第220話エルマ再び
3日間で、ある程度まで、体力が回復した
ロッグ、ヨード、ルーランの3人は、
ドワード王国の教会に赴いていた。
当然、この国で捕らえられていたことは、秘密にしている。
「このタイミングで、勇者様が3人も訪れるとは、これも神の思し召しでしょうか」
デイドームは、笑顔で3人を出迎えた後、
この教会に滞在しているアンジェリークのもとへと、案内をした。
教会の中庭で、空を見上げていたアンジェリークの前に
勇者達を連れたデイドームが、姿を見せる。
「天使様、本日、3人の勇者がこの地に到着致しましたので
ご挨拶に伺いました」
「そうか」
3人の勇者は、アンジェリークの前で跪く。
「お初にお目にかかります。
天啓を授かりましたロッグで御座います」
ロッグに続き、ヨード、ルーランも挨拶をおこなったのだが
アンジェリクは、3人を眺めた後、とある疑問を口にした。
「お前たちは、本当に、今、王都に着いたのか?」
「はい、その通りで御座いますが・・・」
──衣服が綺麗すぎる・・・・・
顔色も、旅をしていたとは思えないな・・・・・
服も顔も汚れていない。
旅の疲れというものもない。
アンジェリクは、そう感じたが、
その事は、口にしなかった。
「・・・これからの働きに期待する」
『はっ!』
もう、話すことはないとばかりに
アンジェリクは、空へと視線を戻す。
「それでは、失礼いたします」
空気を読み取ったデイドームは、一礼したあと
3人を引き連れて、その場から去った。
そして、辺りに人の気配が無くなると、
アンジェリクは、手に持っていたものを耳に当てて
交信を再開する。
「すまない。
3人の勇者が現れてな」
「アンジェリク様、その者達は、信用しても良いのでしょうか?」
「さあな。
少しでも力になればと思い、7人に力を授けだが、
会ったのは、この3人だけ。
他の者には、誰も会っておらぬのだろ?」
「はい」
「ならば、それだけのこと。
まぁ、一致団結でもして、あの悪魔を追い詰める行動を
とっていたのなら、それはそれで、有難かったが・・・・・
まぁ、それも、あの3人をみれば、可能性は低いだろう」
「そんなに・・・・いや、何か思い当たる節があるようですね」
「その通りだ。
何か、隠し事をしているように思えたので
信用する気にはなれん。
だが、
使い捨ての駒ぐらいには、なるだろう・・・・・」
「そうですね。
失礼いたしました」
「いや、気にするな。
それより、この地に集まったのは、何人だ?」
「はい、予定通り、10人が、この地に・・・・」
「では、これより実行に移す。
天使たちに通達せよ。
目的地は、アンドリウス王国、
討伐対象は、あの悪魔、エンデ ヴァイスだ」
「はっ!」
アンジェリクは、交信を終える。
作戦は順調。
なのに、アンジェリクは、浮かない顔をしている。
その理由は、先んじて、この地に降り立った
エルマの行方が分からないからだ。
通信も途絶えており、
生きているのか、死んでいるのかさえも、わからないのだ。
──エルマよ、貴様は、どこで何をしているのだ・・・・・
そのエルマだが、ジルフと共に
『レンドール王国』の領土内にある、『ハウールの街』にいた。
ハウールの街は、奴隷の売買と、歓楽街の儲けで成り立っている街。
そんな街の片隅にある、ほぼ廃墟と化した教会で、孤児達を育てていたのだ。
この街に辿り着いた当初は、
孤児院をするつもりなど毛頭無かった。
だが、偶然が重なり、
この孤児院を引き受けることになった。
『私には、やらなければならない事がある』
この街に着いた時には、
そう思っていた天使エルマだが
この街で、とある女性と知り合い、考えが変わる。
ハウールの街は、歓楽街で賑わう反面、
裏に回ると、全てを失い、ホームレスと化した男達と
娼婦をしていたが、病気で何も出来なくなった女達の姿があった。
そんな男と女が、職も金も無い状況で、やる事と言えば
男女の行為と犯罪しかない。
