第215話新たな勇者⑤ 思わぬ決着

マリウルの後ろを歩きながら

観察するスラート。


──中々、強そうだな・・・・・

  だがな・・・・・


スラートが目で合図を送ると、配下の者たちが一斉に動き出す。


予定通り3方向に別れて、突破を図るつもりだ。


護衛の役目を担っていた者達が先陣を切る。


その後ろから、商人の恰好をしていた者達が

隠し持っていた短剣を取り出して、続く。


「おい、貴様ら!」


動こうとしたマリウルの前に、スラートが立ちはだかる。


「油断は、良くないぜ、騎士様よ」


スラートがマリウルを抑えている間に、

配下の者達は、兵士達からの手から逃れることに成功し

街に向かって、駆け出していた。


だが、あと少しの所で、

厳つい顔をした大柄の男が、

数人の兵士と共に、立ち塞がる。


街へ逃げ込もうとした男達の足が止まると

大柄の男が、口を開く。


「息子よ、逃げられているではないか?

 気が緩んでいたのなら

  もっと鍛え上げなければならないな・・・」


「父上!」


「けっ!

 まだこんなのも、いたのかよ!」


スラートの仲間達が、メビウスに向かって走り出した。


全員が、無理でも、1人だけなら・・・・・


そんな考えで、突撃したのだが

相手が、悪すぎる。



門の前で待ち構えたメビウスは、突撃してきた男達を一撃で

真っ二つにした。


そして、何事もなかったかのように

長槍についた血を、振り払う。


「なんだ、この程度か・・・・・」


手応えが無かったと、言わんばかりの態度を見せるメビウスに

スラートは、眉を顰める。


「本当に、ここは、厄介なところだな・・・・・」


『チッ』と舌打ちするスラート。


「立場が、逆転したようですね。


 貴方達が、ここから逃げる事は、出来ませんよ」


──たしかに、この男の言う通りかも知れねぇ・・・・・

  だがよ、まだ、仲間は、残っているぜ・・・・・


そう思ったのも束の間、スラートの耳に、叫び声が届く。


森の方からだ。


「残念だったな。


 あの者達は、生きてはいないだろう」


「!」


その言葉を聞き、辺りを見渡すスラート。


──あの化け物の姿が無い!・・・・・


スラートの仲間を追ったのが、アンデットオオトカゲだと気づき

強く拳を握った。


だが、出来ることなど、殆どない。


スラートは、悪あがきとばかりに

マリウルに、言い放つ。


「てめぇら、いい加減にしろよ・・・

 俺は、勇者なんだぞ!

 こんなことをして、教会が、黙っていないぞ!」


その言葉を聞き、溜息を吐くマリウル。


「小者にまで、成り下がるとは・・・・・

 本当に、勇者ですか?

 それとも・・・・・」


呆れた顔をするマリウルに、スラートが襲い掛かる。


だが、焦りと動揺で、上手く力が、発揮出来ない。


──何故、俺が、力負けしているのだ・・・・・

  おれは、勇者だぞ・・・・・


そう思いながらも、マリウルと戦っていると

逃げた筈の仲間の1人が、戻ってくる。


「あ、兄貴、もうだめだ・・・」


そう告げ、腰を抜かした男の向こうから、

オーラを醸し出しながら、1人の男が近づいてきた。


「なんだ、ガリウスか、そちらは、終わったようだな」


「ああ、訓練にもならなかったぜ・・・」


そう告げたガリウスとは別の方向から、

今度は、アンデットオオトカゲが、姿を現した。


「あ、兄貴・・・・・む、無理だ・・・・・あんなバケモノ・・・・」



スラートに、声を掛けるが、

返事は、返ってこない。


「あ、兄貴?」


もう一度、問い掛け時

男は、スラートの異変に気付く。


笑みを浮かべていたのだ。


スラートが、口を開く。


「さっきも言ったけど

 俺はよ、こう見えても勇者なんだわ・・・・・


 しかたねぇから、その力を見せてやるよ!

