第191話策②
そんなルンの叫びに、皆の動きが止まると
コホンッと咳払いをしたルンは
皆の中心に立った。
「いい?
今、一番大事なのは、アガサの事。
確かに、ホルストの件も、気になるかもしれないけど
それは、後でも、問題ないでしょ」
「まぁ、そうだな・・・・・」
「なら、今は、アガサの事に集中するわよ。
それで、これからの事だけど・・・・・」
ルンの話は、こうだ。
今から、アガサを追っても、追いつくことはない。
人間界での決戦は、もう避けられない。
ならば、人間界で、戦うことを想定した作戦を立て
アガサを倒すというらしい。
その作戦だが、
先ずは、精霊達の情報をもとに、アガサの居場所を見つける事。
そして、アガサを発見し、戦いになったら
直ぐに、エンデが黒い霧を発生させ、魔界と人間界を繋ぎ
ワァサ達も戦いに、参戦させるという事だ。
「おい、それまで、俺達は、何処にいるんだ?」
ワァサの問いかけに、ルンは、笑みを浮かべて答える。
「嘆きの沼よ」
「お、お前、あそこで俺達に待てというのか?」
いつ始まるかわからない戦いの為に、
それまで、嘆きの沼で待機することなど、あり得ない。
「ふざけるなよ、領地の事もあるし、いつ出会うかわからねぇのに、
そんなに待てるかよ!」
ワァサの言い分は尤もな為、
ルンも、引くしかない。
だが、それでは、いざ、戦いになった時に
有利に、事を進めることが出来ないばかりか
作戦も崩壊する。
ルンは、考えた末に、口を開く。
「あそこは、ベーゼの領地だから
ゴージアにでも頼んで、
小屋でも作らせて貰ってはどうかしら?」
「そうだな・・・・・
その小屋に、5~6人を待機させるぐらいなら、
問題ないな」
「なら、それでよろしく!」
「おい・・・・・」
こうして、ルンのおかげもあって
援軍の約束を取り付ける事に成功したエンデ達に
もう、やることは、残っていない。
後は、来た道をを引き返すだけとなり
フーカに、見送られながら、
魔界を目指して歩き始めた。
その後、暫くして、精霊界と魔界の境界に辿り着くと
そこには、ゴージアを筆頭に
ベーゼの配下達までもが待機していた。
「エンデ様、お帰りなさいませ」
配下と共に、仰々しく振舞うゴージア。
「もしかして、待っていたの?」
「はい、主を、お迎えするのは当然のこと。
領地に関することの目処をつけてきましたので、
執事である私は、本来の業務に就かせて頂いたまでの事です」
それと・・・・・と話を続けたゴージアは、
背後に控えていた悪魔メイド達の紹介を始める。
「魔界にお越しの際、
エンデ様のお世話をさせていただく者達のご紹介を・・・・」
ゴージアの言葉に反応し、悪魔メイド達が前に進み出た。
「お初にお目にかかります主、エンデ様。
本日より、あなた様のお屋敷の業務を取り纏めさせて頂く
メイド長の【ディアーヌ】と申します」
ディアーヌに続き、悪魔メイド達の自己紹介が始まった。
「【ウォーネ】と申します」
「【エルドラ】で御座います」
「【オクトネ】で御座います」
「あ、うん・・・・よろしく」
エンデが軽く挨拶を返すと、
ゴージアから、
一度お屋敷に寄って欲しいとの申し出があったので
それを承諾し、これから、魔王ベーゼの領地にある屋敷へと向かうこととなった。
だが、その最中も、エンデは、人間界の事を気にしていた。
大勢の悪魔が、人間界に降り立つ。
それは、脅威でしかない。
エブリンの事、シャーロットの事。
色々と考え込んでしまっているエンデの肩に
ルンが止まり、問いかける。
「もしかして、あっちの子達の事を考えているの?」
「うん・・・」
「それなら、大丈夫よ。
護衛の精霊たちを付けてあるから」
『!!!』
──いつの間に・・・・・
驚くエンデに、無い胸を張るルン。
「私を誰だと思っているのよ!