女が病気を持っていようが、失うものの無い男達には関係ない。
欲情に任せ、金品を奪い、強引にでも行為に及ぶ。
避妊もしていなければ、当然、父親のわからない子供が産まれた。
子供たちは、生まれた時からホームレス。
そんな子供たちを哀れに思い、
手を差し伸べたのは【キサラ】という女性だった。
キサラも、この街で娼婦をしていたのだが、性的な病気を患い、
仕事を辞めた女性の1人。
彼女は、他の者達と違い、働いている時には、
最低限のお金しか使わなかったので、
それなりの金を持っていた。
だが、病気のせいで、何処にも行くことが出来ない。
それに、今迄、同じ症状で、命を失った者を見て来た為、
自分の命が短い事も理解していた。
だからこそ、悔いの無い様に、生きていた。
「さて、これからどうしようかしら?」
考え込むキサラだが、彼女に悲壮感など無い。
これからは、自由に暮らせる。
そう思うだけで、嬉しく感じていた。
キサラは、親の顔を知らない。
親戚と名乗った男【ダト】のもとで、
12歳まで、別の街で田畑を耕して生活をしていたのだが、
この男が、とんでもないクズで、
ある時、酔った勢いで、キサラに手を出してきた。
突然の出来事に、恐怖を感じたキサラだったが、
大人の力で押さえつけられてしまえば、抗える筈も無く、
抵抗空しく、この日、初めて欲望のはけ口にされたのだ。
ダトは、朝までキサラを堪能した後、
さっさと家から出て行く。
1人残されたキサラ。
一睡もしていないのに、眠気さえ、襲ってこない。
ただ、先程までの出来事を受け入れる事が出来ず、
家に差し込む日の光を、ただ眺めていた。
しかし昼が過ぎた頃、突如、痛む体を起こすキサラ。
「畑に行かないと・・・・・」
思考を放棄したかのように立ち上がると
顔を洗い、太腿に着いた血を洗い流し、畑へと向かうが
その道中で、偶然にも、ダトを発見する。
ダトは、数人の男達を前に、
媚びるような態度で、下卑た笑みを見せながら、何やら話をしていた。
ダトの表情を見ていると、
昨夜のことを思い出し、体が震え、背筋に寒気が走る。
それでも、悪い予感がした為、静かに隠れて、聞き耳を立てた。
「こんな村ですから、遊ぶところも、限られております。
それで、良い話があるのですが・・・・」
良い話とは、金を払えば、キサラを抱かせるというものだったのだ。
恐怖を感じたキサラは、静かにその場から離れると
一目散に駆け出した。
住んでいた村を飛び出し、森の中へ。
──早く、早く遠くに逃げないと・・・・・
無我夢中で、野山を駆ける。
『少しでも遠くに・・・・・』
その思いだけで、体の痛みも忘れて、一心不乱に走った。
日が沈むと、木の上などを寝床にして、睡眠をとり
食事は、山で採れる木の実や、草花などで済ませる。
そんな生活を繰り返し、半年が過ぎた頃に、
辿り着いたのがハウールの街だった。
ボロボロの服装でも、この街では女性というだけで需要がある。
おかげでキサラは、仕事にありつけた。
そこは、娼館だったが、背に腹は代えられない。
キサラは、覚悟を決めて、働きだした。
だが、25歳の時、
他の者達と同様に、病気を患ってしまうと
娼館から追い出されてしまう。
そして、何をしようかと考えていた時、
偶然、目の前をホームレスの少女が横切った。
年の頃は、7~8歳。
服も汚れて、ボロボロ。
靴も履いていない。
「あ~、あの子も家族がいないんだ・・・・・」
自然と口から漏れた言葉。
「家族・・・・・」
キサラは、家族を作ることを決心した。
かといって、自分が子供を産める状態なのかわからない。
残された時間も少ない。
その為、キサラは、ホームレスの子供達が
同じ道を進まないように、引き取ることにした。
目標を決めたキサラは、
爛れた皮膚を布で隠すと、少女の後を追う。
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