第219話ドワード王国  3人の勇者

捕らえられた日から、牢獄で生活するロッグとヨード。


国王ヤルーダ ドワードに、娼婦のように扱われているルーラン。


そんな3人に、突然、『解放してやる』とナジウム持ち掛けてくる。


「何が目的だ?」


怪しむロッグの問いかけに対して、笑みを浮かべるナジウム。


「簡単な事です。


 天使の前に、勇者として現れ、隙を見て、捕らえてください」


「天使様を捕らえるだと・・・・・」


「ええ、その通りです。


 ですが、万が一の場合は、殺すことも許可しましょう」


──天上界の人間に敵う筈が無い。


   ましてや、与えて頂いた武器や恩恵で倒すなど・・・・・


ロッグが、そんなことを考えていると、

ナジウムが、追い打ちをかけるように告げる。



「一生、奴隷のままで宜しければ、断って頂いて構いませんよ。


 ただし、陛下が命令すれば、

 どのみち、貴方達は、従うほかないのですが・・・・・」



確かに、ドワードが命令を下せば、それに従うしかない。


どう転んでも、天使アンジェリークと戦うことになるのだ。


そう考えれば、断る理由がない。


「わかった。


 貴様の命令に従う。


 だが、約束は、守ってくれよ」


「ええ、勿論ですよ」


ナジウムは、鉄格子についている扉を開けた。


「他の方の説得を、お願いしますね」


それだけ告げると、ナジウムは去って行った。


扉は開いている。


突然の事だったが

地下の牢獄から解放されたロッグ。


近くで控えていた牢番の兵士から鍵を受け取ると、

兵士の案内で、別の牢獄へと向かう。



そして、辿り着いた牢獄の中に目を向けると

その牢獄の隅で、ヨードは、体育座りをしていた。


完全に、諦め、心が折れていた。


そんなヨードに、ロッグが声をかける。


「おい、ヨード、生きているか?」


見るからに瘦せ細っているヨードは、聞き覚えのある声に顔を向けた。


「・・・・・ロッグか?」


「ああ、そうだ。


 今、鍵を開ける」


ロッグは、鍵を開けて、牢獄の中に入ると

ヨード前に座り込んだ。


「話がある。


 だが、先に謝っておく」


前置きの後、ナジウムとの会話を話した。


目を見開き、言葉を失うヨード。


「おい、聞いているか?」


「・・・・・ああ」


ロッグの問いかけに、返事をした後、黙り込んでしまうヨード。


暫くの間、無言の状態が続いたが、

ヨードは、どうしても聞きたいことがあった。


「なぁ、ルーランは、ルーランも助かるのか?」


「ああ、勿論だ。


 俺たち3人揃って、ここから出れるんだ」


「そうか・・・・・」


ヨードは、決心したかのような顔つきに変わった。


「わかった。


 それしか方法が無いのならば、その提案に乗ろう」


2人は、牢獄から出ると、牢番の兵士に話しかける。



「話はついた。


 ナジウム殿に繋いでくれ」


「わかった。


 ここで待て」


兵士は、待機所のようなところに行き、


仲間に言伝ことづけを頼むと、戻って来た。


「暫く、ここで待ってくれ」


兵士の言葉に頷く2人。


その2人の視界に、

待機所から駆けてゆく兵士の姿が映る。


それから暫くすると、先程出て行った兵士が戻って来た。


兵士は、ロッグ達のもとへ来ると、告げた。


「ナジウム様がお待ちだ。


 ついてこい」


兵士に従い

出口に向かって歩き出す。


地下の牢獄から、久しぶりに日の光の当たる場所へ。


地下を抜けると、太陽が見える訳ではなかったが、

仄かに暖かさを感じ、生きていることを実感した。



その後も、兵士の後をついて廊下を歩いていると、

とある部屋に、到着する。


「ナジウム様、2人を、お連れしました」


「入れ」


扉を開けて、中へ入るように促す兵士。


ボロボロの貫頭着のまま、2人は、中へ入ると

ナジウムは、一番奥の席に座っており

その横には、ルーランの姿があった。



2人と違い、綺麗なドレスを着ているが、

目の下には隈ができており、顔色も悪い。


そんなルーランだが、

2人の姿を見ると、心配かけないためか

ニコッと微笑んだ。


「ル、ルーラン・・・・・」


声を掛け、思わず手を伸ばし、歩み寄ろうとしたヨードだったが、

それを、遮るようにナジウムが声を掛けた。


「焦るでない。


 立ったままだと、話しにくいので、

 まずは座りなさい」


伸ばした手を、引っ込めたヨードは、

ナジウムに促され、空いていたソファーに腰を掛けると

その正面に、ナジウムが座った。


すると、メイドが、手際よく紅茶の入ったカップを配る。


テーブルに紅茶の入ったカップが並べられると、

ナジウムが手に取り、口をつけた。


手に持っていたカップをテーブルに戻すと、3人の顔を見る。


「さぁ、遠慮しないよい。


 毒など、入っておらぬから

 それを飲んで、まずは、一息ついてください」


優しい言葉を投げかけるナジウム。


3人は、お互いの顔を見合わせた後、

それぞれのタイミングで、紅茶に口をつけた。


全員が、カップをテーブルに戻したところで、ナジウムが口火を切る。


「お二人は、既にご納得頂けたようですね」


ナジウムの問いかけに、ロッグが頷く。


「ああ、それで作戦なのだが・・・・・」


「そうですね。


 ですが、その前に・・・・・」


ナジウムは、ルーランを見る。


「?」


「まだ、ルーランさんには、話しておりませんので、

 お二人から話しをされてみては?」


まるで、第三者のような言い方をするナジウム。


2人に話をさせることで、ルーランが納得するハードルを下げるつもりなのだ。



ロッグとヨードは、お互いの顔を見合わせた後、

口火を切ったのはロッグ。


「ルーラン、その・・・実はだな・・・・・」


ロッグは、ナジウムから持ち掛けられた提案を、ルーランにも話し始めた。


「それで、貴方達は、天使様と戦うというのですか?」


「ああ。


 それしか、俺たちが自由を勝ち取る方法が無いんだ。


 だから、一緒に来てくれ」



暫く悩んだ後、ルーランが確認するように問いかける。


「本気・・・・・なのですね」


頷くロッグとヨード。


2人の決心を見届けた後、ルーランは、ナジウムに問う。


「この提案に乗ったら、私も自由になれるのですか?」


「勿論ですとも。


 このことは、陛下も、ご納得されております」


「わかりました。


 私も参加致します」



ルーランに迷いはない。


返事を聞き、笑みを零したナジウムが、告げる。


「それでは、今日から3日間は、体調の回復に努めてください。


 旅立つのは、その後に致しましょう」


ナジウムが、テーブルに置いてあったベルを鳴らすと

1人のメイドが姿を見せた。


「この方たちに、部屋と食事の準備を・・・・・

 あ、後、貴方には、この方たちのお世話を、お願いします」


ナジウムに従い、メイドは3人に顔を向ける。


「本日より、お世話を申し付かりました、メイドの【ルフラン】と申します。

 どうぞ、よろしくお願い致します」


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