第192話人間界に降り立つ悪魔
当然、ルンは、この力を知っていたのだが
しかし、それが行使出来るのは、人間界に存在する者だけだと思っていた。
その理由は、悪魔が、アンデットになるなんて
聞いたことが無いからだ。
人族がアンデット。
魔物や魔獣が、アンデット。
それは、死んだ者が、なんらかの変化から起きうることだが、
悪魔だけは、違う。
だが、今回の事で、それが間違いだと気付かされた。
この力があれば、世界の在り方が変わる恐れだってある。
その事を理解したうえで、
2人は、この場での言及を控え、暫くは、様子を見ることにした。
それからは、何事もなく食事を終えた一行は、
軽く雑談の後、屋敷を後にする。
ここでワァサとは、分かれることになるのだが
ワァサは、ルンを、呼び止めた、少し離れた場所へと移動した。
「なによ?
何か用なの?」
「お前も、わかっただろう。
あれは、危険だ・・・」
「・・・・・」
「まぁいい。
今回は力を貸す。
だが、その先は・・・・・約束できねぇ」
「・・・・・うん、わかってる」
エンデの出方次第で、ワァサは敵になる。
ルンは、そう告げられたのだ。
背を向け、去ってゆくワァサに向けて
ルンが、ポツリと呟く。
──わたしだって、わからないよ・・・・・・
本当に・・・なにをしてくれるのよ・・・・・
ワァサが去った後、
ルンは、エンデ達と合流すると
再び、人間界へ向けて、歩き始めた。
その日の深夜、アガサは、配下と共に
人間界に、降り立っていた。
その場所は、砂漠の国『サラーバ』。
サラーバの国土は広い。
だが、大半が人の住めるような場所ではない。
建物を吹き飛ばす程の砂嵐、
草木も生えない乾燥した大地、砂の中に潜む魔物
サンドワームにポイズンスコーピオン。
人々が住めるのは、水の湧く、オアシスの近くだけ。
そんな場所に降り立ったアガサは、
人族の空気に触れると、満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「先ずは、この地を儂のものにする。
よいか、全ての人間を贄とし、同胞を呼び寄せるのだ!」
アガサの号令に従い、
一行は、
進み始めた。
そのサラーバの国にも
アガサの叫びが届いていた。
その為、眠っていた者は、目を覚まし
警備をしている者達は、警戒を強めた。
だが、あの叫び以降、何事も起きてはいない。
また、怪しい者の姿もない。
「魔獣か魔物の叫び声だったのか・・・・・」
「それにしても、聞いたことの無い声だったな」
「そうだな、本当に、びっくりしたぜ・・・」
国を囲む壁の上から、
警戒していた兵士達だったが、
何事もないことに、安堵した。
だが、事実は違う。
この時、アガサ達は、既に国の入り口に、到着していたのだ。
その理由は、彼らの姿にある。
そう、今の彼らの姿は精霊。
暗闇の中、彼らの姿を見つけることは容易ではない。
暗闇、体の大きさ、全てが、アガサ達の味方になり
こうして、サラーバに到着したのだ。
だが、サラーバの者達は、誰も気づいていない。
その為、簡単に、アガサ達の侵入を許してしまう。
サラーバの国に侵入しアガサ達だが、
ある者を探して、街を徘徊していると、
とある場所に、辿り着く。
「ここから、強い力を感じるのぅ・・・・・」
アガサは、迷いなく扉を開けた。
アガサ達が、辿り着いた場所は、冒険者ギルド。
突然現れた精霊の集団に、
酒を煽り、酔っていた冒険者達の視線が集まる。
「おいおいおい、珍しいものが来るじゃねえか・・・」
「もしかして、俺は、酔っているのか・・・・」
そんな呟きを無視して、アガサは、冒険者達を見て回っていたが
突然、足をとめる。
「ふむ、こ奴が、一番じゃな」
そう告げられた男が、アガサの方と振り向く。
「羽虫に、用はない。
さっさと、立ち去れ・・・」
アガサは、男の言葉を無視して、
そっと、男の体に触れた。
「この体、儂が頂こう」
言葉と同時に、男の体に、魔力を流し込むと
男は、狂ったように、暴れ始めた。
武器を手に持ち、近くにいた冒険者に襲い掛かり
次々に、屠ってゆく。
同時に、悪魔が乗り移っている精霊に触れられた男達も
同じように、暴れ始め、生きている者に、襲い掛かる。
こうして、冒険者ギルドが、血に染まると
アガサは、その血で、魔法陣を描いた。
「さぁ、皆共、参ろうか」
精霊の体を脱ぎ捨て、
人族の体を得たアガサ達は、元の姿へと変化すると
街へと繰り出した。
偶然、騒ぎが耳に入り、
家の中から、外を覗いた者の目に、
異形の者達の姿が目に映ると、叫び声を上げた。
「ひぃ!
