第195話アガサ 決戦に向けて①

マリオンの話を聞き終えたエンデの後ろに

いつの間にか、ダバンの姿があった。


「ダバン・・・・・マジ?」


「まぁ、そういうことだ」


仲間が幸せになる。


それは、エンデにとっても嬉しい事。


「わかったよ。


 それで、これからダバンはどうなるの?」


「ん?

 何も変えるつもりはない。


 今まで通り、主と一緒に旅をするぜ」


その言葉に、エンデは、違和感を感じた。


「えと・・・旅って・・・・・好きでしている訳では無いんだけど・・・・・」


「でも、いつもどこかに出かける羽目になるわよね」


「それはそうだけど・・・・・」


初めは、国王からの命令。


そこから、ゴンドリア帝国、アルマンド教国と繋がった。


だが、まだ、終わりではない。


現在、今までで、一番大きな問題となりうるアガサの件が

残っているのだ。


その為、今後も、旅に出ることになるだろう。


その考えは、直ぐに現実となる。



新しい屋敷に移り住んで数日後、ルンのもとに、アガサの情報が届く。


持ち込んだのは、砂の精霊【サウド】。


精霊回廊を使い、このアンドリウス王国のルンのもとまでやって来たのだ。


「女王様、大変なことが起こりました!」


慌てた様子のサウドを落ち着かせた後

話を聞くことにしたのだが

サウドの話は、想像以上のもので、

最悪ともいえた。


砂漠の国サラーバが、アガサの手に落ちたというのだ。


「サウドは、本気で、人間界を手にしようとしているのね」


「はい。


 その為に、国の人々を生贄にして、

 新たに悪魔を呼び出そうとしています」


「それは不味いわね・・・・・」


事態は、思った以上に悪い。


一刻も早く、手を打たなければ

アガサは、魔界から多くの悪魔を呼び出すだろう。


配下の悪魔でなくても、

人間界への召喚なら、乗ってくる悪魔など幾らでもいる。


「サウド、貴方には、もう一度説明をしてもらいますので

 一緒に来なさい」


「はい」


ルンは、サウドを連れて、窓から飛び出した。


そうして、向かった先は、エンデの部屋。


だが、到着したエンデの部屋は、窓が閉まっていて入れない。


バンバンと窓を叩くルン。


だが、エンデは気が付かない。


「ちょっと!

 開けなさいよ!」


しつこく叩いていると、エンデが気付き、窓を開けた。


「そんな所からじゃなくて、扉から入ってきなよ」


「それどころじゃないのよ!!!」


ルンは、部屋の中に飛び込むと

アガサの事を語り始める。


慌てているせいか、

所々、的を得ないルンの説明だったが、

その部分は、一緒について来たサウドが補った。


こうして、話を聞き終えたエンデは

しばらくの沈黙の後、口を開いた。


「・・・・・サラーバは、この後どうなるのかな?」


エンデの質問は、答えづらいものだが、嘘を教えるわけにはいかない。


「もう、人の住める所ではなくなるわね。


 まして、召喚の儀式なんてされてしまえば、大地が死に、

 私たちの力を使っても、元に戻るまでに、何十年かかるかわからないわ」


「そっかぁ・・・・・」


遠い国の話だけに実感がわかないが、

もしこれが、ゴンドリア帝国やアンドリウス王国に起こったことだと置き換えれば

自ずと、やることが見えてきた。


「サラーバに向かおう」


「そうね。


 でも・・・・・・」


ルンには、気掛りがある。


今回の戦いの相手は悪魔。


人族の敵うものではない。


まして、生きて帰れる保証などない。


その為、エブリンやシャーロットを、どうするかだ。


当然、出かける時には、声を掛けなければならない。


その時、彼女たちがどんな反応をするか・・・・・


不安に駆られつつも、ルンは、正直に気持ちをぶつける。



「エンデ、今回は悪魔との戦いなの。


 人族では、敵わないわ。


 だから・・・・・」


「わかってる。


 そのこともきちんと話すよ」


「それでも、来るって言ったらどうするの?」


「勿論、一緒に行く」


「あなた、話を聞いていたの!

