第222話エルマ再び 3
キサラの願いを引き受けたエルマは、
ジルフと共に、子供たちの世話を始めていた。
力仕事や、農業はジルフに任せ、
エルマは、子供たちに足し算、引き算などを教えた。
そんな毎日を送っていたのだが
半年後、この街にも、エンデ討伐の軍が訪れる。
引率する天使は【セリーヌ】で、
100人の兵士を連れていた。
この街に寄ったのは、補給と兵士達の休息の為
セリーヌも、エルマがいるとは思ってもいなかった。
兵士達全員が、街の中に入ると
セリーヌが、声を張り、解散の号令をかける。
「この街で、一時、休息とする。
だが、よく聞け!
貴様らは、国を背負っていることを忘れるな!
いいか、羽目を外し過ぎぬように」
セリーヌの解散の号令の後、
兵士達は、嬉々として歓楽街へと向かう。
しかし、まだ日は暮れておらず、開いている店も疎らだ。
それでも兵士達の足は、止まらない。
そんな兵士達の様子を見て、はぁ~とため息を吐くセリーヌ。
側に控えていたお世話係でもある女性兵士の【ヘルメ】が、
セリーヌに問いかける。
「セリーヌ様、
どうかなされたのですか?」
「いや、大したことではない」
問題ないと言っている割には、セリーヌの表情は優れない。
「何か、お気に障ることでも?」
「ああ・・・・・こんなところで、休息をとる羽目になるとはと思っただけだ」
セリーヌの視線の先には市場。
だが、その先には酒場と娼館。
早い時間だが、ちらほらと、路上で、
客引きをする女性たちの姿が見て取れる。
ヘルメもセリーヌと同じ女性。
ああ・・・・と納得した。
「本当に、愚かだ・・・・・」
セリーヌは、そう言い放つと、歓楽街に背を向けて歩き出した。
後を追うセリーヌ。
そんな2人とは逆に、
大勢の兵士たちが、歓楽街へと向かって歩いているが
歓楽街の手前には、市場がある。
そこには、子供達と一緒に、買い物をするエルマの姿があった。
遅い時間に市場に来ると、安く変える確率が高い。
それを知っているので、毎回、この時間に市場を訪れているのだが
今日に限っては、運が悪かった?としか言いようがない。
『神の軍』と称して、進軍している兵士達は、気が大きくなっており、
道行く人々を、雑に扱い、跳ね除けながら歓楽街へと歩く。
その途中、エルマの手から離れてしまった少年が、
正面から歩いて来た兵士達とすれ違う瞬間、
兵士が、腰に携えていた剣に触れてしまう。
「あっ、ごめんなさい」
透かさず、男の子は、謝罪を口にしたが、
兵士は、男の子の髪を掴み、睨みつけた。
『痛い!』と叫ぶが、
兵士は気にする素振りはない。
それどころか、髪を握っている手に力を込めた。
「貴様、我らの命ともいえる剣に触れるとは、何事だ!」
兵士は、顔を近づけた後、
放り投げるようにして男の子を、突き放す。
そして、男の子が倒れると、
兵士は、再び睨みつけた。
そこに割って入るジルフ。
「おい、それ位で許してくれよ」
「なんだ貴様は?
この俺の邪魔をするというのか?」
矛先をジルフに変え、睨みつける。
仲間の兵士達も、その様子を、ニヤニヤしながら見ていた。
ため息を吐きながらも、
ジルフは、願う。
──このまま黙って引いてくれねぇかな・・・・・・
そうしてくれるのが、1番ありがてぇんだがな・・・・・
ジルフの心配は、兵士達のこと。
これ以上、突っかかってくると
今は、様子を見ているだけのエルマが
黙っている筈が無い。
彼女が本気になれば、大事になり兼ねない。
だからこそ、率先して、前に出たのだ。
しかし、そんなジルフの願いは、兵士達によって砕かれる。
1人の兵士がジルフに詰め寄ると、
それに倣うように、見ていた兵士たちも距離を詰めた。
「おい、貴様は、このガキの知り合いか?
いいか、邪魔をするなら、貴様もどうなっても知らんぞ」
兵士が、脅しをかけてくるが、
元盗賊のジルフが怯えることは無い。
「ああ、わかったから、もう、勘弁してくれねぇか?」
ジルフは、やんわりと謝罪を口にするが
その態度は、兵士の怒りを増すだけだった。
「貴様・・・・・」
ジルフを睨みつけていた兵士が、剣を抜く。
「よく聞け!
