第217話 教会の動き

堂々と、肩に神具を担いで歩き出したウルグス。


彼は、あまりにも無知すぎた。


ここは、貴族の屋敷。


大勢の働き手がおり、そんな物騒なモノを持ち歩けば

直ぐに誰かの目に留まってしまうのは、当然の事。


屋敷に辿り着く前に、声をかけられる。


「おい、そんなモノを持って、何処に行く気だ?」


誰もいないと思っていたのに、突然声を掛けられて、

驚いたウルグスが振り返ると、そこには、褐色の男が立っていた。


だが、それで終わりではない。


「ダバン様、突然声を掛けたら、お相手の方が驚きますよ」


先程まで、誰もいなかったところに、

ゴージアの姿があった。


──いつの間に・・・・・


突然、2人に挟まれて、焦るゴージア。


手には、神具であるバトルアックスを握っており、

言い訳が出来る状態ではない。


──仕方ない、殺すのは、1人だけにしたかったのだが・・・・・


覚悟を決めたウルグスが、ゴージアに向かって駆け出す。


「そこをどけぇぇぇぇぇ!」


力に任せて、バトルアックスを振り回すゴージア。


だが、戦ったことの無いゴージアの攻撃など、

ゴージアにに当たる筈が無い。


振り下ろされたウルグスの攻撃を余裕で躱したゴージアが口を開く。


「取り敢えず、聞きたいこともあるので、

 生け捕りにしましょうか」


「わかった。


 俺に、任せろ」


ダバンは、一気に間合いを詰めると、

ウルグスの足を払う。


躱すことさえできなかったウルグスは、

見事に倒されて、武器を手放した。


勇者として教会に認められたウルグスだったが

教会の言う事も聞かず、戦闘経験も無いのに、

訓練も受けず、仲間も作らず、

ただ、闇雲に、村の為だと、言い張ってここまで来たのだ。


今、そのツケを掃う時が来た。


無防備になっても、ダバンが、攻撃を緩める筈が無い。


殺さないように、力は、加減はしているが

それでも、ウルグスにとっては、痛いだけでは、済まない。


宙へと、放り投げられたかと思えば、

地面に着く前に、新たな攻撃を受け、再び宙へと飛ばされる。


2撃目までは、意識を保っていたが

3撃目を受けた時には、もう、意識はなかった。


「ダバン様、死んでしまいますよ」


「なんだよ、手応えが無いな・・・・・」


受け身も取れず、地面に落ちたウルグス。


ゴージアは近づくと、肩に担いだ。


「それでは、あとは、お任せください」


「ああ、頼む」


ゴージアが、ウルグスを担いで、屋敷へと向かって歩き出すと

ダバンも、自身の宮殿のような屋敷に向かって歩き出したその時、

屋敷の前に、一際豪勢な馬車が止まる。


「あ・・・・・」


2人の足が止まった。


ここは、屋敷の入り口に近い場所。


馬車から降りてくれば、直ぐに目につく。


ダバンは、背を向けたくなるが

それは、許されない。


はぁ~と溜息を吐くと

馬車に向かって歩き出す。


そのタイミングで、馬車から降りてくるサーシャ。


ダバンに気付くと、笑みを浮かべて歩き出した。


だが、ゴージアの肩に、担がれている男を見て

眉を顰めた。


そして、ダバンに歩み寄ると

直ぐに、問いかける。


「ダバン様、あの者は、いったい・・・・・」



サーシャが、視線をゴージアへと移す。


言い難い顔をするゴージアの様子から

全てを理解したサーシャが、溜息を漏らす。



「まったく、貴族街の門番は、何をしているのでしょうか・・・」


溜息を吐きながらも、ウルグスが捕らえられている現状から

終わった事と判断したサーシャが、ダバンに歩み寄る。


「ダバン様、もう終わったのですよね。


 でしたら、屋敷に戻りましょ」


強引に腕を組み、ダバンを引っ張ってゆく。


「お、おい・・・・・」


引き摺られるダバンを黙って見送ったゴージアも

屋敷へと向かって歩き出した。




その頃、各国では、天使の召喚の儀式を、行っており

その中の1つ、ドワード王国では、

今、まさに、天使が降臨するところだった。



光の柱の中で、アンジェリクが目を開く。


「あの時は後れを取ったが、次は必ず仕留める」


バルキリーのアンジェリクは、

新たな誓いを胸に、地上に降り立ったのだ。


そのアンジェリクに、1人の男が歩み寄る。


「天使様、この度は、我が国にご降臨下さり、有難う御座います。


 城の謁見の間にて、陛下がお待ちしておりますので

 どうぞこちらに・・・・・」


宰相の【ナジウム】の言葉に、アンジェリクが、眉を顰めた。


「おい、貴様の国では、国王が我の出迎えもせず、我に指図をするのか?」


「え、あ、その・・・・・」


「舐められたものだな」


アンジェリクは、ナジウムの横を通り過ぎると、

この場所から去ろうとした。


「て、天使様、あの・・・・・その・・・・・」


ナジウムが上手く声を掛けられないでいると、

待機していた者達の中から、『お待ちください!』と声がかかった。


アンジェリクが、足を止めると

3人の男が、進み出る。


その3人は、教会に属していることが、直ぐにわかるような祭服を身に待っており

真っ白な祭服を纏った男を先頭に、アンジェリクの前まで歩み寄ると、

3人は徐に跪いた。


「天使様

 ご降臨、おめでとうございます。


 私は、この国の教会を纏めさせて頂いております【デイドーム】と申します。


 この度の召喚の儀、国が取り纏めておりました故、

 私共は、傍観せざるを得ませんでしたが

 天使様に対する礼儀を欠いた態度に、不快の念に堪えません。


 これ以上、天使様にご不快な思いをさせぬ様、

 無礼を承知で、馳せ参じました」


本来、召喚の儀は、教会主導で成すべきこと。


だが、それが気に入らなかった国王が

強引に主導権を奪い、このようなことになっていたのだ。



無言のまま、デイドームを見るアンジェリク。


デイドームの言葉に、嘘が混じっていることは分かっている。


だが、教会は、神を敬う場所。


そこに属している者達を、選ばない筈が無い。


デイドームは、話を続ける。


「もし、私共に挽回の機会を頂けるのでしたら、

 どうか、天使様のお世話役を、私共にお命じ下さい」



デイドームが言い終えると同時に、3人は深々と頭を下げた。



「わかった。


 お前たちに、任せよう」



「有難き、お言葉。


 感謝致します」


「色々と聞き来たいこともあるので、

 何処か、話が出来る場所への案内を頼む」


「畏まりました。

 ご案内致します」


「うむ」


ナジウムを蚊帳の外に置き、その場から離れてゆく教会一行に

声を掛けるタイミングを失ったナジウムは、

突っ立ったまま、見ている事しか出来なかった。



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