第207話 魔王対決①

再び向き合うワァサとアガサ。


「魔王ワァサ。


 貴様は、いつも儂の邪魔をする。


 此度こたびの人間界の事もそうだ。


 貴様に、何の関係があるというのだ」


「はっ、そんなこと、貴様に教える必要はないだろ。


 それとも、知らないと戦えないのか?」


挑発するワァサに、アガサが言い放つ。


「ふんっ!

 相変わらず、まともに答えるつもりはないようだな。


 ならば、もう何も問わぬ!」


言い終えると同時に、アガサが変化する。


爪が伸び、背中から、翼が生えた。


また、顔も変化し、最終的には、蝙蝠に似た姿へと変化したのだ。


「もう、貴様に勝ち目などない。


 この儂の贄となれ!」


低空を飛びながら、ワァサに襲い掛かるアガサに、

ワァサは、剣を抜き、構える。


そして、間合いに入ると同時に、ワァサは、剣を振るったが

その剣は、くうを切り、アガサには、当たらなかった。


「なに!?」


確実に捉えたと思っていただけに

驚きを隠せないでいると

その隙をつき、アガサは、ワァサの首筋に噛みついた。


アガサは、そのまま血を吸おうとしたが

ワァサが、それを許す筈が無い。


剣先を、背後に向けて、突き刺すような動きを見せて

アガサを振り払おうとすると

感づいたアガサが、先に動く。


奪った背後を、あっさりと捨てて

再び、距離を取ったのだ。


離れた隙に、肩を抑えるワァサ。


その様子に、笑みを浮かべるアガサ。


三度みたび、向き合う形となったワァサとアガサ。


今度は、ワァサから、仕掛けた。


だが・・・・・


2歩、3歩と進めると、突然、視界が歪む。


「お、おい、なんだこれは・・・」


足元も覚束おぼつかず、視界も定まらない。


「貴様の仕業か・・・」


ワァサに、睨まれたアガサは、笑みを浮かべたまま答える。


「効いてきたようだな。


 ワァサよ、魔王であるこの儂が、ただ血を吸っているだけだと思っていたのなら

 それは、貴様の慢心じゃ。


 確かに、貴様の方が、力は上かもしれぬ。


 だが、儂は、ヴァンパイアでありながら

 この長き年月、眠りに就くことなく生き延び

 魔王という地位まで上り詰めたのだ。


 その意味、貴様にわかるかのぅ・・・


 まぁ、わからなくともよい。


 貴様は、ここで、終わるのだ!」


ふらつくワァサに向けて、アガサが、接近する。


しかし、ワァサとて、このまま終わるわけにはいかない。


──このまま、やられてたまるかよぉ・・・・・


気合で、オーラを解き放ち、

一瞬だが、アガサの動きを捉えることに成功した。


──今度は、外さない!・・・・・


その言葉通り、すれ違う一瞬に、全てを賭けたワァサの一撃が

見事に、アガサを捉えた。


だが、致命傷ではない。


斬ったのは、右の羽。


付け根から、バッサリと切り落としただけに留まった。


それでも、体勢を崩し、地面を転がるアガサに

ワァサが、笑みを漏らす。


「ハハハ・・・ジジイ、みっともねぇな」


この強がりともとれる発言に、アガサの怒りが爆発する。


「この、死に損ないがぁ!

 調子に、乗るなぁぁぁぁぁ!!!」


地面を駆け、爪を振り上げるアガサ。


一撃を、食らわすことに成功したワァサだったが

未だ、視界は歪んだまま。


このままでは、負けてしまう。


そんなことが、脳裏を横切ると同時に

アガサの爪が、振り下ろされた。


だが、その爪が、ワァサに、触れることはなかった。


「大丈夫?

 回復する?

