせていない。


「貴様が強いことは認めてやる。


 だが、このままで終わるわけにはいかない!」




シルダは、呪文を唱えながらゴージアに突撃する。


彼女が唱えたのは、魔力を暴走させる呪文。


所謂『自爆攻撃』。


光り輝くシルダの体。


「貴様も道連れだぁぁぁぁぁぁ!!!」


大爆発を引き起こす程の威力を持つ自爆攻撃。


近距離で放たれては、ゴージアとて、ただでは済まない。


「そうきましたか・・・これは、流石にまずいですね」


ゴージアが指をパチン!と鳴らした。


すると、ゴージアの姿が地中へと消え始める。


「なっ!

 貴様、まだそんな・・・・・」


1人、取り残されてしまったシルダは

必死に、辺りを見渡すが

ゴージアの姿はどこにもない。


その間にも暴走は進み、光は、輝きを増す。


「何処だ!

 卑怯者!

 出てこい!

 ゴージアァァァァァァァ!!!」


叫び声の後、爆音が響き渡り、シルダは消滅した。


一時の静けさの後、地中から、姿を現すゴージア。


再度、服の埃を掃うと

空を見上げた。


「さて、あちらは、上手くやっているでしょうか?」


兵士達が進軍して行った方向を見ながら、そう呟くゴージアだった。


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