第216話 新たな勇者⑥ ウルグス

スラートも倒され、先陣を切って旅立った

勇者で、残っているのは、ウルグスただ1人。


そのウルグスは、1人で旅をしている。


教会からは、仲間を集めるように進言されたが

ウルグスは、自分の手で成し遂げると決めていたのだ。


それは、少しでも多くのお金を、村に持ち帰る為。


同時に、農民であった自分に、

小難しい作戦など理解できないからでもあった。


旅を始めて15日後、ウルグスは、

アンドリウス王国へ続く砦に辿り着く。



数日前、スラートがここで騒ぎを起こした為、警備は厳重になっていたが

配下も連れておらず、出稼ぎ人の格好をしたウルグスを、誰も勇者だとは思えず、

あっさりと通過する事が出来た。



無事、砦の街に入ったウルグスは、宿にも泊まらず、そのまま街を出る。


そして、再び、野宿をしながらアンドリウス王国の王都を目指した。



それから数日後、ウルグスは王都に辿り着く。



人も多く、活気のある街。


大量に売られている食料。



村とは全く違う光景を見て、ウルグスは、考えてしまう。


これの一部でも、持って帰れれば・・・・・


そう思うと、人々の賑わいを、自然と眺めていた。


決心を強めるウルグス。


「必ず、奴を倒す!」


気持ちを新たに、この先の事を考えた。


エンデが暮らしているのは、貴族街。


流石に、乗り込むわけにはいかない。



その為、ウルグスが、最初に寄ったのは、商業ギルド。


エンデが出て来るのを待つことにしたが、それが何時なのかはわからない。


その為、商業ギルドで仕事を紹介してもらい、仕事をしながら待つことにしたのだ。


冒険者ギルドなら、討伐や護衛など、街を出ての仕事が多いが、

商業ギルドなら、街の中の仕事だけを斡旋していると思っていた。


だが、これは、ウルグスの勘違い。


街の中の依頼でも、冒険者ギルドが斡旋している。


だが、ウルグスの村には、冒険者ギルドがなかった。


あったのは、商業ギルドに属している商人の店だけ。


この店が、村で仕事を斡旋していたから

商業ギルドなら、街の仕事を、紹介してもらえると思っていたからだった。


しかし、この勘違いが、チャンスを掴む。


偶然にも、ここで、仕事を紹介してもらえたのだ。


偶然出くわした商人からの依頼で、

店の改装を手伝うことになり、

王都で、仕事を得ることが出来た。


それから3日後、店の改装の終わりが見えてきた頃

王都は、未曽有の豪雨に襲われる。


その大雨が、3日間続いたせいで

貴族街の、とある屋敷の馬房で、雨漏りが発生したらしい。


そこは、ウルグスを雇っている商人が、御用聞きをしている貴族だった為

商人は、この仕事を、請け負ったのだ。


修理に向かうのは3人。


代表を務めるのは、髭を生やしたドワーフのような男と、

小柄だが、筋骨隆々の男。


それとウルグス。


荷物と共に、馬車に乗り込む。


「いくぞ・・・・」


ドワーフのような男の言葉に従い、馬車が走り出す。


ウルグスは、いつ遭遇しても問題が無いように、

荷物の中に武器を忍ばせている。


──もうすぐだ・・・・・

   エンデとやらを殺せば、金が手に入る・・・・・


拳を強く握りしめる。


平民街と貴族街を分けている門を潜り抜け、馬車は奥へと進む。


多くの貴族屋敷が立ち並ぶ一角を通り過ぎ、尚も、奥へと・・・・・


屋敷の数が減り、正面の高台に、一際大きな城のような屋敷が見えたところで、

馬車は、右へと曲がった。


その先に見える一軒の屋敷。


その屋敷が、今日の仕事場らしい。


門の前で馬車を止めると、ドワーフのような男は、敷地へと、足を踏み入れる。


そして玄関まで行き、扉を叩くと、中から執事が現れた。


「どちらさまですか?」


「御用聞きを、させてもらっている旦那からの依頼で来た。


 馬房の修理と伺っている」


「そうですか、では、ご案内致しましょう」


執事のゴージアは、3人を馬房へと案内する。


途中、庭に出て、その広さに驚くウルグス。


広大な敷地。


その向こうに、宮殿のような建物まである。


──これが、貴族の屋敷か・・・・・


思わず、感心してしまう。


庭を横切り、屋敷の裏手に回ると、

ウルグスの住んでいる村の家屋よりも

立派な馬房が見えて来た。


雨、風が防げるような造りになっており、

木窓までついている。


ゴージアを先頭に、馬房に入ると、言い争う声が聞こえて来た。


「主、勝手に藁を持って行かないでくれ」


「いいじゃん、最近はここで寝ていないんだろ」


「そんなことはない!

 稀に使っているぞ」


「見たことないぞ!」


「それは、主が見ていないだけで・・・・・」


馬房に入って来たゴージアが、『ゴホン!』と咳払いをすると

動きを止めるエンデとダバン。


「あ・・・・」


「若様、例の商人の計らいで、屋根の修理に参られております」


今迄、ゴージアは、エンデの事を『旦那様』と呼んでいたが、


この屋敷は、エンデの父親であるマリオンの屋敷の為、

エンデの事は『若様』と呼び方を変えていた。



手に持っていた藁を元の場所に戻すと、ダバンと一緒にゴージアのもとへ赴き

商業ギルドから来た3人の前に立つ。


「僕は、エンデ ヴァイス。


 屋根の修理、宜しく頼むよ」


──エンデ ヴァイスだと・・・・・


ウルグスの顔色が変わる。


偶然にも、ウルグスの仕事先が、ターゲットの屋敷だった。


ドワーフのような男が、『それでは、始めます』と言い、

荷物を取り荷馬車へと戻ってゆく。


後を追う筋骨隆々な男。


遅れて追いかけるウルグス。


馬車に戻り、道具を取り出すと、さっさと行ってしまうドワーフのような男。


筋骨隆々な男も後に続く。


残ったのはウルグス。


荷物の中から、隠しておいた武器を取り出した。


──あいつは、屋敷の中に、戻ったのか・・・・・


ウルグスの武器は、巨大なバトルアックス。


一撃で、全てを破壊するといわれる神具だ。


肩に担ぐと、屋敷に向かって歩き出す。


狙うは、エンデのみ。

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