第218話ドワード王国

ナジウムは、急いで教会を飛び出すと、

謁見の間で待機している国王【ヤルーダ ドワード】のもとへと向かった。


城に着くと、その足で、謁見の間に駆け込んだナジウムは、

国王ヤルーダ ドワードに、事の顛末を告げる。


「では、ここには来ぬという事か?」


「はい、それから、申し上げにくいのですが

 天使様が、激怒しておりまして・・・・・」


「な、なんだと!」


流石に、天使様が激怒していると言われれば、

国王ヤルーダ ドワードだって、穏やかではいられない。


まともな判断のできる人間ならば、

直ぐにでも、アンジェリクの所に向かう筈だが

ドワードは違った。


国王である自分の命令に従わなかったことに対して、

苛つきを覚えていた。


──この私に、出向けというのか・・・・・


「・・・・・それで、天使は、今どこに?」


「はい。


 先程もお伝えしましたが、教会の方へ・・・・・」


「そうか・・・わかった」


ドワードの表情には、穏やかさの断片もない。


──この私に、恥をかかせおって・・・・・


無言のまま、苛立ちを露にしていたが、暫くして、笑みを浮かべる。


──そうだ、良い事を思いついたぞ・・・・・・




ドワードは、ナジウムを近くに呼びつけると、そっと耳打ちをした。



国王ヤルーダ ドワードの話に

『うん、うん』と頷いた後、『それは良いお考えです』と

同じように笑みを浮かべた後、ナジウムは、謁見の間から出て行った。


そして、城の地下にある牢獄へと向かう。


そして、その牢獄のさらに奥へと入り、

重厚な扉の鍵を開けた。


この牢獄には、表沙汰に出来ないような犯罪者や、

王家にとって、都合の悪い者たちを捕らえている。



薄暗い通路を進み、最初の牢獄の前で、足を止めた。




この牢獄にいたのは、熊人族の【ロッグ】。


『奴隷の首輪』を嵌められているだけではなく、

両手、両足も、鎖で繋がれていた。


「勇者様よ、気分はどうだ?」


小馬鹿にしたような態度で、問いかけるナジウム。


「・・・・・」


「なんだ、話す気にもならんか・・・・・

 なら、こういうのはどうだ。


 貴様をここから出してやろう。


 勿論、同輩も一緒で良いぞ」


ロッグには、2人の仲間がいる。


その2人も、獣人族出身の勇者。


彼らは、同じ亜人の里の出身。


だが、亜人の里と言っても、小さな集落ではなく、

各々の種族が、それぞれで村を形成している為、その領地は広く、

山3つ分にもなる。



そんな広大な領地を持つ亜人族から、神の啓示により、3人の勇者が生まれた。


1人は、熊人族のロッグ。


続いて、妖狐族の女性【ルーラン】。


狼族の【ヨード】。


3人は、各々の村から集結し、神託に従い

一緒にドワードの王都を目指した。


そして無事に、王都に辿り着いたのだが、

3人が教会に赴く前に、門兵から、報告を受けたナジウムが

国王ヤルーダ ドワードの命令に従い

罠に嵌める。


城から、馬車を向かわせ、

教会には向かわさせず、

城に招くと、謁見にて、『勇者の証』と言われるものを確認すると、

その日の夜に歓迎会を催した。


勿論、教会には秘密。


勇者が来たことも、知らせていない。


勇者が獣人だと判明した時から、国王ヤルーダ ドワードは決めていた。


──こいつらを奴隷に仕立て上げ、この私の為に働かせる・・・・・・


その思惑を実行に移しただけ。


国王ヤルーダ ドワードは、人族絶対主義者。


獣人の勇者など、認めたくないのだ。


そんな考えを、持っているとは知らず、

歓迎会に出席した3人だが

初めは警戒もしていたが

周囲の様子から、安全だと判断し、色々な料理に手を伸ばした。


完全に、国王ヤルーダ ドワードの思惑通り。



宴が進み、完全に、3人の警戒心が解けたタイミングを見計らい、

睡眠薬の混ざった料理を、彼らの前に並べた。


亜人族が、特に好きな肉料理。


酒も、良い感じに回っていた為、

警戒心など無く、噛り付くと

熊人族のロッグ、狼族のヨードが眠りに落ちる。


ただ、食べる量が少なかったおかげで

未だ、意識を保っていたルーランが、気付く。


「ね・・・眠り薬が仕込まれていたのか・・・・・」


食べた物を吐き出そうと思うが、もう遅い。


視界がぼやけ、瞼が重くなる。


それでも最後まで抵抗しようと

眠気を取る為、魔法を使おうとしたが

待機していた兵士たちが押し寄せ、

取り押さえられた。


「・・・・完全に、やられた・・・わ・・」


抵抗むなしく、意識が遠のいてゆく・・・。


それからすぐの事だった。


魔法士が近づき、睡眠薬の効果を打ち消す。


目を覚ましたルーランだったが、

両手両足を縛られており、動くことが出来ない。


「これは何の真似だ!」


意識がはっきりとしてきたルーランは、

玉座に座っている国王ヤルーダ ドワードを睨みつけ、言い放つ。


「貴様ら、絶対に許さん!」


必死の抵抗をみせるが、何もすることが出来ず

