第201話 アガサ サラーバでの戦い④

嘆きの沼より現れ、襲い掛かるアンデットの軍勢に

アガサ配下の悪魔達は、劣勢を強いられた。


だが、この状況をアガサが黙って見ている筈も無い。


「不死に近い者達の召喚は、貴様だけのものではないわ」


アガサは、両手を広げた。


「目覚めよ、我が妃たちよ」


アガサが呼び出したのは、2体の『ヴァンパイア ブライド』。


魔王アガサの正体は、永年の時を生きるヴァンパイア。


ヴァンパイア ブライドを呼び出したアガサは、自身の体も変化させ

今迄の老人の姿を脱ぎ捨てる。


アガサの肩に手を置き、恍惚な笑みを浮かべるヴァンパイア ブライド。


「ふふふ・・・アガサ様に、お呼び頂けるなんて何年ぶりかしら・・・・」


「ほんとよね、アガサ様ったら、中々呼んでくれませんもの・・・・・」


ヴァンパイア ブライドの【ミレイ】と【メロ】は

口では文句を言っているが、肩に置いていた手を前へと移し

背後から抱き着くような姿勢をとり、嬉しさを滲ませていた。


そんな2人を、アガサは、引き剥がそうなどしない。


「ミレイ、メロ。


 お前たちと戯れるのは後だ。


 今は、この状況を何とかせねばならぬ」


ミレイとメロは、眼下を睨む。


「邪魔なゴミどもめ・・・・・」


「同意するわ。


 私達の大切な時間を、邪魔するなんて・・・万死に値します」


2人は、アガサから離れ、一歩前に出ると、両手を広げる。


「我が下僕たちよ、この場に静寂を取り戻しなさい」


その言葉に応え、ヴァンパイアの集団が姿を現すと

彼らは、ミレイとメロの命令に従い

アンデットたちに襲い掛かった。


だが、アンデットの優位は変わらない。


その理由は、言うまでもなく、嘆きの沼のせい。


傷ついたヴァンパイア達は、有無を言わさず、

次々と嘆きの沼へと飲み込まれた。


そして、アンデットと化し、アガサの前に現れる。


「忌々しい奴らめ・・・・・だが、まだ終わりでは無いぞ」


蝙蝠のような翼を広げて、浮かび上がるアガサ。


それに追従するミレイとメロ。


3人の行先は、城の屋上に造られた召喚の祭壇。


召喚の祭壇に辿り着くと、中へと入り、階段を下りる。


そして、階段を下りた先には、

このサラーバの住人たちの亡骸があった。


また、亡骸の近くには、大きな器があり、

住人たちから抜き取った血が、並々と注がれていた。


「ミレイ、メロ、始めるぞ」


「はい」


3人は、大きな器を中心に、逆三角形を作るような位置につく。


そして、ミレイ、メロが泣き叫ぶような声で歌い始めると

アガサは、その歌声に添うように呪文を唱え始めた。


「我は常闇の王。


 新たにこの地を統べる者。


 最果ての地に沈みし、古の城よ

 永劫の眠りから目覚め、 

 今、再び、我と共にあれ!」

 

『ブラッド キャッスル』


一際大きく、ミレイとメロの歌声が響く中

地響きを起こし、轟音と共に、

始祖の地にあったヴァンパイア城が、姿を現した。


「ミロ、ミレイ、さぁ、中に入るぞ」


歩き始めたアガサは、中に入ると

同胞を呼び起こす為に、地下へと向かった。


そして、地下に到着すると、

古びた棺が、所狭しと並んでおり、

その光景に、アガサは、笑みを漏らす。


「待たせたな、我が同胞たちよ。


 ミロ、ミレイ、例のあれを」


「畏まりましたわ」


2人の後ろには、先程の大きな器が、浮いており、

その器の中に残っていた血液を

1つ1つ、丁寧に、棺に振りかける。


すると、棺に造られていた溝を伝い

棺の中へと、流れ込んだ。


棺の中に流れ込んだ血液は、

静かに眠るヴァンパイアの口元へ、ポタリと落ちる。


そして、唇を伝い、口の中へ。


すると、眠っていたヴァンパイアが目を覚ました。


1人、2人と、棺から這い出てくるヴァンパイア達だが

彼らは、アガサに仕える者たちではない。


同胞であり、ヴァンパイアの聖地ともいえる、

この城を守る者たちなのだ。


「待っていたぞ。


 我が同胞たちよ!」


アガサは、蘇った同胞に歓迎の意を示すのだが、

復活したヴァンパイア達は、怪訝な顔をしている。


「貴様か・・・・・、我らを起こしたのは?」


予想と反し、起こされたことに不満を持っているような彼らの態度に、

アガサも戸惑いを隠せない。


「ど、同胞たちよ、

 確かに、呼び起こしたのは儂だが、それには理由があるのだ」


「ほぅ・・・・・」


「実はだな・・・・・・」


アガサは、都合の悪いことはすべて隠して説明をした。


「ならば、貴様は、新たなるヴァンパイアの地を求め

 この人族の世界に来たというのだな」


「その通りなのだが・・・・・。


 ただ少し、不味いことになっておって、同胞の力を借りたいのだ」


「貴様が、我らに命令をすると?」


「それは誤解だ。


 先ほども申したが、力を貸してほしいだけだ。


 儂とて、貴殿らを駒のように扱うつもりなど、思ってはおらぬ」


「そうか・・・・・」


アガサは、現世の魔王でもある自身に対して、

このような態度をとる同胞に

苛立ちを覚えてしまう。


──呼び起こした恩を忘れおって・・・・・・

  まぁいい・・・・・

  貴様らは、捨て駒だ・・・・・


心と裏腹うらはらな態度で接するアガサ。


だが、それを見抜かれるわけにはいかないので

従順な態度で接する。


「同胞たちよ、

 それで、お願いなのだが・・・・・」


「お願い?」


「ああ、先程も話したが、儂の領地拡大に異を唱えた魔王が攻めてきておる。


 それで、力を貸してもらいたいのだ」


「なんだ、そんな事か・・・・・

 わかった。


 この城に、足を踏み入れようとする輩がいるのであれば、

 それは、我らの敵でもある。


 力を貸そう」


「感謝する」


蘇ったヴァンパイア達は、エンデ達を迎え撃つために

それぞれの場所へと、分散した。




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