精霊女王のルン様よ!」
「あっ、そうだね・・・・・」
ルンよりも、フーカの方がしっかりしていて
精霊女王に見えたことは、黙っていることにし
エンデは、お礼を言う。
「ルン、ありがとう・・・」
「いいのよ、気にしないで。
でも、気になるようなら、何か御礼でもして貰おうかしら?」
冗談じみた言い方をするルンに、エンデにも笑顔が戻ると
そこに、ホルストが、割り込んだ。
「ルン様、1つお伺いしたいのですが?」
「ん、なになに?」
「あの・・・・・彼は?」
ルンが振り向くと、ホルストの背後に、精霊がいた。
「ペコリじゃない、付いて来たの?」
「うん、久しぶりに人間界に行ってみたかったし、
それに、みんなも一緒だし、なんか、面白そうだからぁ~」
花の精霊ペコリ。
エンデ達が魔界に戻る道中、
ホルストの背後にいる精霊たちを見つけ
ふわふわと、付いて来たのだ。
「まぁいいわ、好きにしなさい」
「やったぁ!」
喜ぶペコリが、問いかける。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん、名前なんていうの?」
「ホルストと申します」
「そっかぁ、僕はペコリ。
これからは、お姉ちゃんの精霊になるから、よろしくぅ~。
あっ、でも3食昼寝付きでお願いねぇ~」
嬉しそうに話すペコリを
他の精霊たちも歓迎している。
そんなホルストと精霊達のやり取りを、
ゴージアは黙って見ていた。
ベーゼの領地を歩き、
改修された屋敷に到着すると、
先程紹介されたメイド達の他にも、大勢のメイドが控えていた。
「おかえりなさいませ、主様」
「あ、うん・・・ただいま?」
「おい、なんで疑問形なんだよ!」
ワァサに、突っ込みを入れられながらも
屋敷に入ると、
メイド達によって
応接室へと、案内をされた。
「只今、お茶を持って参ります」
案内を終えたメイドが、一礼をして部屋から出た時
エンデは、ホルストがいないことに気付いた。
「あれっ?
ホルストは?」
「大丈夫よ。
先程、ゴージアに呼び止められていたから
話でも、あるんじゃない」
「そうなんだ・・・」
少し、心配ではあったが
今、ゴージアが、何かするとは思えなかった為
エンデは、暫く待つことにした。
その、ゴージアとホルストの2人は、
未だ、屋敷の外にいた。
「少し、お伺いしたいことがあるのですが?」
「ええ、構いません」
ゴージアが、ゆっくりと口を開く。
こうして、2人を待っている間、
エンデ達には、食事が振舞われ、
ひとときの休憩と食事を楽しむこととなった。
そして、食事を終え、お茶を飲んでいると
ホルストが、姿を現す。
その後ろには、1人のメイドを連れたゴージアの姿もある。
「何かあった?」
「いえ、大したことでは・・・・・ただ、私の事を聞かれただけです」
何故、ゴージアがホルストの事を気に留めたのか、
その理由は、直ぐに判明した。
ホルストが、席に着くと、ゴージアが口を開く。
「お楽しみ、頂けたでしょうか?」
「うん、とても美味しかったよ」
「有難うございます。
そう仰って頂けることが
我々にとって、何より喜ばしいことです。」
「そう畏まらなくていいよ。
前に、約束した通り、
これから、こちらにも、顔を出すから、
皆に、よろしくと伝えておいてくれると、嬉しいよ」
「畏まりました。
では、そのように・・・・・
それと、 エンデ様に、1つお願いが御座います」
「なに?」
「今後、人間界においても、私を、お側に置いて頂きたいのです」
皆が、えっ!と驚く中、ワァサが口を開いた。
「ゴージア、お前、どうやって人間界に行こうというのだ!
そんな方法があったら、あんな会議なんてしてねぇぞ!」
「御尤もです。
ですが、配下である我らには、その方法があるのです」
「何!?」
ゴージアが合図を送ると、背後に控えていたメイドが、
『!!!』
血を吐き出すゴージア。
「・・・・エンデ様、この私を・・・・・
貴方様のアンデットに・・・・・」
床に、倒れるゴージア。
──このままでは・・・・・
迷っている暇など無い。
エンデは、急いでゴージアを
黒い塊の中に、吸い込んだ。
「ちょっ、お前何をしている!
これはどういうことだ!」
焦るワァサとは対照的に、エンデは落ち着いている。
ホルストから、私の事を聞いて来たと聞かされた時、
もしかして?とは、思っていたのだ。
だから、焦りも驚きもなく、対処できた。
「多分こういう事だと思う」
静まり返った応接室で、そう告げたエンデは、
再び、黒い塊をだすと、
そこから、ゴージアを呼び寄せた。
姿を見せたゴージアに、以前との変化はない。
それどころか、魔力が上がっているように思えた。
「お、おい・・・・・なんだよ・・・これは」
驚いているワァサを放置して、
エンデは、ゴージアに話しかける。
「先に言ってほしかったよ」
「申し訳ございません」
そう言いながらも、笑みを浮かべているゴージアに
呆然としながらも、ワァサが問いかける。
「お前、死んだよな・・・・・」
「はい、確かに私は死にました。
ですが、エンデ様のお力で、アンデットとして蘇ったのです」
「なんだそれは・・・・・
確かに、話も聞いた。
あのお嬢ちゃんも見た。
だが、目の前で見せられると・・・・」
「ええ、私も驚きました。
ですが、そこのお嬢様から話を伺い、
その方法なら、私も人間界に行けるのではと思いまして」
確かに、この方法を使えば、天使でも悪魔でも人間界に行ける。
聞くのと、見るのとでは、大違い。
今更ながら、そのことを実感したワァサとルン。
2人に迷いが生じる。
──本当に、この子を生かしていていいのか・・・・・・
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