第190話 策①

ルンは、ワァサに確認する。


「その前に、今回の件、ワァサも力を貸してくれるのよね?」



「まぁ・・・・・悪魔が絡んでいるのだからな」


「何?

 あんまり乗る気じゃないみたいだね」


「そうじゃねぇ。


 人間界で起きることに、俺達に出来る事なんてあるのか?」


「勿論!」


ルンは、振り向く。


その先にいるのはエンデ。


「エンデには、すごい力があるの。


 人間界で暮らしている筈のエンデが、何故、この世界に来れたと思う?」


気にしていなかったが、

よくよく考えてみると、確かにおかしいことに気付く。


「確かにそうだな・・・・・」


天界と人間界を、行き来する方法はあるが、

それには、色々と条件がある。


天使のように、依り代を使った方法。


悪魔のように、憑依。


精霊の精霊回廊。


だが、どれもエンデが実態を持ったまま、

行き来することは不可能。


だが、目の前のエンデは、どれにも当てはまらない。


「おい、そろそろ吐けよ。


 ここに来たのだって、その方法を使ったんだろ」


「うん。


 嘆きの沼、知っているでしょ」


「当然だ。


 あそこは、ベーゼの領地。


 俺が、知らないわけがないだろ。


 それに、 あんな危険な場所のこと

 知らない方が、不思議だぜ」


「そうだね。


 あそこに行くなんて、死にに行く様なものだよ。


 でも、あそこから人間界に行けるんだよ」


驚きのあまり、ワァサはテーブルを叩いて、立ち上がる。


「おい、ふざけたこと言ってんじゃねぇ!

 そんな馬鹿なことがあるか!


 いくら危険な場所だとしても、

 そんな所があれば、既に誰かが人間界に行き、

 魔界で噂になっている筈だ」


ルンは、興奮して大声を出すワァサを宥める。


「ちょっと、落ち着いて!

 それに、近くにいるんだから、大声出さないでよ」


「ああ、すまん・・・・・。


 だが、あそこから人間界に行けるなんて聞いたことがないぞ」


「それはそうよ」


「なら・・・・・」


ルンは、エンデを見つめる。


「おい、もしかして・・・・・」


ワァサの目も、エンデを捉えている。


「正解!

 エンデの能力だよ」


「能力って・・・・・


 お前、それが本当の事なら、

 大変なことになるぞ!」


「うん、だから黙っていてね」


「う・・・・・」


気軽に、黙っていろというルンに、

ワァサは、思わず、ため息を吐く。


「まぁ、こんなこと、気軽に話せることではないし

 口が裂けても、言えるわけがないな」


「その通りね。


 あと、正確には、こっちから向こうに完全に行けるわけではないのよ。


 例外として、死んだ者なら大丈夫みたいなんだけどね」


「どういうことだ?」


「人間界のネクロマンサー(召喚士)が呼び出すアンデットは、

 その地に眠る者を、呼び起こすわけだけど

 エンデのは違うの。


 エンデが、アンデットして

 呼び出すのは、嘆きの沼からなのよ」


「おい、おい、そんな事が出来るのかよ?」


予想だにしなかった発言に、

ワァサは、困惑しながらも

ルンの話に、話の続きを聞く。


「エンデが、死んだ者を、一度、回収し

 嘆きの沼に送り込んだ後に、再び呼び出せば

 アンデットとして復活し、

 どちらの世界も、行き来出来るみたいなのよ」


「それが、事実だとしても

 実際に、それを俺達が見た訳ではないから

 今すぐには、返事をしがたいな」


ワァサの言葉に、ルンが笑みを浮かべる。


「フフフ・・・何を言っているの?


 見たことがないって言うけど、

 目の前にいるじゃないのよ」


「えっ!」


ルンは、エンデのもとを離れ

ホルストの肩に止まった。


「彼女、こう見えても、アンデットよ」


『!!!』


「おいおい、どういうことだよ」


ワァサは、席を立つと、ホルストに近づき

隅々を見渡す。


「あ、あの・・・」


ワァサの視線に耐えきれなくなったホルストは、

体をよじらせながら、エンデに、助けを求めると

エンデより先に、ルンが口を開く。


「ちょっと!

 アンデットとはいえ、相手は、女の子だよ!

 もう少し、デリカシーってものを、もってちょうだい!」


「あ、悪い・・・」


ルンに注意されたワァサは、仕方なく席に戻ると

エンデに、問いかけた。



「おい、あれは、どういうことだ?

 確かにアンデットだが、あんなの見たことも聞いたこともない。


 確かに俺達が、召喚するアンデットに、似ているところもある。


 だがな、感情を持ち、

 あそこまで、生きている人間と変わりないアンデットなんてよぉ・・・

 何をどうやったら、作れるんだ?」


「う~ん・・・

 よくわからない」


『は?』


呼び出していたエンデの返事に、

ルンとワァサは、溜息しか出ない。


だが、話を聞けば、何かわかるかもと

ルンが、問いかけた。


「ねぇ、エンデは、誰に魔法を教わったの?」


「魔法の基礎は、育った娼館にいた

 元冒険者のお姉さん。


 そのほかは、 夢の中で、

 その・・・・・ベーゼ?とお母さん?が教えてくれるんだ。


 それで、目が覚めたら覚えているって感じ?」


その言葉に、ワァサは、笑みを浮かべながら

憎まれ口をたたく。


「あいつは、死んでからも、俺に迷惑を掛けやがる・・・・・」


「あははは・・・・・君たち、仲良しだったもんね」


『ハァ~』と再びため息をつくワァサ。


そんなワァサに、エンデが問う。


「それで、僕のアンデットと、他のアンデットと、どう違うの?」


「それは、ここに来れた経緯と一緒に話すよ」


そう告げたルンは、話を始めた。


「人間界のアンデットは、魂を持たない。


 でも、エンデが呼び出すアンデット達は、

 何かが、魂の代わりを担っているの。


 どうして、そんなことが出来たのかは、私にも解らないんだけどね」


確かに、彼らは違う。


本来、アンデットという存在は、命令がなければ、ただ彷徨くだけの筈。


だが、エンデが呼び出したアンデット達は、

何も無い時は、自由に過ごしている。


そんな中でも、一番、疑問に思うのは、ホルストのこと。


精霊が、アンデットに仕えることなど、あり得ないことなのだ。


だが、ホルストに、精霊達は従っている。


何千年と生きているルンだって、見たことも聞いたこともない。


疑問に思うことは沢山あるが、

それを解決するには、質問を繰り返すしかない。


ルンは、大きく溜息を吐いた。


━━━いったい、なにをしたのよ・・・・・


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