第211話新たな勇者①


勇者となった4人は、教会から武器を供与され、

それぞれの国から、エンデ討伐へと旅立った。


彼らの向かう先は、アンドリウス王国。


そのアンドリウス王国に一番近い国にいた勇者はリチャード。


彼は、冒険者時代の仲間と共に旅に出たのだが、

今迄と違い、街や村に立ち寄る度、

『勇者様!』『勇者様!』と持てもてはやされ、

段々と、のぼせ上がり、態度が横柄になっていった。


そして、その勢いがピークに達した頃に、立ち寄った国がゴンドリア帝国。


王都に入ったリチャード達は、王城へと向かい

遊興費を得る為、国王への謁見を求めた。


しかし、約束も何もしていないのだから

当然、門番の兵士に止められた。


だが、のぼせ上ったリチャードは、

それが、気に入らない。


止めた兵士に言い放つ。


「勇者様が、国王に会ってやるというのだ。


 早く、ここを通せ!」


今までと同じように門番の兵士に、横柄な態度で望むが、

兵士は、『約束の無い者は通すことは出来ない』とリチャードを跳ね除ける。


それに、激高するリチャード。


「貴様は、この俺が、誰だかわかっているのか!

 俺は、教会にに認められた勇者だぞ!


 そんな態度を取って、許されると思っているのか!」


腰巾着と化しているリチャードの仲間も便乗して

好き勝手に、言い放つが、兵士が、譲ることはない。


「何を言おうと、ここは通すわけにはいかない。


 とっとと帰れ!」


「貴様・・・・・」


調べれば、直ぐにわかる事なのだが

傲慢になったリチャードと、その手下達は

それすらも怠っていた為

この国の教会関係者が罪を犯し、

教会が排除された事を知らないのだ。


教会の権威が及ばない事を知らないリチャードは、

怒りに任せて、兵士を殴りつける。


神から授かったといわれる力で

殴りつけられた兵士が、吹き飛ぶと

もう1人の兵士が、直ぐに応援を呼んだ。


続々と兵士が集まるが、リチャード達に、引くつもりは無い。


「雑魚共め!

 貴様らが幾ら集まろうと、この俺様の敵では無いわ!」


剣を抜いたリチャードに従い、仲間達も剣を抜くと

城を守る兵士達も剣を抜き、警告する。


「これ以上の無礼は許されぬ。


 即刻、この場から立ち去れ!

 さもなくば、貴様らを捕らえる。


 抵抗すれば、命は無いものと知れ!」


だが、その言葉を無視して、リチャードは1人の兵士に迫り

言い放つ。


「フッ、この雑魚が・・・・・」


その言葉を言い終えると同時に

兵士を、一刀のもとに斬り伏せた。


リチャードの太刀筋が見えなかった兵士は、

防御することも出来ずに

この世を去った。


剣に着いた血を振り落とすリチャードが

笑みを浮かべる。


そして、倒れた兵士を、足蹴にしながら問いかける。


「さぁ、次はどいつだ?

 俺は、纏めてでも構わないぜ」


挑発するように言い放つリチャードに、

先程までの勢いを失い、怖気付く兵士達。


だが、最後の力を振り絞っているのか

リチャードの言う事だけは、聞こうとはせず

その場で剣を構えていた。


すると、背後の方から声が聞こえてきた。


「騒がしいな、何があった?」


ホルストだ。


魔法士団長のホルストの登場に、安堵の表情が浮かべた兵士達の中から

1人の兵士が、直ぐに報告へと向かった。


リチャードは、その様子を黙って見ているが

頭の中では、全く別の事を考えていた。


──なかなか、いい女じゃねえか・・・・・

  あの女を、俺様のものにしよう・・・・・


そんな下種な考えをしている間に、

兵士から、ある程度の状況を聞き終えると

ホルストが口を開く。

 

「それで、あ奴が斬りかかって来たと?」


「はい」


ホルストの視線の先には、動かなった兵士の姿。


「それで、彼が犠牲に・・・・・」


「・・・はい」


「そうか・・・・・」


話を聞き終えたホルストが、前に進み出ようとした時

兵士が告げる。


「あと、 奴は『勇者』と名乗っており、

 陛下との謁見を求めておりまして・・・・

 ただ、その謁見の理由が・・・・その・・・金銭らしく・・・・・」


「そういう事か・・・・・わかった」


ホルストは、兵士達の間を抜け

ゆっくりとリチャードの前に出た。


「お前達、このようなことをして、ただで済むと思っているのか?」


ホルストの問い掛けに、リチャードは答えず、

足元から舐め回すような視線で、全体を見た後

言い放つ。


「おい、おい、中々、いい女じゃねえか。


 もしかして、俺様への貢物か?」


リチャードの言葉に応えるように、仲間達からも声があがる。


「リチャード様、独り占めは、よくありませんぜ」


「そうですよ、たまには、回してくださいよ!」


「そうなれば、1人で、俺たちの相手をしてくれるのか!?」


『1人で大丈夫かよ?』などと言いながら、

ホルストを見て、大笑いするリチャードと、その仲間達。


だが、そんな言葉を投げかけられても

ホルストは冷静だった。


確かに、ホルストは冷静だったが、

主を馬鹿にされた精霊達は違う。


怒りを露にしていた。


姿を消したまま、ポップが話しかける。


「あいつらは、僕たちがやっつけるから

 ホルストは、そこで待っていて」


それだけ告げたポップは、

返事も聞かず、ホルストとリチャードの間に割って入った。


だが、何のわかっていないリチャード達は、

未だにヤジを飛ばし、余裕を見せている。


しかし、そんな余裕は、今だけのもの。


目の前には、怒りを露にした精霊がいるのだ。


「ホルストを馬鹿にしたクソ共、

 今、思い知らせてやる!」


『アース クエイク!』


その言葉と同時に、

地響きが起こると、リチャードの仲間達の足元にひびが入り

地面が割れた。


「ギャァァァァァ!!!」


地割れに飲み込まれるリチャードの仲間達。


突然の出来事に、呆然としているリチャード。



暫くして、リチャードの仲間達の姿が消えると

地割れも消えた。


「おい、なんだよ今の・・・・・」


事態が呑み込めず、

狼狽えるリチャード。


そんなリチャードの視界に、ホルストの姿が映る。


「もしかして、き、貴様か!?

 貴様の仕業なのか!?


 黙っていないで、答えろよ・・・・・

 一体、何をしたんだ!?」


フラフラしながらも、ホルストに迫る。


「おい、なんとか言ったらどうだ!?

 おぃぃぃぃぃぃ!!!」



持っていた剣を上段に構えたリチャードが

叫ぶ。


「仲間の仇だぁぁぁぁぁ!」


勢いのまま、渾身の力で、剣を振り下ろそうとしたが、

何故か、リチャードは、振り下ろす事が出来なかった。


「!!!」


上段に構えたまま、腕を下ろせない。


必死に藻掻くと、何かに押し返されると同時に

皮膚に、亀裂が入った。


「な、な・・・に・・・が・・・」


息も苦しくなり始めると

段々と、体に、切り裂いたような跡が

増え始めた。


もう、話すことも出来ない。


その様子を見て、ポップとシルフィドが姿を現す。


「おい、クソ人間。


 ホルストを馬鹿にするから、そうなるんだよ!」



「そのまま刻まれてしまえ!」



やんや、やんやと騒ぐ2人の精霊の前で、

切り刻まれ、血を吐きながら、意識を失うリチャード。


シルフィドが魔法を解除すると、事切れて、地面に倒れた。



その後、リチャードが、二度と起き上がることは無かった。

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