第203話 アガサ サラーバでの戦い⑥
ロナーリオは、ワァサを睨みつける。
「今度は、貴様か・・・・・
ふん、まぁいい・・・誰が来ても、同じことだ・・・」
言い終えると同時に、ロナーリオが合図を送ると
蜘蛛達が、一斉に糸を吐きだした。
当然の事だが、狙いはワァサ。
だが、そのワァサは、そこから一歩も動かずに
魔王覇気を放つと、
ワァサに向かっていた全ての糸が
黒い炎で、焼き尽くされた。
「おい、こんな子供だまし、俺に通用すると思ったのか?」
その言葉を聞き、ロナーリオは、笑みを漏らす。
「ククク・・・・・面白い。
それでは、ご希望通り、私、自らが、お相手しよう」
ロナーリオは、前方に飛びあがると
ワァサに向けて、剣を振るった。
だが、剣は、あっさり弾き飛ばされる。
ワァサは、まだ、一歩も動いていない。
「おい、それが、本気か?
ならば、けりをつけよう」
地面を蹴り上げたワァサが、一気に、ロナーリオとの間合いを詰める。
そして、顔面に拳を叩きつけた。
躱すことも出来ず、その拳を、顔面に受けたロナーリオは、
勢いのまま、壁に衝突した。
「早く立て!
貴様には、俺の配下が、世話になったんだ。
こんなものでは、終わらないぞ」
ワァサのその言葉を受け、ロナーリオが、立ち上がる。
「き、貴様、調子に乗るなよ・・・・・
この私を、本気で怒らせたのだ・・・
もう、手加減などせぬ・・・覚悟しろ!」
ロナーリオの体に変化が起きる。
脇の辺りから、左右2本ずつ、腕が生え
顔には、隠れていた目が、浮き上がる。
その姿は、完全に蜘蛛。
「この姿になるのは久しぶりです。
さぁ、我らの贄となっていただきましょう」
ロナーリオの六つの目が光ると、
ワァサに向かって光線が放たれた。
光線は、ワァサを狙っているが、
それは2つだけで、残りは、逃げ道を塞ぐように放たれている。
危機的状況に陥っている筈のワァサだが、
その場を動こうともせず、
再び、呆れた表情を見せる。
「なんだ、これは・・・・・」
先程と同じように魔王覇気を放つと、放たれた光線が消えた。
「お前、まだ、こんなものが、俺に通用すると思っていたのか?」
魔王覇気を放ったまま、ゆっくりと間合いを詰めるワァサ。
「な、何故だ!?」
再び、光線を放つロナーリオだが、ワァサの魔王覇気に打ち消されてしまう。
顔を歪めるロナーリオ。
「ちょ、調子にのるなぁぁぁぁぁぁ!!!」
怒りに身を任せて、6本の腕を振るうが
ワァサには通用しなかった。
冷静に1本ずつ腕を切断され、最後には、全ての腕を切り落とされた。
それでもロナーリオは、ワァサを睨みつけている。
「覚えていろ。
次は貴様の番だ。
必ず、この手で報いを受けさせる」
「そうかい。
でも、次は無いぜ」
ワァサは、持っていた剣で、ロナーリオを真っ二つにすると
最後に、火炎魔法で灰になるまで焼き尽くした。
こうして、1体目のヴァンパイアを屠ったワァサ達だが、
まだ、始まったばかりなのだ。
その後も、襲い来るワーウルフ達を倒しながら、先へと進んでいくと
一際立派な扉が、見えてきた。
「さすがにこれは、入らないでしょう?」
見るからに、『ここにいますよ』と言わんばかりの扉の前には
2体の、大柄なワーウルフが、門番として立っている。
「ワァサ様、引き返して、別の道を探しましょうよ」
アルバの言葉に、ワァサが、笑い出した。
「お前、俺達は、戦いに来たんだぞ、
それなのに、何故、迂回することを考えるのだ?」
「いや、その・・・あまりにも、あからさますぎて・・・」
「まぁ、確かにそうだが、
それはそれで、面白いではないか」
ワァサは、アルバの言葉を無視して、
扉に向かって、歩き始める。
アルバも、仕方がないとばかりに後を追った。
そして、扉の前に立つと
大柄な、ワーウルフが、声をかけて来る。
「貴様らが、侵入者だな。
ここを通して欲しければ、我を・・・・ぐぎゃ!」
「ワァサ様、取り合えず、最後まで聞きましょうよ。
あいつ、話の途中で、死んでしまったではないですか!」
「ふんっ!聞く必要などない。
次は、あいつだ」
アルバの言葉を無視して、ワァサが、ワーウルフに襲い掛かる。
「調子に乗るなぁぁぁぁぁ!!!」
ワーウルフも、必死に抵抗しようとした。
だが、ワァサの相手になる筈もなく、
あっさりと倒され、命を落とした。
「おい、行くぞ!」
「は、はいっ!」
ワァサは、再び、扉の前に立つと
蹴りを入れて、扉を破壊する。
そして、轟音と砂煙の立ち込める中、
足を踏み入れた。
すると、声が聞こえて来た。
「手で押せば、開くだろうに・・・・・
貴様は、礼儀を知らぬのか?」
声の主は、【デルトーレ】
彼もまた、始祖に連なる者の1人である。
そんなデルトーレに、臆することなく
ワァサが告げる。
「悪いな。
天界の掟を破るような輩を、仲間に持つ者どもに対する礼儀など
待ち合わせておらん」
「小僧が減らず口を・・・・・」
ワァサを睨みつけるデルトーレ。
そのデルトーレの横には、2人のヴァンパイアが立っていた。
「デルトーレよ、あれが侵入者で、間違いないな?」
「はい、あ奴の話だと、魔王の1人とのことです」
「ほぅ・・・・・魔王か・・・・」
