第223話エルマ再び 4
久々の再会に、暫くは、エルマを見ていたセリーヌだったが
エルマの背後にいるジルフと子供たちに気が付いた。
だが、敢えてその事には触れず、エルマを問い質す。
「お前は、ここで何をしているのだ?」
率直に疑問を口にするセリーヌに対して
エンデに敗れたことからの全てを
包み隠さず話した。
「私もその話は聞いていたが・・・・・
まさか、その後、ここで暮らしていたとはな・・・・・」
セリーヌの視線の先には、子供達がいた。
「それに・・・・」
続いて、視線がジルフへと向けられた。
「あんな人族を、旦那に迎えていたとは・・・・・」
「ちょ、ちょっと待って!
旦那って・・・・・」
「え?
違うのか?」
話を聞いていたジルフは、きょとんとした顔で、自身に指を向ける。
「俺が、嬢ちゃんの旦那?」
ジルフの背後に隠れていた子供たちから『旦那コール』が起き始めると、
頭を掻きながら『いや~、俺、旦那だったとは・・・』と照れているジルフ。
誤解を招きそうな事態に、わなわなと震えるエルマの視線は
ジルフへと向けられる。
「死にたいのですか!?」
あながち嘘とは思えないほどの圧に、ジルフは、たじろいだ。
「すいません!
嘘です!
調子に、乗りました!
ごめんなさい」
「・・・・・」
直ぐに否定したことで、
セリーヌも、ジルフが旦那ではないことは、理解した。
筈なのだが・・・・・
「では、後ろの子供たちは、お前たちの子ではないのか?」
「違います!
先程も話した通り、あの子たちは・・・・・」
「わかっている。
冗談だ」
「冗談って・・・・・」
エルマは、思い出す。
──そういえば、セリーヌって、
真顔で、面白くもない冗談を言う
天界での生活を思い出し、
懐かしく思う反面、この子達を、放置することは出来ない。
表情から、なんとなくその事に気が付いたセリーヌ。
「お前は、天界に戻る気はないのか?」
「・・・・・わからないわ」
「そうか・・・
だが、任務は、どうする?
お前には、エンデ ヴァイス討伐の命が
あった筈だが?」
「それは、無理よ。
あの戦いで思い知ったのよ。
確かに、私には、命に代えてでも
あの男を、倒さなければならない使命がある。
ですが、再び、戦いを挑めば、
私は必ず、消滅させられるでしょう。
そうなった時、この子達を、誰が守るというのですか!?」
「言いたいことはわかった。
だが、マリスィ様の命令は絶対だ。
それを、反故にするのならば、
二度と、天界には、戻れないぞ」
エルマの視線が子供たちへと向く。
「・・・・・わかっているわ。
でも、あの子たちを放っておけないの。
私が、この世界に降りて来た時、
この体を差し出したチャコの願いと
この子達を、私に託したキサラの願いが
私をそうさせるの。
私は、人々の上に立ち、
見守ることを
そんな私が、約束を、反故にすることなど出来る筈が無いのよ」
「・・・・そうだな。
天使たるものが、約束を
「ええ」
『わかった』とだけ伝え、セリーヌは、エルマに背を向けると
集まっていた兵士達に告げる。
「聞けぇ!
この者は、我が同胞。
天使族のエルマ。
決して、手を出してはならぬ」
兵士達に、そう伝えてみたものの、
表立って口にはしてないが、
人族の姿のエルマが、天使だとは信じ難いといった表情を浮かべていた。
──我の言葉を信じぬとは、愚鈍な奴らめ・・・・・
仕方がない・・・・・
セリーヌが、振り返る。
「エルマよ、元の姿に戻ってはくれまいか?」
子供達の前で、天使の姿に戻る事には、抵抗があった。
それに、この街で暮らしてゆく上で、問題が生じる可能性もある。
だが、このままでは、子供達にも、危険が及びかねない。
キサラとの約束。
チャコとの約束。
それは、エルマにとって大切なもの。
『子供たちを守る』というキサラとの約束。
また、自身の事ではなく
同じ境遇の者達に、
『たくさんのパンと、温かい寝床を与えて欲しい』と願い
この私に、体を譲ったチャコとの約束。
それを守るために、成すべきこと。
そう考えた時、返事は
「わかったわ」
「なら頼む。
それを見れば、この者達も、手を出す気は失せるだろう」
もっともな言葉に、エルマは頷く。
そして、久しぶりに天使の姿へと変貌してゆく。
突然放たれた光の中、エルマの体に変化が起きる。
エルマの背中から翼が生えると
続いて、身に纏っていた衣装が、
真っ白なローブへと変化したのだ。
その姿は、先程、散っていき
隠れていた民衆をも、呼び寄せた。
人々の口から、感嘆の息が漏れる。
『天使様だ・・・』
『本当に、天使様だ・・・・・』
その場にいた兵士達と、戻って来ていた民衆が、一斉に跪く。
セリーヌが、再び告げる。
「者ども、良いか。
再度伝えるが、二度と手を出してはならぬぞ!」
『はっ!』
兵士達は、地面に転がる死体処理を終えると、
その場から去った。
残っているのは、セリーヌとエルマ。
そして、ジルフと子供達だけ。
一息ついたところで、
もう1度、確認するように、セリーヌが
問いかける。
「エルマよ、私達は、数日、滞在した後
軍を進めるが、
お前は、この地に残るのだな」
「ええ、貴方の足手纏いにはなりたくないし・・・
それに、子供達の事もあるから」
「わかった」
セリーヌは、エルマの意思を尊重した。
「わかった。
だが、もしもの話だが、あのエンデ ヴァイスが、
この地に害を成して来たら
その時はどうする?」
「聞くまでも無いわ。
私の全てを掛けて、子供達を守ります」
「わかった。
最後に、アンジェリクが、お前のことを心配していたから
この街にいることを、私の方から伝えておくぞ」
「ええ、お願いするわ」
「ではな」
セリーヌは、踵を返し、その場を去ってゆく。
見送るエルマは、心の中で、願う。
──どうか、ご無事で・・・・・
あれから3日後・・・・・
セリーヌは、兵を引き連れ、この地から去った。
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