第210話 戦いを終えて

ヴァンパイアの城を出たところで

ワァサ達とは別れた。


「ルン、みんなの所に行こう」


「うん♪」


3人が、歩き出したところで

アラーバの砂漠を覆っていた黒い霧が晴れ始める。


「あっそうだった!」


エンデも、それに倣い、自身が流していた黒い霧も消した。


こうして、空が晴れていく中、エンデとルンが歩き始めたのだが

空が晴れるにつれ、サラーバの街が

はっきりと見えてくる。


思わず足を止めるエンデ。


「もう、ここには、誰もいないんだね」


「・・・そうね」


2人の会話が、ここで止まる。


あまりの惨状に、言葉が出ないのだ。


人々のいなくなったこの街が、

今後どうなるかは、わからない。


「行こうか・・・」


エンデが、そう告げた瞬間、

天空より光の柱が現れ、行く手を阻んだ。


「げ・・・」


もう、何も言わなくても、わかっている。


こんなことが出来るのは、想像するに容易たやすい。


犯人は、天使だ。


その犯人が、光の柱の中に、映し出される。


『この様子だと、魔王アガサは、

 倒されたようだな・・・・・』


映し出された者が、そう告げた時

ルンが、声を上げた。


「あっ、マリスィ!」


マリスィが、視線を向ける。


「精霊女王に、貴様は、魔王ベーゼの執事・・・・・

 貴様らがいたのなら、魔王が倒されたことも納得できるが・・・・・」


マリスィの視線が、ルンとゴージアから、エンデへと移る。


すると、マリスィは、声を失う程の驚きを見せた。


しかし、すぐ、我に返ると、エンデを睨みつける。


「ベーゼ、貴様、生きていたのか!」


怒りを見せたマリスィに、ルンが、告げた。


「違う、違うよ!

 この子は、エンデ。


 ベーゼじゃないよ。


 それくらい、よく見たらわかるでしょ!」


確かに、その通りなのだ。


マリスィは、ルンの言葉に従い

エンデのオーラを確認すると、

それが、ベーゼのモノとは、違うことが分かった。


だが、同時に、懐かしいモノを、感じてしまう。


「ルン、これは、どういうことだ?


 何故、こ奴から、天使を感じるのだ?」


「あ・・・・・」


ルンは、忘れていたのだ。


オーラを調べられたら

エンデの両親が、わかってしまうことを・・・・・。


「ルン、答えよ!」


「ハハハ・・・・・それ、また今度じゃ、駄目かな?」


「当然だ。


 配下の者達から、人間界に、悪魔が現れたとの報告は受けていたが

 その悪魔らしき者から、天使族特有のオーラを感じるのだぞ!


 こんなこと、あってはならぬことだ!


 さぁ、説明を果たせ!」


高圧的な態度を見せるマリスィに、

ルンの機嫌が、悪くなる。


「あのねぇ、言っておくけど

 あたしは、あんたの配下でも、奴隷でもないの!


 わかる?


 だから、あんたの命令に従う義理もないの!」


「なっ!

 貴様・・・・・」


「貴様じゃないわ。


 私は、精霊女王のルンよ」


「減らず口を、叩きおって・・・」



2人は、こんなやり取りを、暫く繰り返していたが

マリスィは疲れ果てて、話を打ち切りにかかる。


「もういい。


 貴様とやりあっても、埒が明かぬ」


「ふふふ・・・わかってみたいね。


 私に、口で勝とうなんて、無駄なことよ」


勝ち誇ったように告げるルンに、

マリスィは、溜息を吐いた後、告げる。


「エンデとやら、貴様は危険すぎる故、

 このままには捨て置けぬ。


 それだけは、理解しておけ」


その言葉に、何も答えず、

エンデが、マリスィを見ていると

代わりに、ルンが問いかけた。


「どうするっていうのさ?」


「決まっておる。


 危険分子は、排除するしか無かろう・・・・・」


マリスィの『排除』という言葉に

ルンの顔つきが変わり、

言い返す。


「どこが危険なんだよ!

 今回の事だって、見ていたなら、わかっているでしょ。


 あのまま放っておいたら、人間界が・・・・・」


マリスィが、ルンの言葉をさえぎって、話し始める。



「皆まで言わずとも理解している。


 だがな、そ奴は、それでも危険だ、危険すぎるのだ!


 悪魔でも無いだろう・・・、それに人族でも無い。


 悪魔の力と天使の力を持った者など

 この世に、あってはならぬのだ!


