第226話サラーバ再び2

「ディアーヌさん、お久しぶりです」


「若様、敬称は必要御座いません。


 ディアーヌとお呼びください。


 それから、後ろに控えて要ります者たちは、ベーゼ様の配下であり

 この地に、若様の城を築くために、お手伝いをさせて頂く者たちです」


「城?・・・・・」


「はい、ゴージア様より、

 この地で、身勝手な天使どもを、殲滅させるとお聞き致しました。


 その為には、確固たる城が必要かと存じますので・・・・・」


確かに一理あるが、城を築くことになるとは、思いもよらなかった。


エンデがゴージアの顔を見ると、笑顔で頷いている。


──決定事項なんだ・・・・・


「わかった。


 ディアーヌに任せるよ」


「有難うございます」


ディアーヌは、背後に控えていた者達に

指示を出し始めた。


それに従い、悪魔たちが動き出す。


その者達を見送ったエンデは、仲間と共に

ゴージアの案内に従い、当分の住処とする

廃墟と化している屋敷へと向かった。



仮宿に入り、一段落した後

ふと、天使達の動向が気になる。


「天使達の軍は、何処にいるんだろう?」


ガリウスは、『心配ない』と言わんばかりに口を開く。


「そのことなら、斥候を放っておいた。


 奴らが、 近くの街まで来れば、必ず連絡が入る手筈を整えておいたぜ」



「なら、そっちは任せても大丈夫だね。


 後は、城の事だけど・・・・・」


ゴージアが答える。


「そちらは、お任せください」


「わかった」



翌日、エンデはゴージアと共に、城の予定地に赴くと、

既に地ならしを終えており、

上物うわものの建設に取り掛かっていた。


「もうここまで・・・・・」


「はい、魔法を使えば、『あっ』という間に完成いたします」


「そうなんだ・・・・・それで、あれは?」


エンデの目に映るのは、城の建設と同時に行われている住宅の修復。


崩壊しつつあった住居にも、手を加え、次々と建築されている。


「あれは、若様の配下となった者達の住居で御座います。


 黒い霧で覆われたこの地なら、彼らでも、不自由なく暮らせますので」


「確かに、そうだけど・・・・・」


「何か、ご不安でも?」


「ううん、無いよ。


 ただ、皆、ここに住むことを了承しているのかなって」



「その点は、ご安心ください。


 この地は、魔界にも通じておりますし、

 ベーゼ様のご子息に、お仕えできることを、

一同、この上なく嬉しく思っております」



「わかった。


 皆に、これからもよろしくと伝えてください」



「有難きお言葉。


 感謝致します」



この後、エンデとゴージアは、街の見回りへと出向いた。


それから7日後・・・


廃墟と化していた街は、悪魔の住む街として

復活を遂げていた。



同時に城も、形を成すところまで完成しており

そろそろエンデ達も、

仮の住まいから、城への引っ越しを検討し始めていた。


そんな折、斥候に出ていたガリウスの配下が戻って来る。


一同は、既に完成していた謁見の間に集まり


斥候からの報告を受ける。


玉座に座っているのは、エンデ。


本来、玉座に座るのは、

父親であるマリオンヴァイスだと、エンデは思っていた。


しかし、マリオンは、アンドリウス王国で、子爵の地位を持つ。


それに、この地に赴くにあたり、あくまでも『調査』という名目なので

城を構える訳にはいかないのだ。


その為、この地の領主は、エンデに決定した。


これには、悪魔達も納得するだろうとのマリオンの考えも含んでいる。


居心地悪そうに、玉座に腰を掛けているエンデの前で、

斥候に出ていた兵士が報告を始めた。



「ご報告申し上げます。


 サラーバの砂漠より北にて

 天使の連合軍と思われる軍勢が姿を現しました」


宰相代行のマリウルが答える。


「そうか。


 到着までの予定は?」


「あと4日程かと」


「わかった」


思ったよりも,

早く見つかったことに、驚きはしたが

既に、準備は整っていた。


「僕達も、始めようか」


エンデの言葉に従い、それぞれが準備の為

謁見の間から、出て行った。



そして4日後・・・



天使率いる連合軍の先行部隊が、

サラーバの砂漠の入り口に立った。


だが、そこで目にしたのは、

数か月前、アガサ打倒の為に、

アンドリウス軍が、見た光景と、同じものだった。


「なんだ、あれは雲か?」


サラーバの一部が、黒い雲に覆われており

まさしく異様とも思える光景が、目の先に見えている。


それは、遠目にでもわかる程広い。


「あそこが、悪魔の住処・・・・・」


「このまま、我らで手柄を上げるか?」


天使【オキシーヌ】の発言に、

もう一人の天使【ウルザース】が

笑みを浮かべて、答える。


「フフフ・・・それは、良い提案だな。


 だが、我らの役目は、あくまでも先行の調査隊であり

 アンジェリク様が到着するまでの時間稼ぎ。


 無理な攻撃を仕掛ける必要はないぞ」

 

「そんなことは、わかっている。


 だが、奴らが弱すぎた場合、倒してしまっても構わないのだろ」


「まぁ、その通りだが・・・・」


ウルザースは、オキシーヌの了解を得たと考え、

エンデを直接葬ろうと、力を漲ぎらせた。


──悪魔の1人や2人。


   この私の敵では無い・・・・・


ウルザースの怪しく光る瞳。


オキシーヌも、その事に気が付いているが、

これ以上、何を言っても仕方がないと諦め、

砂漠へと、足を踏み入れた。



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