第227話サラーバ再び3
暗黒に包まれた街の入り口ともいえるべき
砂漠との境界に到着した天使率いる連合軍。
薄暗闇の向こうには、微かに街らしきものが見える。
「あそこに、奴がいるのか・・・・・」
「そうだな。
だが、忘れるな。
我らの目的は・・・・・」
「わかっているさ」
「では、進もうか」
ウルザースの言葉に従い
オキシーヌも、薄暗い闇の中へと
進み始めるが、数歩進んだところで
足を止めた。
「やはり、これは瘴気か?」
「だが、何かが違うような・・・」
オキシーヌは、自身の背後にいる兵士達を見た。
魔界の瘴気ならば、人族である彼らが
ここにいれる筈が無い。
「たしかに、兵達にも、問題ないということは
これは、魔界の瘴気に似ているが
非なるものということだな」
「ああ、こちらには、都合が良いことだが・・・」
「まぁ、それも、進めばわかるだろう」
薄暗い闇の中に入ったからといって
街に着いたわけではない。
まだ少し、街までは、距離がある。
オキシーヌとウルザースを先頭に
天使軍は、再び、進み始めた瞬間
足元の砂が動いた。
そう、この砂漠には、サンドワームとポイズンスコーピオンがいる。
今まで、出会わなかった方が、不思議なことだったのだ。
姿を現したサンドワームだが、
それは、1体ではない。
天使軍を囲むように、数体まとめて出現したのだ。
「陣形を組め!」
「戦闘態勢!」
天使軍の兵士達は、3人が一組となり
サンドワームと向き合う。
だが、ここは、薄暗い闇の中。
視界は、良いとは言えない。
威嚇するように、奇妙な音を上げるサンドワーム達。
それに対抗するように、身構えていた天使軍だったが
突然、1人の兵士が、悲鳴ともとれる短い声を上げた。
『ぎゃぁ!』
悲鳴を上げた兵士は、その場に倒れる。
「おい、しっかりしろ!」
同じ組の兵士が、心配そうに倒れた兵士を見ると
そこには、ポイズンスコーピオンがいたのだ。
『!!!』
「気を付けろ!
足元にも、魔物がいるぞ!」
兵士の叫びは、皆にも届いたが
もう遅い。
天使軍の足元の砂から
ポイズンスコーピオンが、湧くように姿を現し始める。
──このままでは、全滅する・・・・・
ウルザースは、覚悟を決め、指示を出した。
「全員、街に向かって、全力で走れ!
道は、我らが開く!」
ウルザースとオキシーヌの2人は、
街に一番近いサンドワームに攻撃を仕掛ける。
天使2人の攻撃を、サンドワームが
耐えられるはずもなく、
あっさりと倒された。
「皆共、こっちだ!
急げ!」
声の方に向かって、走る兵士達。
その者達に、襲い掛かるサンドワームとポイズンスコーピオン。
必死に走り続け、街へと到着した者もいたが
大半の兵士が、サンドワームとポイズンスコーピオンの前に
命を落とすことになった。
だが、足を止めるわけにはいかない。
街に着いた天使軍の生き残り達は、
ウルザースの指示により、
街の中を、進み始めた。
すると、あることに気付く。
廃墟と思っていたが
建物は、修復されており
どう見ても、廃墟とは思えない。
「やはりおかしい・・・・・
だが、これで、確証を得たようなものだ。
こんなことをするのは、奴しかいないだろう」
「たしかに、そうかもしれないが、
誰もいないというのは、どういうことだ?」
「わからん。
罠かも知れないが、進むしかない」
「ああ・・・」
警戒を強めながらも、
ウルザースとオキシーヌは、兵士達を連れて
街を、探索する。
しかし、何時まで経っても、誰一人として見つけることが出来ない。
それどころか、同じ場所を巡っているように思える。
「これはどういうことだ・・・・・」
その事に気が付いたウルザースは、
地面に、印を書き込むと、もう一度進む。
そして、確信する。
「やはり、罠だ。
我らは、同じ場所を巡っていただけだ」
「ちくしょう!