 それとも、交代しようか?」


爪を受け止めた状態で聞いて来るエンデに

ワァサは、顔を歪めながらも、笑みを浮かべて答える。


「なら、回復を頼む」


「わかった」


言葉通り、エンデが、ワァサに向けて右腕を前に出し

呪文を唱えた。


『ハイヒール』


『リカバリー』


回復と状態異常を、連続で使い

ワァサの体をもと通りに戻すと、

エンデが、もう一度尋ねた。


「回復は終わったけど、本当に交代しなくていいの?」


「当たり前だ。


 そこのジジイは、俺が倒す」


視線の先には、エンデに、動きを封じられている状態のアガサの姿があった。


「今度は、ベーゼ、貴様が、邪魔をするのか!」


未だに、エンデの事を、ベーゼだと思い込んでいるアガサの発言を聞き

エンデとワァサの視線が合わさる。


──うん、このまま放っておこう・・・・・


2人は、アガサに残念そうな視線を向けた。


「おい、何か隠しているのか!?」


思わず、問いかけてしまったアガサに、隙が出来る。


それを、見逃す訳もなく、

回復したワァサが、アガサに向けて

渾身の蹴りを放った。


片翼を失っている為、飛ぶことが出来ず、

地面を転がるアガサに、ワァサが、次の一手を放つ。


『大地よ、かの者の障害となれ!」


『アースクエイク』


城の地面が隆起し、転がるアガサの障害物となり

次々に、ダメージを与えてゆく。


だが、これで終わりになど、なる筈が無い。


隆起してできた障害物で止まった後

立ち上がったアガサは、杖を取り出し

真横に構えた。


「邪魔が入らぬところで、戦うとしよう」


アガサが、呪文を唱える。


「誘え、我と共に・・・・・』


『アザー ディメンション』


周囲の空間が歪む。


アガサは、ワァサを異空間へと誘ったのだ。


一瞬の暗闇の後、ワァサが、目を開けると

そこは、今までいた場所とは、違った。


それもその筈。


ここは、アガサの造った異次元の世界。


ここから出る方法は、一つだけ。


それは、アガサを倒すこと。


なんとなくだが、ワァサも、ここがアガサの創り出した世界であり

アガサを倒さないと、帰ることが出来ないことも、理解した。


「俺は、閉じ込められたという事だな・・・・」


その呟きに、突然、姿を見せたアガサが答える。


「確かに、その通り・・・・・ではあるが

 それだけではない。


 ここは、儂の造りだした世界。


 全て、儂の思い通りになるのだ!」


言い終えると同時に、笑みを浮かべながら魔法を放つ。


『アイスランス』 

 

氷の槍が、ワァサを取り囲むように現れた。


「ふふふ・・・これだけではないぞ」


『ファイヤーウォール』


氷の槍に続き、円を描くように

炎の壁が現れ、ワァサの逃げ道を完全に塞いだ。


「これで貴様も、終わりだ。


 行け」


合図に従い、氷の槍が、ワァサに襲い掛かった。


逃げ道の無い状態での攻撃に

ワァサは、決断を迫られる。


だが、出来ることなど、殆どない。


ワァサは、唯一取れる方法を使う。


『マジックシールド』


魔法を防ぐには、これしかない。


しかし、アガサの魔法攻撃は、氷と炎の二重攻撃。


マジックシールドが、どこまで耐えられるかは、

わからない。


そんなことを考えているうちに

氷の槍が、降り注ぐ。


マジックシールドを張り、

アガサの攻撃を、攻撃を必死に耐えていると

自身の体温が上がっていることに気付く。


「まさか!」


先程まで、氷の槍の後ろにあった炎の壁が、

範囲をせばめながら、近づいて来ていたのだ。


──このまま、マジックシールドと衝突すれば

  最悪、シールドが、消滅するかもしれないな・・・・・ならば!・・・


覚悟を決めたワァサは、マジックシールドに、魔力を供給する事をやめた。


そして、オーラを放つように、魔力を開放すると

周囲にあった物の全てが、吹き飛ばされ、攻撃もんだ。


だが、それで終わりではない。


放出した魔力が、膨れ上がると同時に、ワァサも、大きな変化を遂げていたのだ。


今までの紫に近い色の肌は、

紅く染まり、異質な模様が刻まれている。


また、2つの角は、異様な程の存在感を示しており

その姿は、悪魔というより、『鬼』に近かった。


「この姿になるのも、久しぶりだが、

 まぁ、今は、そんなこと、どうでもいい。


 おい、ジジイ、覚悟は、出来ているんだろうな」


「ふんっ、そんなもの、いらぬわ。


 もしや貴様は、ここが儂の造りだした世界だということを

 忘れてはおらぬか?」


「忘れてはいないさ。


 ただ、今の俺には、関係が無いだけだ」


その言葉を、証明するように

アガサの前から、ワァサの姿が消える。


そして、次に現れたのは、アガサの目の前。


「ジジイ、引導を渡してやるぞ!」


ワァサが、渾身の蹴りを放つと

アガサの体は、地面に叩きつけられた。


倒れたままのアガサに、ワァサが告げる。


「早く立て。


 ここからが、本番だ」



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