第213話新たな勇者③ 勇者対決
対峙するスラートとルドミラ。
ルドミラ側は4人。
魔法剣士であるルドミラを筆頭に
剣士 【ワーキー】。
盾役の【モンテスト】。
最後に、補助魔法使いの【ホットマン】だ。
対するスラート側だが、9人の配下を連れて行動しているのだが、
今、この場にいるのはスラートを入れて3人。
短剣使いの【ベント】と剣士の【ムシク】。
人数的に不利な状況だが、スラートが怯むことは無い。
先手を取って、ルドミラに攻撃を仕掛けた。
ルドミラだけを狙い、
一瞬にして、間合いを詰めると
剣を振り下ろす。
だが、ルドミラも勇者。
振り下ろされた剣に合わせ、
こちらも剣で、応戦する。
その瞬間、剣と剣が、ぶつかり合う音が響くと
この音が、開始の合図となり、他の者達も戦いを始めた。
ホットマンが少し下がり
補助魔法を使い、仲間達の防御力を上げると
ルドミラ達が、緑の淡い光に包まれた。
「魔法使いは、厄介だな・・・・・
だったら!」
スラートは、ホットマンに狙いを変更しようとする。
だが、ルドミラが、それを許さない。
「行かせるか!
貴様の相手は、この私だ!」
執拗に、攻撃を仕掛け、
スラートに、余裕を与えない。
「クッ、流石、勇者ってことか・・・」
──寄せ付けてもくれねぇか・・・・・
だがよ、他にも手はあるんだぜ・・・・・
攻撃を躱すと同時に、後ろに下がるスラート。
そして、懐から笛のような物を取り出し、鳴らす。
だが、音は聞こえない。
「何の真似だ!?」
「ちょっとしたおまじないだよ」
笑って誤魔化す態度に
苛立つルドミラ。
「貴様、何をした!」
その質問に、スラートが、呆れた表情を見せる。
「おい、おい、俺達は敵同士だぜ。
誰が、答えるかよっ!」
再び間合いを詰め、攻撃を仕掛けるスラート。
ルドミラに、考える暇を与えない。
スラートが鳴らしたのは、『犬笛』のような物。
人には聞こえないが、獣人たちの耳には届く。
スラートの仲間は、人間だけではない。
獣人もいるのだ。
『人族至上主義』の者たちに追いやられ、スラムで暮らす獣人は多い。
その者達をスラートは、仲間に引き入れている。
だからこそ、この場で、この笛は役に立つ。
笛から発せられる音の数や長さには、それぞれに意味がある。
今回、スラートが発した音の数は3つ。
その意味は『戦闘になった』。
『分散して、襲撃』。
『援護』。
という事だ。
このスラートの指示は、仲間の獣人から、それぞれに伝わると
密かに動き出した。
5人は外に出て、屋根に上ると
音を立てず、静かにルドミラ達に、近づく。
そして、3階の部屋の外で、待機すると
その時を待った。
残った1人は、足音を立てて
階段を駆け上がると、
誰にでも分かるように、戦いの場に現れた。
「兄貴!
援軍に来ましたぜ!」
『援軍が来た』と聞いてもルドミラに焦りはない。
足音から、1人だと気が付いていたのだ。
「たった1人増えたところで、何も変わらん。
死人が1人増えるだけだ」
スラートと剣を交えながら、呟いたルドミラだったが、
その考えは、一瞬で砕かれることとなる。
援軍に駆け付けた男が、ホットマンに狙いを定めた為、
盾役のモンテストが間に割って入った。
その隙に、ホットマンは、窓際に体を寄せ
退路を確保したつもりでいた。
だが、それこそが、スラート達の狙い。
密かに待機していたスラートの仲間達は、このチャンスを見逃さない。
窓の外から、突然、姿を現すと
ホットマンの心臓に剣を突き立てたのだ。
声にならない声を上げ、血を吐き出すホットマン。
振り返ったモンテストが、叫ぶ。
「ホットマン!!!」
その声に、ルドミラたちも振り向き、動きを止めてしまう。
「終わりだな・・・・・」
『ボソッ』と呟き、笑みを浮かべるスラート。
スラートの仲間達が、
次々に窓から飛び込み、攻撃を仕掛ける。
完全に、不利な状況へと、追い込まれたルドミラ達。
一瞬の出来事だった。
モンテストとワーキーは、飛び込んできた敵の攻撃は防いだが、
その隙に、元々戦っていた者の一撃を受けると
態勢を崩してしまう。
すると、続け様に、二撃、三撃も受けることとなり、床に倒れ込んだ。
「モンテスト!
ワーキー!」
思わず叫ぶルドミラ。
だが・・・・・
動くことが出来ない。
隙を見せれば、スラートが襲い掛かるからだ。
完全に、有利に立ったスラートが
笑みを浮かべている。
「悲しんでいる暇など無いぜ」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
怒りを露にしながらも、スラートに攻撃を仕掛けるルドミラに
スラートが告げる。
「俺達は、盗賊なんだ。
正々堂々とか、1対1ってえのが、大嫌いなんだわ」
そう言言い放つと同時に、剣に力を込めた。
先程までとは違う。
ルドミラが、押し込まれる。
力を緩めれば、そのまま斬り倒されることが分かっている為
ルドミラは動く事が出来ない。
スラートは、ニヤッと笑う。
「じゃあな・・・・」
その言葉を合図に、身動きの取れないルドミラに、四方から剣が突き刺さる。
ゴフッ!と血を吐き、
持っていた剣が床に落ちる。
同時に、ルドミラも、膝から崩れ落ちた。
もう、長くは持たないだろう。
血を吐き、膝をついているルドミラに
再びスラートが話しかけた。
「そうだ、1つ言い忘れていたが、
俺も勇者なんだわ・・・・・」
「・・・・・そ・・・う・・だっ・・・たか・・・」
一瞬、目を見開いたようにも見えたが
これ以上、なにも発することなく、ルドミラは、その場に倒れた。
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