まんまと、だまされたぜ!」
悔しそうな顔をしたオキシーヌだったが
視線を変えたことで、あることに気が付いた。
「兵士の数が・・・減っているぞ・・・」
わけがわからないまま、数を減らされていたのだ。
思わず、大声で叫ぶオキシーヌ。
「卑怯だぞ!
姿を、見せやがれ!」
周りの物に当たり、感情を露にしているオキシーヌに対して
ウルザースは、体を押さえて、説き伏せる。
「落ち着け。
焦っても仕方がない。
それに、もうすぐ日が落ちるようだ」
確かに、今まで以上に、暗闇が広がっている現状に
空を見上げてみると、
薄暗い中でも、見えていた太陽が
もう、沈みはじめていた。
「今、動くのは、危険だ。
明日まで待ってから、もう一度、探索しよう」
「なっ!
そんな、悠長なことを言っていていいのか!
ウルザース、貴様は、何とも思わないのか!」
「そんなわけがない!
だが、明日まで待つんだ。
兵士達を見てみろ!」
ウルザースの言葉に、兵士達を見てみると
疲労の色が濃く出ており、中には
武器を杖代わりにしている者までいた。
「明日、朝一で、もう一度探索にでる。
だが、今は、休むことを優先しよう」
「そうだな・・・悪かった」
「別に、気にしなくても良い。
私も、気持ちは同じなのだから」
「そうだったな・・・」
今の現状、逃げる事も出来ない。
その為、ウルザースは、空き家を利用し
数組に分けて、休憩をとることにした。
勿論、見張りもつける。
各々、指示に従い、空き家に入ると
安堵したように、腰を下ろした。
疲労からか、自然と瞼が重くなる兵士達。
次々と、夢の中へと誘われた。
そして、翌日・・・・・
オキシーヌより先に、ウルザースが目を覚ます。
「いつの間に、眠っていたのだ?」
驚きながらも、辺りを見渡すと
少し離れたところで、オキシーヌが眠っていた。
「おい、オキシーヌ、起きろ!」
揺すられたオキシーヌも、目を覚ましと同時に
自身が眠っていたことに驚きを、隠せない。
「眠っていただと・・・
これは・・・どういうことだ?
もしかして・・・・・」
嫌な考えが、脳裏を過り、空き家から飛び出すと
兵士達のもとへと向かった。
そして、休んでいる筈の空き家の扉を開けてみると
悪い予感が、現実となる。
そこには、誰もいなかったのだ。
「おい・・・」
オキシーヌが、次々に扉を開けるが
何処にも、兵士達の姿はなかった。
「奴らは、いったい、何をしたのだ!」
天使達には、わからないが
エンデにとっては、至って簡単な作戦。
魔界から、夢魔を呼び寄せ、
睡眠の術を使ってもらっただけなのだ。
あとは、簡単。
眠った者を運び出しただけ。
勿論、生きてはいない。
彼らは、この街の再建に携わった者達への褒賞として
既に、引き渡している。
訳の分からないまま壊滅させられた天使軍。
残っているのは、
天使族のウルザースとオキシーヌのみ。
そんな2人の視界の先に、
こちらに向かってくる
3人の姿が、映った。
「やっと、おでましか・・・」
「オキシーヌよ、気を抜くな」
「ああ、わかっている」
近づいて来る者の正体、
それは、エンデとダバンとゴージアだった。
「若様、本当に、これで良かったのですか?」
「うん、色々、聞きたいこともあるから」
「確かに、そうですが、
なにも、若様が、来ることはなかったかと・・・」
「俺も、そう思うぜ。
ここは、エンデでなくても、良かっただろ」
「全く、仰る通りです。
戦いたいと申し出た者達が、あんなに多くいたのに
わざわざ、若様が・・・」
小言を言われながらも、進んでいると
とうとう、天使達の目の前に、到着した。
「お説教はあとにして、今は、目の前の敵に集中しようよ」
「そうですな」
「ああ、任せろ」
3人が、2人の前で止まると
ウルザースが、
睨みつけながら、問いかけてくる。
「貴様が、エンデ ヴァイスか?」
「だとしたら?」
素っ気なく答えたエンデに、
オキシーヌが、有無を言わさず
