第214話新たな勇者 ④ スラート
ルドミラを屠ったスラートは、明日の朝には、騒ぎになることが分かっているので
部下を連れて、そのまま宿場町を出た。
それから7日後、スラートたちはアンドリウス王国の例の砦に辿り着いていた。
だが、中に入るにも、苦労しそうな程、警備が厳重で、
行商人を装っているスラート達も、緊張が隠せない。
「あ、兄貴・・・・・」
「いいか、
「へい・・・」
スラート達は、商人を装っている為
大人しく、平民の列に並んでおり
順番が近づいた時に、
スラートが、小声で、仲間達に話しかける。
「お前たち、万が一の時は、わかっているな?」
「へい」
緊急時においての行動は、以前より決まっている。
戦闘より、逃走を優先すること。
その逃げ方も、各々がバラバラに逃げるのではなく、
3つの組に分かれることも決まっているのだ。
覚悟を決め、順番を待っていると
とうとう、スラートたちの順番が回ってくる。
いつも通りに対応する。
「ご苦労様です」
スラートの挨拶に、兵士は頷き、任務に取り掛かる。
「お前達は、何人だ?
それと、荷物はなんだ?」
矢継ぎ早に問いかけて来る兵士。
スラートに焦りはない。
いつも通りに、答える。
「私らは10人です。
それと、荷物は、衣服と生地です」
「そうか・・・・・おい、誰か、確認を頼む」
その声に、他の兵士が、馬車に近づき
後ろに回り込むと、幌の中を確認し始めた。
だが、幌の中には、
蓋の無い木箱に詰められた生地と
口の閉じてある麻袋があるだけで、中を確認しても
申告通りの服と生地しかない。
それもその筈、仕掛けがあるのは、荷物ではなく馬車の方。
荷台の床が、二重になっており、
大事な物は、そこに隠してあるのだ。
確認を終えた兵士から、『通って良い』との返事を受け、
スラート達は、検問をパスし、中に入ることに成功する。
中に入ると、すぐ目の前が広場 となっており、
ここが、砦とは思えないほど、賑わっていた。
「兄貴、ここは、本当に砦ですか?・・・」
宿屋に酒場、それに、馬を休ませる為の馬房まである。
「まぁ、ここで休めることは、有難いな」
スラートは、ここで少し休むことにして、
宿屋を探して、進んでいくと
もう一つの門が、見えてくる。
「ん・・・まだ、先があるのか?」
そう、先程の場所は、
あくまでも、簡易的な休憩所であり、砦の入り口に過ぎないのだ。
スラート達が、門を潜ると
先程の場所が、単なる休憩所だと理解できる程、
大きな道があり、その左右には、宿に酒場に市場。
それぞれが、賑わっていた。
「おい、おい、これは、すげぇな・・・
まるで、街じゃねえか・・・・・」
スラートの意見に、従うように
呆然と立ち尽くし、頷いていると
その真横を、馬車が通り過ぎ
我に返る。
「おい、行くぞ」
一同は、スラートを先頭に、街へと足を踏み入れるが
警戒は怠らない。
「何があるかわからねぇ、
それに、この街から逃げるとなれば
あの検問を、抜けなければならねぇ。
お前ら、騒ぎは起こすなよ」
「へい」
街を散策し、宿をとると
荷物を置いた後、スラート達は、食事へと向かった。
そして、近くにあった食堂に入り
空いていた席を見つけ、皆が腰を下ろす。
──まぁ、ここまで来れば、大丈夫だろう・・・・・
安堵からなのか、そんな考えが皆の頭を過る。
しかし、そんな考えはフラグにしかならない。
安堵したスラート達を、嘲笑うかのように
突如、地面が揺れた。
慌てて立ち上がり、警戒を強めるが、
この食堂で働いている者や、ここで暮らしている者達は
何故か、落ち着き払っている。
それでも、初めてここを訪れた者達は、
荷物を放置したまま、外へと飛び出した。
「な、な、なんだ、こいつは!?」
驚き、腰を抜かしたものが見たのは
普段見ることの出来ない
アンデットオオトカゲだった。
『グギャァァァァァ!』
声を上げたアンデットオオトカゲの姿に
スラート達は、隠し持っていた剣を抜いてしまう。
「やはり、そう言う事か・・・」
アンデットオオトカゲの背中から
ガリウスが、姿を現すと、
アンデットオオトカゲの背後にいた
兵士達が、スラート達を、取り囲んだ。
普段は、砦の先にある森の近くで
ガリウスと仲良く暮らしているアンデットオオトカゲだが
血の匂いのする者が砦を通過し、この街にはいると
その匂いを嗅ぎつけて姿を現すのだ。
今回、現れた理由は、勿論、スラート達が、砦を通過したから。
人の目は誤魔化せても、アンデットが嗅ぎつける
こびりついた血の匂いは、隠しきれない。
完全に囲まれたスラート達に、逃げ場はない。
「大人しく、付いてきてもらおうか」
「チッ・・・・・」
まさか、こんな風に正体がばれるなど、
微塵も思ってもいなかったスラート。
──なんで、こんな化け物がいるんだよ・・・・・
あれと戦って、何人死ぬかな・・・・・
覚悟を決めたスラートは、
仕方がないとばかりに、ガリウスに話しかけた。
「何か誤解しているようだが、私は悪人ではない」
スラートは、胸元を開け、刻まれた『勇者の証』を見せる。
「私は、教会に認められた勇者だ!
この地を訪れたのは、神から信託を賜り
この国にいる悪を倒しに来たからだ。
理解出来たのならば、道を開けろ!」
普段は、自分の事を『俺』と言っているのに、敢えて『私』と言い、
今の格好も、『悪』に気付かれない為の偽装だと、
言わんばかりの態度で言ってのけたが、
何故か、おもったものと反応が違う。
周囲は
「???」
━━どういうことだ・・・・・
俺は、勇者と名乗ったのだぞ・・・・・
スラートは、この近くの国で、教会の関係者が、事件を起こした事は知っていた。
だが、それはあくまでも近くの国の話。
今いるのは、その国、ゴンドリア帝国ではない。
アンドリウス王国だ。
それなのに、この態度。
悪い予感しかしない。
──何か、しくじったのか・・・・・
そう思っていた時、取り囲んでいた兵士達が割れ、
道が出来上がる。
その道を、ゆっくりと歩いてきた男が、
スラートに話しかける。
「勇者ですか・・・・・
それは有難い。
探す手間が、
こちらも、いろいろ聞きたいことがあってね、
貴方を探していたんですよ」
そう告げたのは、白い鎧に身を包んだマリウルだった。
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