第193話 アンドリウス王国へ向けて


砂漠の国サラーバが、アガサの手に落ちた翌日

魔界から戻ったエンデ達は、ゴンドリア帝国を離れ

アンドリウス王国への旅を始めていた。


それから数日後、

一行は、国同士の境界になっている砦に、到着した。


この砦で、マリウルとガリウスの2人とは

別れるのだが・・・・・


今回は、それだけではない。


「本当にいいの?」


エンデの問いかけに、ガリウスは、迷いなく答える。


「ああ、勿論だ。


 頼む」


その言葉に、アンデットオオトカゲが

喜びを表すように、声を上げた。


『グギャ!グギャ!グギャ!』


「ここなら、餌も豊富だ。


 それに、こいつの住処にも困らねぇ」


確かに、嘆きの沼に返しても

1人?で、彷徨うだけの日々だが、

ここにいれば、好きな時に、森を散策したり

狩りにも出かけられる。


それに、なによりも、心を通わせたガリウスがいることが大きい。


分かっているだけに、エンデは、溜息しか出ない。


「わかったよ。


 お前も元気でな」


『ギャ!』



こうして、マリウルとガリウス、アンデットオオトカゲと別れたエンデ達は

新たに、メビウスから譲り受けた馬車に乗り替えると

再び王都を目指して、馬車を走らせた。


その後は、何事もなく進み、

数日後には、アンドリウス王国の王都の壁が見えるところまで

辿り着いていた。


「やっと、帰って来た!」


「ええ、今回は、長かったものね」


懐かしく思える光景に、自然と笑みが零れる。



アンドリウス王国の王都に到着し、

入り口で、兵士に声をかけると、

慌てたように、1人の兵士が、駆け出していく。


「いつもの事ね。


 多分知らせに行ったんだわ」


──今回は、誰が迎えに来るのかしら・・・・・


エブリンが、そんなことを考えていると

兵士に、声を掛けられる。


「申し訳ございません。


 暫く、こちらでお待ちください」


案内されたのは、以前にも利用したことのある待合室。


皆は、空いている席に、腰を下ろした。


そこで、シャーロットが、独り言のように呟く。


「さすがに疲れたわ」


「ええ、そうね」


シャーロットとエブリンは、『ふぅ~』と息を吐いた。


それから、暫く、待合室で待っていると、

窓の外に、豪華な馬車を連れた一団が、目に留まる。


その馬車が止まると同時に、慌ただしく御者が動き、

馬車の扉を開けた。


すると、1人の男が降りて来たのだが

その男の顔を見た途端、

エンデとエブリンは、驚きの声を上げた。


「父上!」


「お父様!?」


2人が驚くのは当然の事。


降りてきた男は、マリオン ヴァイスだったのだ。


だが、それで、終わりではなかった。


続いて降りてきた男に、

シャーロットも、声を上げる。


「お父様?」


3人は、待合室を飛び出すと、

父親のもとへと駆け寄る。


「お父様、御無沙汰しております。


 お元気そうで、何よりですわ」


「ああ、エブリンも元気そうだな。


 それに、少し背も伸びたか・・・・」


2人が会話をしているところに、エンデも声をかける。


「御無沙汰しております、父上」


 「エンデ。


 お前も元気そうだな」


「はい!」


「そうかそうか・・・・・」


2人の元気な姿に、

笑みを見せるマリオンだったが、

背後から現れた男が、苦言を呈した。


「元気すぎるわ!

 儂が、どれだけ苦労させられておることか・・・・・」


「あっ、叔父上も、いらっしゃったんですね」


声の主、グラウニーのもとに、エンデが駆け寄る。


「お元気そうで、良かったです」


「・・・・・お前は、相変わらずの様じゃの」


エンデの頭を撫でるグラウニー。


その様子に、笑みを零すマリオンとエブリン。


その向こうでは、

シャーロットが、父親との久々の再会に、

笑みを浮かべながら、話をしていた。


和やかな雰囲気の中

エンデは、思い出したように、

グラウニーに、話しをしようとするが

それを、グラウニーは、手を前に出して止める。


「立ち話もあれだ。


 場所を変えて、話そうではないか」


「わかりました」


乗ってきた馬車は、ゴージアに任せると、

エンデ達は、父親の乗ってきた馬車に乗り込んだ。


「それで、何処に行かれるのですか?」


「それは、着いてからのお楽しみだ」


シャーロットの父、バルドーとマリオンは顔を見合わせて笑う。


その様子を見ていたシャーロットが、バルドーに問いかける。


「お父様もご存じなのですか?」


「勿論だ。


 だが、内緒だ」


結局、到着するまでの我慢と割り切り、

エブリンが、黒い塊から、メルクを呼び出すと

同じように、シャーロットも、シェイクを呼び出す。


そして、いつものように、2人が、撫でまわしていると

その様子を見ていたマリオンが、

声をかける。


「それは、魔物?