 ここからが、本番だ!」


今迄持っていた剣を放り投げると、

新たな剣を背中から取り出した。


「この剣はな、俺が勇者になったときに頂いたもんなんだがな。


 まさか、こんなに早く使うとは、思ってもみなかったぜ」


銀色に輝く剣には、所々に、紋章のようなものが刻まれていた。


「さぁ、何人でも構わないぜ。


 かかってきな」



その言葉を聞き、周りを囲んでいた兵士達が

マリウルより先に、襲い掛かった。


その瞬間、スラートの剣の紋章が光を放った。


「先ずは、挨拶代わりだぁぁぁ!」


間合いにも入っていない兵士達に向けて

スラートが、剣を真一文字に振るうと

光を放っていた紋章が糸のように解けて、

刀身となり、襲い掛かる兵士達を斬りつけた。


あっという間に築かれた死体の山。


スラートは、視線をマリウルへと向ける。


「次は、お前の番だぁぁぁ!」


弧を描くように振るわれた攻撃は、

勢いそのままに、マリウルに迫る。


咄嗟にバックステップを踏み、

ギリギリ、攻撃から逃れたマリウルだが

スラートは、休む暇なく次の攻撃を仕掛ける。


「これならどうだぁ!」


一度、元に戻った後、再び紋章が光を放つと

今度は、槍のように伸びた。


「厄介だな・・・・・」


マリウルは、剣に当てて方向をずらしたが

思った以上に攻撃は重く、受けた右腕を持っていかれそうになった。


『クッ・・・』


攻撃は凌いだが、少し右腕が痺れている。


だが、スラートは攻撃の手を緩めない。


繰り返される攻撃、防戦一方のマリウル。


長く続いた戦いだったが、突如、終わりを告げる。



攻撃を仕掛けていた筈のスラートの様子がおかしいのだ。


よく見れば、顔色も悪く、肩で息をしている。


『ハァハァ・・・』『ゼイゼイ・・・』


息を切らし、立っているのがやっとの状態のスラート。


そんな状態でも、攻撃を放とうとしたスラートだったが、

突然、剣を落として、跪くと、

次の瞬間、地面に倒れ込んだ。


「お、おい・・・・・」


呆気ない幕切れに、驚きを隠せないマリウルだったが

我に返ると、ゆっくりとスラートに近づき、確認をする。


スラートは、もう、息をしていなかった。


「死んでいる・・・・・」


スラートの死の確認を終えたマリウルが

剣に手を伸ばしたその時・・・・・


「触れてはならん!」


マリウルを止めたのは、父親であるメビウス。


「父上」


戦いを見守っていたメビウスは、気が付いていた。


「触れてはならぬぞ。


 その剣は、人の命を吸っておる」


メビウスの見解は、間違っていない。


スラートの剣は、魔力を吸い、

攻撃を仕掛けていた。


そこまでは、魔法を放つ剣と同じなのだが、

そこからが違った。


魔力が無くなれば、次に『生命力』を吸い取るのだ。


勿論、このことは、スラートには、知らされていない。


何も知らないまま、剣を振り続けたスラートは、

自ら命を落とすこととなった。


話を聞き、驚くガリウス。


「えっ!

 そんなのが神剣なのかよ!?

 人を死に追いやるなんて、悪魔の剣の間違いじゃないのか?」


吐き捨てるように言い放ったガリウスに、メビウスが告げる。


「本来、どちらも似たようなものなのだ。


 『神の剣』やら『悪魔の剣』など、

 どちらも人の手に余るものだ」


うつぶせで、倒れているスラートの背中から、鞘を取り外すと

メビウスは、『勇者に与えられた剣』を納めた。


「良いか、この剣は封印する。


 決して、触るではないぞ」


「・・・・・ああ」

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