バ、バケモノだぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴を上げた男は、扉を閉め、慌てて隠れようとするが、
悪魔は家の中に飛び込み、『恐怖』と『絶望』を与えた後、魂を喰らう。
「ん~美味ですね」
悪魔は魂を喰らい、笑みを零す。
悪魔達は、逃げ惑う人々、家に隠れている者達を、無差別に襲った。
勿論、兵士達は、人々を助ける為、応戦しようするが、
人族が悪魔に敵う筈も無く、死者を増やすだけだった。
「良いぞ、実に良い。
貴様ら人族の恐怖、絶望の匂い。
最高ではないか!」
アガサの叫びに、応えるように
サラーバの上空に暗雲が立ち込める。
それは、徐々に濃くなり、やがてサラーバを包んだ。
アガサは、配下の悪魔2人を連れ、城へと足を踏み入れた。
だが、城の中は厳戒態勢がしかれており
兵士達が、悪魔の侵入を阻む。
「これ以上先には進ませぬ!
かかれ!」
号令に従い、アガサ達に襲い掛かる兵士達。
その姿に、アガサは笑った。
「フォフォフォ・・・いい覚悟じゃ!
我らの贄となれ!」
アガサの背後に控えていた
2体の悪魔が飛び出す。
そして、人族が追いつけないほどの速さで、
突撃してきた兵士達の首を狩る。
首を無くし、崩れ落ちる胴体。
その光景に、息を吞む兵士達。
悪魔は、切り落とした首を、兵士達に向かって投げつける。
「ヒッヒッヒッ・・・
次は、どなたが私の相手を?」
思わず後退る兵士達。
その表情には、恐怖が刻まれていた。
アガサの護衛をしていた2体の悪魔は、
先陣を切り、次々に兵士を屠り、道を開く。
その後を、ゆっくりと歩き、国王のもとへと向かうアガサ。
「やはり人間界は良いのぉ・・・・」
2体の悪魔は、道を阻む者、隠れている者、その全てを屠り、
彼らの通った後には、屍しか転がっていない。
血に染まる道を進み、、立派な扉の前まで来ると
そこには、立派な鎧を纏った者達が、立ち塞がっていた。
「我ら、国王親衛隊。
この先、1歩も進ませぬ!
やれっ!」
親衛隊長【オルギス】の号令に従い、親衛隊は、光の魔法を放つ。
『ホーリーアロー』
無数の光の矢が、アガサに襲い掛かる。
しかし、アガサは、避ける素振りも見せず、杖を振るうと
突然、光の矢が消えた。
「なに!!!」
驚くオルギス。
アガサは、笑みを浮かべながら
仕返しとばかりに魔法を放つ。
『アシッドアロー』
アガサの放った魔法の矢は、
親衛隊の持つ盾に触れると
水のように弾けて、親衛隊へと降り注ぐ。
「グワァァァァァ!!!」
酸を被った親衛隊員は、
隊列を崩して、のた打ち回る。
「くっ・・・化け物め・・・だが・・・」
オルギスは、回復魔法を使う。
『ヒール』
酸で溶かされた部分が淡い光に包まれ、元の状態に戻ると、
再び、命令し、隊列を組み直した。
その様子を、ただ見ていただけのアガサは、
隊列が、完成すると、オルギスに、声をかける。
「次は、何を見せてくれるのかのぅ」
──この、化け物め・・・・・
オルギスは、再び魔法を使う。
『ホーリーサークル』
アガサを中心に、床に円が描かれると
そこから、光の柱が飛び出した。
そして、上空で重なり、円錐のような形になると、
ジリジリと距離を詰めて、アガサ達に迫る。
「ほぅ・・・・・この光で、儂を焼き殺そうということか・・・・・
さて、困ったのぅ・・・・・」
困ったと言いつつ、落ち着き払っているアガサ。
2体の悪魔にも、同様する素振りすらない。
──何かあるのか・・・・・
不安に駆られるオルギス。
その不安が、やがて恐怖と絶望へと変わることがわかっているアガサは、
ただ、その過程を楽しんでいるだけなのだ。
それを証明するように
光の円錐に閉じ込められていた筈のアガサの姿が
目の前から消えた。
「消えた・・・・だと・・・・」
周囲を警戒する親衛隊。
だが、どこにも見当たらない。
オルギスの激が飛ぶ。
「気を抜くな!
探せ!」
焦りが浮かぶオルギス。
その背後に現れたアガサ。
「儂は、ここじゃ」
「このっ!」
慌てて 横薙ぎに剣を振るうが、その剣も空を切る。
だが、アガサは、まだ目の前。
急いで指示を出す。
「取り囲め!」
「・・・・・」
兵士達からの反応が無い。
「おい!」
剣をアガサに向けたまま、振り返ると、
そこで見たのは、床に横たわる親衛隊の姿だった。
「!!!」
「これで終わりのようじゃな・・・」
一切の抵抗を許さず、オルギスの四肢を砕く。
「お前は、人族にしては、よく耐えた方じゃ。
褒美に、お前が必死に守った者の末路を見せてやろう」
オルギスを、絶望に追いやる儀式は、まだ終わっていない。
配下の悪魔は、オルギスの髪を掴むと、
扉の中へと引き摺り込んだ。
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