 私は、『人族では、敵わない』って、言ったよね!」


「うん。


 それがわかった上で、ついて来るんだったら、

 僕は、全力で守るよ」


「あなた・・・・・」


エンデが拒否しても、エブリンが諦めることはない。


必ず、後を追って来ることは、目に見えている。


それならば、最初から一緒の方が守りやすい。


わかっているからこそ、エンデの心は揺るがない。


『何があっても、家族は守る』


それは、ずっと前にエンデが決めたこと。


「わかったわ。


 もう、何も言わないわ」


「ありがとう」


「お礼なんて、言わないでよ・・・・」


話を終えたエンデは、ルン達と一緒に部屋を出ると

皆に声を掛け、広間に集まってもらった。



「父上、母上、それにみんな。


 集まってくれてありがとう。


 少し、厄介なことが起きているから説明します」


エンデの口から語られたのは、信じがたい話だが

エンデの隣には、精霊女王がおり

この話を、現実に起きていることだと

理解させた。


久しぶりの親子の再会から、まだ、数日しか経っていない。


それなのに、人族の危機ともいえる状況を

息子であるエンデの口から聞かされた

マリオンの心は揺らぐ。


貴族としての立場からいえば

すぐさま報告を上げ、各国への報告と

エンデへの討伐命令を出すべきだろう。


だが、親としての立場からいえば

不安でしかない。


相手は、人ではなく、悪魔なのだ。


無事な保証などない。


また、息子を失うなど、考えたくもない。


俯き、言葉に詰まっていると

マリオンの手を、ルーシアが握る。


はっとして、顔をあげると

ルーシアが、微笑んでいた。


だが、その瞳の奥は、悲しみが見える。


それでも、微笑みで、覚悟を見せているのだ。


──君には、敵わないな・・・・・


マリオンは、覚悟を決めて、口を開く。


「エンデよ、それでお前は、どうするつもりだ?」


覚悟を決めても、未だ、拭えない不安から

震える声で問いかけたマリオンに、

エンデが答える。


「これ以上被害を広めない為に、

 僕は、悪魔と戦います」


「本気・・・なのか?」


「はい」


「勝算は、あるのか?」


「わかりません。


 でも、戦えるのが僕しかいないから・・・・・」


『戦えるのが僕しかいない』


それは、それだけの力をエンデが持っているという事。


それは分かった。


だが、父親として『はいそうですか』と送り出すことなど、出来る筈も無い。


マリオンが考え込んでいると、エブリンがエンデに問いかける。


「それで、出発はいつ?」


「準備もあるし、2日後かな?」


「そう、わかったわ」


軽く返事をして、席を立つエブリンに

驚くマリオン。


「エブリン、何処へ行く?」


「買い物に出かけてきます。


 色々と準備がしたいので・・・・・」


「お前、まさか!」


「はい、一緒に行きます」


「先程の話を聞いただろ。 


 人族では、敵わないと・・・・」


「はい。


 確かにそう仰いましたが、エンデも人族です。


 エンデだけを行かせるなんて事、私には出来ません」


エブリンの言う事はもっともだ。


気付かされるマリオン。


『何故、息子を1人で行かせようとしたのか?』


『息子を危険な目に合わせ、のうのうと待っているだけ』


 そんな事、マリオンにも出来る筈も無い。


「わかった。


 私も同行する。


 だが、少しだけ待ってほしい。


 陛下の耳にも入れておきたいのだ」


「そうでしたわ。


 お父様に従います」


エブリンに続き、エンデも頷く。


「よし、これから城に行って来る」


マリオンは、屋敷を飛び出すと、王城へと向かった。




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