 いや、狼か?」


2人は、顔を見合わせた後

代表して、エブリンが答える。


「似たようなものですけど、少し違います。


 この子はメルク。


 アンデットオオカミよ」


「あ、アンデットオオカミだと!!!」


狭い馬車の中で、大声を上げて驚くマリオン。


その横では、シャーロットの父、バルドーが

当然の反応だと、言わんばかりに頷いていた。


「お、おい、バルドー殿、その反応は

 もしかして、貴殿は、このことを知っていたのか?」


「ああ・・・・・シャーロットが連れているのも

 アンデットオオカミなのだ。


 いつ頃だったかは、忘れたが

 突然、シャーロットが、屋敷に連れ帰って来たからな」


「そ、そうか・・・・・

 それで、なんともないのか?」


「ああ、問題ない。


 あのアンデットオオカミは、

 シャーロットに従順で、よく言う事も聞く」


「そうか・・・・・」


話を聞いても尚、不思議そうに

2人の連れているアンデットオオカミを

交互に、マリオンが見ていると

今度は、バルドーが、シャーロットに問いかけた。


「確かに、アンデットオオカミについては

 私も、把握していたが・・・・・

 なぁ、シャーロットよ。


 お前は、いつから、あのような魔法を、使えるようになったのかね?」


「魔法?

 ああ、これの事かしら?」


シャーロットは、何でもないように

再び、黒い塊を出現させる。


すると、その黒い塊から、ひょっこと、別のアンデットオオカミが

顔を覗かせた。


「狭いから、出来ては、駄目よ」


何でもないことのように、言った言葉に

バルドーが、固まる。


「お父様?」


「あ、いや、すまぬ。


 シャーロットよ、もしかしてだが・・・・・

 増えたのか?」


「その予定ですわ」


そう告げたシャーロットの視線の先にいるのは、エンデ。


今のこの状況に、関りを持ちたくないエンデは

窓の外へと、視線を逸らした。


だが、バルドーは、諦めない。


「まぁ、後で、聞くことにしよう」


「は、はい・・・」



こうして、猶予をもらえたエンデだったが

アンデットオオカミについての話は続いた。


「エブリン、お前は、召喚士では無い筈だが?」


「ええ、お父様の言う通り、召喚士ではありません」


その言葉を聞き、マリオンは、不思議に思う。


アンデットオオカミという稀な魔物が、

召喚士でも無い人間に懐き、

頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める光景など、

実際に、目にしなければ、理解出来ないだろう。


エブリンから、視線を外したマリオンが、

続いて、シャーロットに、目を向けると

問われることが分かったのか、シャーロットは笑顔を見せた。


「シャーロット嬢、もしかしてだが、貴殿も・・・・・」


「ええ、召喚士では、ありません」


そう告げたシャーロットの膝の上では、

いつものように、シェイクが眠っていた。


「見た感じでは、エブリンが連れているアンデットオオカミとは違い

 その子には、傷も無いが、本当に、アンデットオオカミなのか?」


「ええ、その通りです。


 確かに、この子は、小柄で傷もありませんが

 正真正銘、アンデットオオカミですわ」


「そうか、それにしても、アンデットオオカミとは

 珍しい魔物が、懐いたものだな」


「確かに、珍しいかもしれませんけど

 もっと、珍しい魔物を、飼っている者も、おりますわよ」


「ほぅ、それは、どんな魔物のを?」


マリオンとバルドーが、興味を示すと

エブリンとシャーロットは、顔を見合わせた後

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、告げた。


「アンデットオオトカゲですわ」


「「アンデットオオトカゲだと!!」」


マリオンとバルドーの声がハモった。


「オオトカゲといえば、7メートルを超える魔獣だぞ。


 そんな魔獣が、まして、アンデット・・・・あり得ない」


バルドーの言葉を否定するシャーロット。


「ですが、事実です。


 その子は、ガリウス様が飼っており

 当然ですが、メビウス様も、存じ上げておられます」


「なんと!!!」


「大きさは、10メートル位ありますが、

 正真正銘のアンデットオオトカゲです。


 もし、お会いになりたかったら

 アンドリウス王国と、ゴンドリア帝国の境にある砦に行けば会えますわ」


「そうか・・・・・」


「ええ。」


マリオンとバルドーは事実だと認め、

お互いの顔を見合わせた後、『ハァ~』とため息を吐いた。


その様子を黙って見ていたグラウニーは、

2人の気持ちが、痛い程、理解できたが、

我関せずと、窓の外を眺めていた。




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