 よって・・・・・全力を以って排除するのみ。


 これは、確定事項だ」


言い終えたマリスィが、

再び、エンデへと視線を向けて告げる。


「エンデとやら、残り少ない時を、精々楽しむがよい・・・・・」


その言葉を最後に、

マリスィの映像が消えた。


ため息を吐く、ルン。


「本当に天使は勝手だよ・・・。


 それでエンデは、どうするの?」


「どうするも、なにも・・・・」


━━━どうすればって・・・・・

   やっぱり、戦うしかないのかぁ・・・・・


答えを出せず、悩むエンデだが、

そんな彼には、強い味方がいる。


いつの間にか、他の仲間達と一緒に

この場に現れたエブリンだ。


「どうするも、何も、向かって来るなら倒すまでよ。


 エンデは、私の大切な弟なのよ。


 それを勝手に排除するなんてこと、許される筈が無いわ!」


シャーロットも同調する。


「ええ、その通りです。


 勿論、私も力を貸すわ!」


2人は、しっかりと握手を交わし、頷き合う。


「主人は、愛されているのですね」


笑顔を見せるゴージアに、

苦笑いをするしかないエンデ。


『ハハハ・・・・そうだね・・・』



マリスィの話しぶりから

今すぐ、どうにかなるわけではなさそうだ。


それが、わかっているだけ有難い。


マリスィの宣戦布告を受けたエンデ達は、

砂漠の境界で待機していたアンドリウス王国の兵たちと合流すると、

一旦、王都へと戻ることにした。




それから数日後・・・・・


マリスィが、動き出す。


全国の教会に、巫女を通じて神託が降りたのだ。



『この世界の害悪となりうるエンデ ヴァイスを倒す為、勇者を起こせ』と。


それともう1つ、『召喚の儀を行え』というものだ。



『勇者を起こせ』とは、神(天使)に選ばれた勇者を探し出し、

教会に預けてある武器を授け、エンデの討伐に、迎えということだ。


その勇者となる者には、『勇者の証』が刻まれているらしい。


また、その者に、神器ともいえる武器を授けることで、

人ならざる力を発揮して、

力が、増大するらしいのだ。


この神託から、数日後

各国の教会が一斉に動き出した。


神託から、選ばれた勇者は7人。


ある程度の場所は、巫女を通じてわかっているが、

それ以上の事は、教会の手の者が探すしかないのだ。


しかし、教会には、他にも、やるべきことがある。


天使を召喚する為の巫女の選択だ。


今回の召喚は、各大国に、1人の召喚が義務付けられている。


その為、魔力や能力の高い巫女をめぐって

各国が取り合いを始めたせいで、

巫女の選定に時間がかかってしまい

召喚の儀まで、現状、至っていない。



こうして、

中々、巫女が決まらない中だったが、

勇者の発掘の方は、思った以上に、上手くいっていた。


現在、教会が探し当てた人数は4人。


その中の2人の名は【リチャード】と【ルドミラ】。


どちらも剣士で、魔法も使えるランクSの冒険者。


彼らは、パーティを組んで討伐を行っていた為、

既に、同行する者も決まっていた。


それと後2人。


1人は、とある村で農業を行っていた者。


名は【ウルグス】。


ウルグスは、ある夜、夢の中で天啓を受けた。


『お前に力を授ける。


 『勇者』となり、この世界を救う為に、

  悪なる者、エンデ ヴァイスを倒すのだ』


思わず、目を覚ましたウルグスだったが

井戸で、体を洗おうとした時に

気が付いた。


ウルグスの胸には、夢の中で見た

勇者の証が刻まれていたのだ。


「この俺が、勇者なのか・・・・・

 もし、それが本当なら、この村を、救えるかもしれない」


この貧困に喘ぐ村を救いたい!


━━━この村に関係の無い者など、どうでもいい。


   だが、俺が、勇者として動くことで

   村を救えるのならば、俺は、勇者になる・・・・・



覚悟を決めたウルグスは、

この日から、毎日、鍛錬に励み始めた。




一方、見つかっている中の最後となる4人目の名は

【スラート】。


某国のスラム街を根城とした

盗賊を纏めている頭だ。


残忍だが、子供には優しい。


その事を、うまく利用して、

なんとか交渉のテーブルに着かせることに成功した。


それから、数日後


教会と盗賊の頭であるスラートとの話し合いが、

始まった。


スラートに、勇者になってもらう為の提案は、この2つ。


1つ目は、罪の削除と、勇者として働いてもらう為の金。


内容的には、悪くない話と思えたが

スラートは納得しなかった。


「罪状なんて、どうでもいい。


 俺に言わせれば、箔がつくというもの。


 それに、それっぽっちの金なら、

 今まで通り、奪えばいいだけのことだ」


その言葉に、激高する教会関係者の【リック】。


「貴様!

 これ以上、罪を重ねるつもりか!」


「落ち着けリック!


 お前は、護衛として同行を許しただけであって、

 意見を述べる立場ではない。


 理解が出来ないのであれば、この場から立ち去れ!」


「ぐ・・・・・」


リックをたしなめたのは、

今回の責任者である【レビントン 】だった。


レビントンは、

この国の教会を纏める重鎮である。


そのレビントン に窘められ、

リックは、落ち着きを取り戻すと

謝罪を口にした。


「スラート殿、すまなかった・・・・・」


「別に、構わないぜ」


謝罪を受け入れてくれたことに

安堵したレビントンが、再び、スラートと向き合う。


「スラート殿、申し訳なかった。


 話を、続けさせて頂いても、宜しいか?」


「ああ、構わないぜ」


「それでは・・・・・」


咳払いをした後、レビントンは、スラートに問いかける。


「単刀直入に、伺いますが

 貴方の望みを、教えてください」


「そうくるか・・・なら・・・・・」


スラートの要望は、こうだ。


『勇者という仕事に対しての対価』

『配下の者達を罪に問わず、仕事を与えること』

『スラム街の住居改築』。


この3つ。


「なっ!」


驚きのあまり、

思わず、口を開こうとしたリックだったが、

レビントンが睨むと、口を閉ざした。


リックを制したレビントンが、

話を続ける。


「その要望を受け入れれば、

 勇者になって頂けるのだな」


「ああ、約束するぜ」


「わかった」


レビントンは、この要望を受け入れた。


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