第212話新たな勇者②

今回の出来事で、ホルスト達は、

教会が何か始めたのではないかと考え、

国内の警備を強化し、何時でも迎え撃てる体制を築き上げた。



それと同時に、アンドリウスに戻っているエンデ達にも、

精霊伝せいれいづたいに、この情報を送る。



その頃、各国の教会で認定された勇者達は、

エンデ討伐の為、アンドリウス王国を目指して

旅をしていた。


だが、彼らは同志ではなく、ライバル。


もっと悪い言い方をすれば、任務を遂行するのに

お互いに、邪魔な存在。


本来の考えは、勇者達が結束し

エンデを倒すことが目的だった。


しかし、それで、エンデを倒しても、

喜ぶのは、平民だけ。


貴族や、王族には、何の旨味も無い。


しかし、自国の勇者が討伐に成功すれば

まったく、話が変わってくる。


教国が倒れた今、エンデを討伐した国が

堂々と、教会を手にすることが出来るのだ。


教会は、各国にあり、信者も多い。


それに、税収とは別に

お布施という名の金銭も頂ける。


それに、医療の主体も、教会なのだから

どの国も、躍起になるのも当然の事。


そんな事情から、彼らは、共闘していない。


中には、お互いに手を取り合ってのエンデ討伐を、

支持する国もあったが、

大半が、のちに、手にすることが出来る

莫大な財産に目がくらみ

共闘を、良しとしなかった結果が、今の現状。


神の代行者ともいえる天使の意向さえも

無視し、我欲に溺れ

お互いに敵意を持っているのだから

旅の途中で、偶然にでも、かち合えば、

最悪の事態を招くことは明白。



その最悪の事態が

アンドリウス王国より、ずっと東の小さな宿場町で

今、起きようとしていた。



今しがた、この宿場町に到着したのは、スラム出身の『勇者』スラート。


彼らは、早々に宿を決めると、

酒場へと、繰り出していた。


そこで彼らは、とある話を耳にする。


「この町に、勇者様が滞在されているんだってよ」


スラートたちの隣の席で、

酒を飲んでいる男たちが、そんなことを話し始めた。


彼らは、大声で話しているので、

聞き耳など立てなくても、耳に入る。


勇者という言葉に、敏感に反応したスラートが

仲間に、耳打ちをした。


「おい、俺たちのことが、バレているのか?」


「いや、それはないと思う」


仲間の言葉を、疑問に思いつつも

スラートは、隣の男対に向けて

聞き耳を立てた。


酒を飲み、声が大きくなっている男達が

話を続ける。




「それで、その勇者様方は、何処に泊っているんだ?」


「あそこだよ、あの豪華な宿屋だよ」


 「へぇ~、やっぱり勇者様ともなると、金を持っているんだな」


「そりゃ、そうだろ。


 なんてったって、勇者様だからよ。


 それにな、その勇者様ってぇのが、もの凄ぇ別嬪べっぴんさんでよ。


 驚いたの、なんのって・・・・・」


「お、おめぇ、見たのかよ?」


「ああ、見たぜ」


男達の会話を聞き、

他の勇者の話だったと知ると

スラートは、

酒場を後にした。


そして、宿に戻ったスラートは、

店主を呼びつける。


「店主!

 どこにいる?

 早く出て来い!」


機嫌の悪そうなスラートが

大声で呼びつけていると

駆け足で、店主が姿を現した。


「勇者様、何か、御用でしょうか?」


「おい、この辺りで、

 一番豪華な宿屋ってどこだ?」


店主は、問われた宿に、別の勇者が泊っていることを知っていた為、

笑顔を見せた。


「もしかして、お知り合いでしたか?」


「まぁ、そんなところだ」


「そうでしたか、では・・・・・」


店主が、場所を伝える。


 「ここを出て右に進んで、4つ目の角に、大きな酒場がありますので

 そこの角を左に曲がって3つ目の通りの角に御座います。


 大きくて豪華な建物ですので、直ぐにお分かりいただけると

 存じます」


「そうか、わかった」


宿屋を出ると、教えられた場所へと向かうスラート達。


本当に、豪華な建物で、その宿は、直ぐに分かった。


ただ、勇者を見ようと、大勢の人が集まっており、

道が混雑している。


「兄貴、どうしますか?」


「・・・・・裏口に回るぞ」


「へい」


スラートが仲間を引き連れ、

裏口に回ろうとして角を曲がった瞬間、妙な視線を感じた。


「誰だ!」


思わず振り返ったスラートだが、

背後には、誰の姿もない。


「おい、お前ら

 そこで、何を探している?」


聞こえてきた声の方に、視線を向けると

そこには、部屋から見下ろしているルドミラの姿があった。


━━━あれが、勇者か・・・・・


離れていても、わかる程の威圧感。


「あ、兄貴・・・・・」


配下の者達でさえ、そのオーラを感じ取っている。


「やはり、勇者を名乗るだけあって

 威圧も、半端じゃないな」


スラートは、笑みを浮かながら

ルドミラに、背を向け歩き出す。


「兄貴、もういいのですか?」


「ああ、もう用は済んだ。


 引き上げるぞ」


背を向けたスラートの顔には

厭らしい笑みが浮かんでいた。


━━━部屋は、わかった・・・・・

   もう、ここに用はない・・・・・

   へへへ・・・今夜だ・・・・・

   今夜、奴を、必ず仕留める・・・・・

   首を洗って、待っておれ・・・・・



スラートは、勇者だと気付かれる前に、

配下と共に、その場から消えた。



その後、

宿に戻ったスラート達は、

早めの食事を摂り終えると、

部屋に集まる。


スラートの様子から

今夜、押し入ることを、仲間達は理解していた。


その為、

「今晩、仕掛けるぞ」


その言葉に、動揺することはない。


彼らは、スラムで育った盗賊達。


夜襲など、お手の物。


着々と準備を進めて、その時を待った。



そして、その日の深夜・・・・・


スラートたちが、動き出す。


狙いは、勇者だ。


寝静まった町の中を、黒装束の男達が駆け

目的の宿屋に到着すると、3方に別れた。


一組は、裏口から忍び込み、1階にいる者達を始末する。


もう一組は、屋根伝いに2階から忍び込み、

そのまま2階にいる者たちを始末する。


そして残った最後の一組は、同じく2階から遅れて忍び込むのだが、

2階は、素通りして3階を目指す。


その3階を目指す組の中に、スラートの姿があった。




1階と2階を任された配下達は、

慣れた手つきで、音を立てず、心臓を一突きにして、次々と屠っている。


誰一人として、見逃さない。



予定通り事が進み、1階と2階を、制圧している頃、

スラート達は、3階の勇者が泊っている部屋の前に到着していた。


後は、この部屋に入り

勇者を倒すだけなのだが、スラートは違和感を覚えた。


この階からは、人の気配がしないのだ。


「おい、全ての部屋の扉を開けろ!」


「え?!」


「いいから、やってみろ!」


スラートの命令に従い

次から次へと、扉を開け放つが

想像した通り、この階に、人は、いなかった。


「どういうことだ・・・」


スラートが、必死で考えていると

突然、悲鳴が、響き渡る。


悲鳴は、階段の方から。


そこで、我に返り、考えがまとまった。


──最悪の状況じゃねぇか・・・・・


スラートが、大声で叫ぶ。


「気を引き締めろ!

 俺達は、罠に、はめられたんだ!」


その言葉を証明するように

暗闇から、ルドミラが、姿を現す。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る