ただ、毛虫のように動くだけだった。


そんなルーランの前に、ナジウムが立つ。


「亜人なら、これが何か知っていますな」


そう告げたナジウムの手に、握られていたのは

『奴隷の首輪』。


「なぜ、そんなものを・・・」


驚くルーラン。


現在は、許されることではないが、

過去、この世界では、亜人は虐げられていた。


その為、亜人の村が襲撃され、捕らえられた者達が

奴隷の身分に落とされていた。


今も、その名残で、奴隷として生活している亜人もいる。


その者たちの首に、必ず装着されているのが、

この奴隷の首輪なのだ。


これを装着させられると、主の命令に、逆らうことが出来なくなる。


また、魔法も、許可なく使えない。


その奴隷の首輪を、手にしているナジウムが

ゆっくりと近づく。


「これを貴方に送りましょう・・・・・・」


笑みを浮かべるナジウムの手が

ルーランの首に近づく。


「やめろぉぉぉぉぉ!」


必死の叫びが空しく響く中、

ルーランに、奴隷の首輪が装着された。




ナジウムが、玉座に座っていたドワードに、声を掛ける。


「陛下、お待たせ致しました。


 準備が、整いましたので、こちらに・・・・・」


「うむ」


押さえつけられたルーランのもとまで来ると、

国王ヤルーダ ドワードは、掌を短剣で斬りつけた。


滲みだした血液を、兵士が小皿で受け、溜まるのを待つ。


そして、血が溜まると、その小皿をナジウムに渡した。


「この位で良いのか?」


「はい、十分で御座います」


ナジウムが、奴隷の首輪に

国王ヤルーダ ドワードの血を垂らす。


「では陛下、お願い致します」


「うむ」


国王ヤルーダ ドワードが、呪文を口にする。


『我に従い、我に尽くせ、生殺与奪の権利は、我にあり』


奴隷の首輪に触れた国王ヤルーダ ドワードの血液が、一瞬だけ光った。


「おめでとうございます陛下。


 術は、見事に成功致しました」


「おお、そうか」


満面の笑みを見せる国王ヤルーダ ドワードとは、対照的に

ルーランは、物凄い形相で、ナジウムを睨んでいるが

ナジウムは、それを軽く受け流して、国王ヤルーダ ドワードに提案をする。


「陛下、宜しければ、何か命令してみては?」


「ああ、そうだな」


新しいおもちゃを与えられたかのようなドワード。


暫く思案した後、思いついたことを口にした。


「あそこで眠っている2人に、この奴隷の首輪を嵌めよ」


「なっ!」


最悪とも思える命令が下ると同時に

ルーランの前に放り投げられる奴隷の首輪。


『仲間に奴隷の首輪を嵌めよ』


そんなこと出来る筈が無い。


だが、逆らうことが出来ない。


ルーランは、それを拾い上げた。


「こんなもの・・・」


放り投げようとするが、

思ったように腕が動かない。


それでも、無理やり、放り投げようとした瞬間、

体に電流のようなものが駆け巡り

内蔵が焦がされる様な痛みを感じた。


「ガァァァァァァ!!」


思わず膝をついて、仰け反る。


『アガ・・・アガ・・・』と声にならない声を上げていると

国王ヤルーダ ドワードが、命令を繰り返す。


「どうした、早くやれ!

 早く2人に、首輪を嵌めるのだ」


すると、先程以上の電流が体を駆け抜け、

ルーランに罰を与える。


『ガァァァァァ!!!』


三度、四度と繰り返されるうちに、体の至る所から体液が漏れ、

ルーランの髪の色は、色が抜けて、白く変わっていった。


それでも、最後まで、抵抗を続けたルーランだが、

痛みと恐怖を植え付けられてしまい

5度目の罰を受けるた後、完全に屈した。


体を引き摺るようにして2人のもとに行き、

涙を流しながら、奴隷の首輪を嵌めるルーラン。


その光景を国王ヤルーダ ドワードは、満足そうに見ている。


──次は、あ天使の番だ・・・・・


そんな考えを巡らせている間に

ロッグ、ヨードの首にも、奴隷の首輪が装着された。


そして、ナジウムが、先程と同じように

奴隷の首輪に血を垂らし終えると、

国王ヤルーダ ドワードが、呪文を唱え

2人を、奴隷に落とすことに成功した。


「この者達を、地下牢にでも放り込んでおけ」


未だ、眠りから覚めぬ2人を、兵士たちが運びだすと

残されたルーランを見て、ドワードが下卑た笑みを浮かべた。


そして、ナジウムに、小声で命令する。


「あれを、風呂に連れて行け。


 終わったら、私の寝室に・・・・・

 今日は楽しませてもらうぞ」


「はい、あの者は、陛下には逆らえません。


 どうぞ、お好きなように、お使いください」


「では、そうさせてもらう」


最後に、そう告げた後

国王ヤルーダ ドワードは、謁見の間から去って行った。


国王ヤルーダ ドワードの姿が見えなくなると、

ナジウムは、近くにいたメイドに指示を出し、

国王ヤルーダ ドワードと同じように、その場から立ち去ると

ルーランに、メイドが近づいた。


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