我らは、天使様率いる神の軍だ。
その軍に逆らうことは、万死に値する。
覚悟せよ!」
兵士は、躊躇いなく、剣を振り上げた。
──仕方ねぇな・・・・・
ジルフも、背中に携えていた剣を抜く。
あれから、エルマの従者となっているジルフだが、
合間を見ては、エルマに鍛えられていた。
そのおかげで、剣の軌道が、はっきりと見える。
──これで、神の軍だと・・・・・
調子に乗るなよ!・・・・・
ジルフが、兵士の剣を、弾き飛ばした。
その勢いで、尻餅をついた兵士が
声を張り上げる。
「貴様、何をした!」
「何もしてねぇよ。
ただ、弾いただけさ」
「おのれ・・・・・」
この状況に、仲間の兵士達も剣を抜くと
悲鳴を上げながら、
野次馬たちが、蜘蛛の子を散らしたように、逃げ始めると
一瞬にして、この場には、人がいなくなった。
残っているのは、エルマ達と10人程の兵士。
「貴様らは、絶対に許さん・・・」
剣を弾かれた兵士を、仲間の兵士が起き上がらせると
全員が、ジルフに狙いを定めた。
「この人数で、俺の相手をしてくれるのか。
それは、光栄なことだね」
ジルフが、強気な言葉を口にしたとき
エルマが、ジルフの肩を叩く。
「嬢ちゃん・・・」
「ジルフ、貴方は、子供たちを守ってください」
ジルフを押し退ける様に、前に出るエルマ。
「返事は?」
「え・・・はい」
終わったとばかりに、大人しく引き下がるジルフは、
兵士達に憐みの目を兵士に向けるが、彼らは、気付いていない。
舐めた態度で、エルマに接する兵士。
「おい、嬢ちゃんが俺たちの相手をしてくれるのか?」
下卑た笑みを浮かべる兵士。
釣られて、仲間たちも、ニヤニヤと笑みを浮かべていると
1人の兵士が、エルマに歩み寄ろうと、前に進み出た。
「そうだな、取り敢えず、酒に付き合え。
いいか、俺達が良いというまで
帰らさないからな」
そう言って、肩に手を掛けようとした時、
兵士の体が宙に浮く。
何が起こったかわからないまま、
反転し、地面に叩きつけられたのだ。
仲間の兵士達も何が起きたのかわからない。
エルマは、兵士が落とした剣を拾う。
「この剣で、戦えばよいのか・・・・・
ならば、面倒なことは省こう。
まとめて、かかってきなさい」
その言葉と態度に、兵士達の怒りが
頂点に達した。
「小娘が!
調子に乗るなぁぁぁ!!!」
全員で、エルマに襲い掛かる。
だが、エルマが、この程度の敵に、後れを取ることは無い。
1人、2人と、次々に行動不能へと追いやられてゆく。
残るはあと一人。
勝ち目がないことを悟った最後の兵士が
懐から笛を取り出した。
「このままで、済むと思うなよ・・・・・」
そう言い放った後、笛をいた。
『ピィー--』と甲高い音が響き渡ると
何処からともなく、兵士達が姿を見せる。
彼らが最初に目にしたのは、
唸り声をあげ、地面に横たわる仲間の姿。
「おい、これはどういうことだ?」
残された兵士に詰め寄ったのは、部隊長の【ザック】。
「あいつだ、あいつの仕業なんだ」
ザックは、エルマの前に出る。
「悪いが、大人しく来てくれ?
逆らうなら、それなりに痛い目を見てもらうことになる」
ザックの言葉に、怪訝そうな顔をするエルマ。
「そちらから仕掛けて来て、痛い目を見せるとは・・・・・
ふざけたことを言うのですね」
感情が消えたような目で、ザックを見る。
背筋に寒気を感じるザックだが、
部下の手前、逃げることは出来ない。
「それはこれから調べればわかる事だ。
大人しく、ついて来い」
「お断りします。
子供に手を出しておいて、謝罪もなく。
こちらが悪いような扱いに、応じる筈がないでしょう」
「そうか、ならば仕方がない
少々、手荒になるが・・・・・」
『全員、抜剣!』
ザックの言葉に従い、集まっていた兵士達が剣を抜く。
この状況に、1人残っていた兵士が、
勝ち誇ったように声を荒げて叫ぶ。
「これで、貴様たちも終わりだ。
ガキもろとも、葬ってやる」
「子供達もですか・・・・・・」
エルマが、オーラを発した。
「ジルフ、何があっても
子供たちを守りなさい」
「ああ、任せてくれ!」
ジルフは、子供たちを背後に隠した。
それを見届けたエルマは、視線をザックに戻すと同時に、
距離を詰め、一撃を放つ。
訳の分からないまま、二つにされ、宙を舞うことになったザック。
宙を舞った後、地面に叩きつけられると、
何が起こったのかわからず、あ然とする兵士達。
だが、エルマの前で、そんな隙を見せては
死が待っているだけ。
先程以上の速さで、1人、2人と確実に屠ってゆく。
抵抗すら出来ず、次々に倒れて行く兵士達。
全員が倒されるのも時間の問題。
そう思われたが、そこに、騒ぎを聞きつけたセリーヌが姿を見せた。
「落ち着け、全員、その場から動くな!」
セリーヌの声に、兵士のみならず、エルマも動きを止めた。
兵士たちの背後から、前に進み出て来たセリーヌは、
目の前の女性を見て、言葉を失ってしまう。
暫くの沈黙の後、セリーヌが声をかける。
「エルマ・・・・・」
先程までの冷酷な態度から、一変し
笑顔を見せるエルマ。
「セリーヌさん、お久しぶりです」
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