デルトーレより若く見えるヴァンパイアの【ツベット】は、
ワァサを見ながら、もう1人のヴァンパイアに告げた。
「【ガクブル】、貴様は、後ろの小僧の相手をしてやれ。
儂は、その魔王とやらと遊んでやるわ」
「畏まりました」
ガクブルは、ツベットに一礼をすると、アルバの前へと、移動した。
「小僧、貴様の相手はこの私だ。
かかってこい」
アルバは、先程ロナーリオに手も足も出なかったことを思い出す。
──俺が負ければ、兄貴が3対1で戦うことになる。
だが、今の俺で勝てるのか?・・・・・・・どうする・・・・・
迷いの生じているアルバに、ワァサが声を掛ける。
「おい、余計なことを考えるな。
目の前の敵に集中しろ。
それが、出来ないのなら去れ!」
ワァサの言葉に、アルバは奮い立つ。
「冗談きついぜ兄貴。
ここまで来て、『帰れ』って言われても、帰らないぜ。
でもよ、万が一の時は頼むわ」
覚悟を決めたアルバの言葉に、ワァサが、笑みを浮かべて応える。
「ああ、任せろ」
覚悟を決めたアルバだが、
相手を見定める程の余裕はない。
──先手必勝!・・・・・・
一気に距離を詰め、接近戦を挑む。
剣に炎を纏わせ、ガクブルに、休む暇を与えぬように攻め続けた。
だが、ガクブルには焦りどころか、慌てる様子さえない。
「貴方の全力は、この程度ですか・・・・・」
「クソッ!」
アルバは焦り、纏う炎を強めようとした時、
ガクブルが初めて反撃に出る。
アルバが力を込めた瞬間を狙い、取り出したレイビアで右腕を貫いたのだ。
一瞬にして、魔力が散り、纏っていた炎が弱まる。
「チッ!」
痛みを堪え、距離を取ろうとするアルバだが、
ガクブルが、それを許さない。
離れようとしても、直ぐに間合いを詰め、レイビアで突く。
右腕の次は、左腕、そして右太腿、左太腿。
致命傷を与えず、甚振るガクブル。
完全にアルバの心を折ろうとしている。
わかっていても、対応できず、
徐々に傷を負い、速度が落ちるアルバ。
本人も、分かっている。
だが、成す術がない。
──畜生・・・・・
俺に、もっと力があれば・・・・・
激痛を堪えているが、もう腕に力が入らない。
とうとう、アルバは、剣を落としてしまう。
カラン!と床に響く音。
立つこともままならず、その場で膝をつくと
ガクブルが、声をかけてきた。
「もう、終わりですか?
これでは準備体操にもなりませんね・・・・・」
笑みを浮かべるガクブル。
アルバに、その顔を見る気力も残っていない。
「では、止めを・・・・」
ガクブルが、そう呟いたとき、
目の前に、突如、何者かが現れ、ガクブルを吹き飛ばした。
突然の出来事に、全員の動きが止まる。
そして・・・・・
「き、貴様は、何者だ!」
突然現れたエンデに、驚きを隠せないでいる。
だが、エンデは、いつものペースを崩さない。
「アルバさん?だったよね。
大丈夫?」
言葉と同時に、回復魔法をかけて、アルバを癒していると
ルンとゴージアが、遅れて入って来る。
「ここにも、アガサは、いないのね・・・」
「うん、そうみたい。
でも、アガサの仲間があそこにいるよ」
エンデが示した方向には、3人のアンデットの姿がある。
「そうみたいね。
面倒だから、さっさと倒してくれない?」
「うん、わかったよ」
ルンに、アルバを任せ、エンデが前に進むと
3人のヴァンパイアが、怒りを露にして、問いかけてくる。
「おい、小僧。
貴様は、先程、なんと申した?」
「えっ!
大したことは、言っていないよ」
「そうか、我の耳には、さっさと倒せと聞こえたのだが?」
「ああ、それは、僕じゃないよ。
あれは、ルンが、言ったんだよ。
もしかして、おじさん、聞きていなかったの?」
「き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
エンデの態度に、椅子から立ち上がったデルトーレが、
命令を下す。
「ガクブル、この小僧を、八つ裂きにしてしまえ!」
「招致!」
先程、吹き飛ばされた件もあってか、
ガクブルは、剣を手にすると、
一旦、宙に浮き、そこからエンデに接近する。
「地を這うしか能の無い人族如きが、
覚悟しろ!!!」
一気に距離を詰めようとするガクブルを前に、
エンデも、元の姿へと変化する。
紫の肌、6枚の翼。
額には、角が生えている。
「ベーゼ様・・・・・」
分かっていても、声が出てしまったアルバに、
ワァサが、歩み寄る。
「わかっていても、そっくりだよな」
「え、ええ・・・」
そんな会話をしている間に、ガクブルは、距離を詰めていたが
エンデの変貌に、自然と体が縮こまってしまったせいで
思うように、剣が振るえず、隙を作ってしまう。
そんなチャンスを、エンデが、見逃す筈がない。
ガクブルの攻撃を躱したエンデは、再度、ガクブルを弾き飛ばした後
一気に詰め寄り、剣を心臓に、突き刺した。
そして、呪文を唱える。
『ファイヤー』
エンデの言葉と同時に、ガクブルの体が炎に包まれた。
『ギャァァァァァ!』という叫び声を最後に、ガクブルは灰と化した。
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