第206話 アガサ サラーバでの戦い⑨

信じられないような結末を迎えたデルトーレとサルバドの戦いに

アガサは、呆然としていたところに

先程、出て行った筈のデルトーレが

悲鳴と共に、再び、部屋の中へと、放り込まれた。


態勢を整える暇もないのか

そのままの状態で、怯えながら、後退るデルトーレの姿に

部屋の中にいた者達の視線が、集中する。


皆の視線を集める中、怯えているデルトーレに

部屋の外から、足音と共に、何者かが、近づいてきた。


「デルトーレ、貴様は、何をしているのだ・・・・・」


足音の正体が、姿を見せると

アガサが声を上げる。


「ウルダ様!」


今までのヴァンパイアには、同志や~殿といった呼び方だったが

この者に限っては、様という敬称を使っていることから

アガサよりも、上位の存在だと窺えた。


「ウルダ様、何故・・・」


「ん・・・・・貴様は確か・・・アガサ」


「はい、アガサでございます。


 それで、ウルダ様は、いったい、どうして?」


アガサも、ウルダの出現に驚いていることから

アガサにとっても、ウルダの出現は、想定外だった。


【ウルダ ツベッシュ】


彼女は、始祖の血に連なる者ではなく、

始祖、その者なのだ。


同志と呼べるヴァンパイアを呼び起こした時

アガサは、ガルガを起こさなかった。


その理由は、自身より、上位の存在という事だけではなく

命令することさえも、不敬と取られ兼ねないからだ。


万が一、不敬と捉えられれば、

呼び起こしたヴァンパイアの全てが、

アガサの敵となってしまう。


そんなリスクを避ける為、ウルダを、呼び起こさなかった。


その筈なのに、今、目の前には、ウルダの姿がある。


「おい、デルトーレ、これは、どういう事じゃ!?」


その問いに、アガサが答える。


「この城に、入って来た不届き者を、処分しているところでございます」


「そうか・・・では、この者は、何故、逃げてきたのだ?」


「そ、それは・・・」


今、デルトーレの生死は、アガサの言葉にかかっている。


それは、デルトーレも、理解しており

懇願するような目を、アガサに向けているが

裏切り、この場から逃げ出したデルトーレを庇う気持ちなど、

微塵も、持ち合わせていない。


「こ奴は、あの竜との闘いを避け

 逃げて行った者でございます」


「そうであったか・・・」


ウルダの視線が、デルトーレへと注がれる。


「デルトーレよ、何か、申すことなあるか?」


「ご、誤解でございます。


 私は、戦闘を避けた訳ではなく

 仲間を集めに、向かったまでです」


「そうか、ならば、貴様に流れている我の血に問おう。


 デルトーレ、貴様が、あの竜との闘いを、避けた理由を申せ」


ウルダの言葉に、デルトーレの口が、勝手に動き始める。


「過去、奴と戦い、消滅されかけたことがあり

 その記憶から、戦いを避けました」


勝手に動く口に、デルトーレは、慌てて口を抑えるが

そんなことで、動きが止まる筈が無い。


「それに、私が、この者に、手を貸す道理は、御座いません。


 私は、こんなところで死んでもいい存在ではないのです」


そこまで聞くと、ウルダが止める。


「わかった、もうよい。


 デルトーレよ、貴様の処分は、決まった」


ウルダは、そう告げた後、右腕を前に出した。


「氷柱のフェンリルよ。


 今ここに姿を現せ」



ウルダの言葉に従い、氷の柱が現れると

それは、直ぐに、青白い毛のフェンリルへと変化した。


『グルルルルル・・・・・』


唸り声を上げながら、

ウルダの命令を待っている。


「断罪の時だ。


 デルトーレ、貴様は、永劫の中で反省しろ」


その言葉に従い、フェンリル達が

一斉に襲い掛かった。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


血の影響なのか、デルトーレは

無抵抗のまま、フェンリル達に噛みつかれ

あっという間に、氷柱の中に、閉じ込められた。


こうして、デルトーレを始末したウルダは

視線を、サルバドへと向ける。


「我が配下が、世話になったようだな」


「ふっ、気にすることもない。


 あ奴も、それなりには強かったが、

 残念なことに、我には、及ばなかっただけだ」


「そうか・・・では、代わりと言ってはなんだが

 われが、相手をしてやろう」


そう言い放つと同時に、フェンリル達が、サルバドに襲い掛かった。


「駄犬共がっ!」


サルバドも、戦闘態勢に入り、

フェンリル達を、迎え撃つ。


この隙に、ウルダが、アガサに声をかける。


「アガサよ、貴様は、目の前の男に集中せよ。


 決して、あなどられるではないぞ」


この言葉の裏には、敗北は死だと物語っていた。


アガサは、覚悟を決める。


「ワァサよ、ここで決着をつけようぞ」


魔王対魔王の本当の戦いが、今、始まる。





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