襲い掛かった。
「貴様は、この私が屠る!」
一気に間合いを詰めたオキシーヌの手には、
何処から取り出したのか
槍を持っていた。
その槍で、エンデの心臓を狙うが
あと少しのところで、ゴージアによって止められた。
しかも、指2本だけで、止めてみせた。
オキシーヌの本気の一撃を、
たった2本の指で受け止めたゴージアが、告げる。
「若様を、狙うとは・・・・・万死に値します」
ゴージアは、槍を掴みなおすと、オキシーヌを引き寄せた。
強引に引っ張られ、体勢を崩したオキシーヌは、
ゴージアの手刀によって心臓を貫かれる。
『ぐはっ』
貫いた手を、引き戻すと
ゴージアの手には、オキシーヌの心臓が握られていた。
体に穴を開けられたまま、地面に叩きつけられたオキシーヌ。
もう、2度と動くことは無い。
その光景を呆然と見ているしかなかったウルザース。
「一撃だと・・・・・」
ゴージアの視線は、次の獲物となるウルザースを捉えていると
ダバンが、声をかける。
「出来れば、『生け捕り』じゃなかったのかよ?」
「確かに、そうでした。
ですが、若様を狙ったとなれば
話は、別です。
生かしておく必要はありません」
「確かに、それには同意するぜ」
「ええ、ですから、
次の天使は、出来るだけ殺さないようにしてください」
「結局、面倒なことを、俺に押し付けるのかよ!」
「嫌なら、結構。
私が、戦いましょう」
「まてまて、嫌とは言っていないぜ。
ここは、俺に任せろよ」
ダバンが、ウルザースの前に立つ。
「待たせたな。
かかってこいよ」
「ふっ、天使でも、悪魔でもない貴様が
この私の相手をするだと・・・・・
まぁいい。
取り敢えず、名を聞こうか?」
「俺は、ダバン」
「私は、ウルザース。
貴様を屠る者の名だ。
そしてその後は・・・・・」
ダバンから、視線を外したウルザース。
その先にいたゴージアが告げる。
「ああ、私は、ゴージアと申します。
若様の執事でございます」
ゴージアの名を聞き、ウルザースが驚きの表情を見せた。
「ゴージアだと・・・・・
たしか、魔王ベーゼに仕えていた執事も・・・・・」
「私の事を、知っておいでとは・・・・・
もしかして、貴方もノワール様を追い詰めた
天使の1人という事ですかな?」
「ふんっ!
ノワールだと・・・・・
あんな悪魔と契りを交わす裏切り者のことなど、知らぬわ!」
「ほう、ベーゼ様の愛したお方を愚弄するとは、死にたいのですか?」
「何を言う。
私は、オキシーヌとは違う。
やれるものなら、やってみるがいい。
貴様など、返り討ちにしてくれるわ!」
「そうですか・・・・・」
ゴージアの姿が消える。
そして、次に姿を見せたのは、ウルザースの背後だった。
「私の姿を追えないとは・・・・・
下級の天使ですね」
「貴様!」
振り返ろうとしたウルザースだが、
もう遅い。
ゴージアの手刀が、頚椎を捉えていた。
鈍い音と共に、首を破壊され
血を吐き出すウルザース。
首の骨が折れており、治癒の魔法を使わなければ、
命が失われる事は間違い無い。
その為、
必死に呪文を唱えようとするウルザースだが、
声を出せる状態ではなかった。
だが、天使には、声を出さなくても
魔法が使える者もいる。
ウルザースも、その1人。
血を吐きながらも、
まだ、動かすことの出来る手に、
魔力を溜めにかかった。
──諦めてたまるか!・・・・・
最後の力を振り絞すウルザースだが
それを、嘲笑うかのように、ゴージアが告げる。
「残念ですが、そのような行為を、
許すとお思いですか?」
言葉と同時に、懐から、苦無に似た武器を取り出すと
その武器を、ウルザースの腕に、突き刺した。
「これは、魔力の流れを断ち切ることの出来る呪文を施した武器です」
その言葉通り、掌に溜めていた魔力が
絶望したかのように、ウルザースの心臓も止まった。
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