第170話アルマンド教国 教皇セグスロード

目の前で立ちはだかるサハールに向けて

セグスロードが、吐き捨てる。


「証拠にもなく、愚か者めが!」


セグロードは、光の剣を生み出して構える。


対するサハールも、暗黒の剣を生み出し

手にした。


同じタイミングで、前に進み出ると

そのまま、剣が交わり、

剣と剣が、衝突する音が響き渡る。


だが、時間が経つにつれ、

光の剣が、サハールの持つ、暗黒の剣に、飲み込まれ始めた。


「クソッ!

 これは、 どういうことだ・・・・・」


光が闇を消すか、闇が光を飲み込むかの戦いにおいて、

強力な魔力を持つ方が、勝つのは、当然の事。


セグスロードの光の剣は、セグスロードの魔力だけで

成り立っている。


これに対して、サハールの暗黒の剣は、

サハールの魔力の他に、

エンデの魔力が加わった物。


最初からセグスロードに勝てる見込みなど、なかったのだ。


力を失いつつある光の剣での攻撃を諦めた

セグスロードは、一旦、距離を取った。


━━━このままでは・・・・・

   だが、諦めぬ・・・・・


その言葉通り、懐からクリスタルの球を取り出すと、

天に向かって掲げ、詠唱を始めた。


『神との契約に従い、今、ここに、汝の名を唱える。


 永遠の呪縛に封じ込められし竜の子よ。


 その殻を引き裂き、ここに復活せよ。


 天空竜【ラドン】!!!』


セグスロードに応えるかように、クリスタルにヒビが入ると

隙間から眩い光が零れ、その場にいた者達の視界を塞ぐ。


「見よ!

 これが儂の切り札じゃ!

 ガハッハッハッ・・・・・」


クリスタルが2つに割れると、

光の中に、シルエットが浮かび上がる。


その姿は、紛れもなく竜。


ゆっくりと光を吸収し、徐々に本来の姿を取り戻すと

天空竜ラドンは、雄叫びを上げた。


『グワァァァァオ!!!』


久しぶりに実体化し、空気に触れたラドンは

エンデを視界に捉えると、迷わず、光のブレスを放った。


突然の攻撃に、驚くエンデは、回避を試みようとしたが

背後に、エブリン達がいることを思い出し、

咄嗟に結界を張った。


だが、光の属性を持つラドンのブレスは、

エンデの結界を破壊する。


一撃で、結界を破壊されたエンデは、驚きながらも

その攻撃に感心する。


「やっぱり竜は、凄いや・・・」


結界が破壊されたというのに、

焦りも、動揺もなく、ただ、笑みを浮かべている。


そんなエンデに向けて、ラドンが、再びブレスを放つと

先程と同じように、結界を張った。


傍から見れば、同じように見えるが

新たに張られた結界は、ブレスと衝突した瞬間、眩い光を放ち

ブレスを弾き飛ばしたのだ。


だが、それだけでは終わらない。


弾かれたブレスは、方向を変え、ラドンへと迫る。


突然の反撃に、今度は、ラドンが焦りを見せた。


必死に、回避を試みるラドンだが、

それは、叶わず、ブレスは、翼を貫いた。


悲鳴とも思える雄叫びを上げるラドン。


その隙をつき、攻撃を仕掛けるエンデ。


一気に距離を詰め、飛び上がると

ラドンの顔面を殴りつける。


すると、見た目とは、裏腹な力の前に

ラドンが、吹き飛ばされた。


この状況を見ていたセグスロードの動きが止まる。


「あ奴は、何者だ・・・・・」


思わず口に出た言葉に、サハールが返す。


「我の主となったお方じゃ。


 貴様如きでは、到底、及ばぬわ」


本来なら、反論したいところだが

天空竜ラドンを殴り倒すなど、

ただの人族が、できる技ではない。


だからこそ、思い当たることがあり

そのことを口にする。


「やはり、あ奴は、悪魔なのか・・・・・」


「それはどうかのぅ・・・

 お主には、先程の攻撃が、見えておらぬのか?」


先程の攻撃とは、

ラドンのブレスを、弾き飛ばした結界の事である。


「確か、あれは、光属性の・・・」


「そうじゃ。


 光属性の魔法を、悪魔が使えると思っておるのか?」


その問いかけに、セグスロードが、困惑する。


「な、ならば、あれは、何者なのだ・・・」



未知の怪物とも思えるエンデを前に、

セグスロードの体が、自然と震えた。


──この儂が、何故、震えているのだ・・・・・


体が示す、拒絶反応。


セグスロードの戦意が、自然と弱くなる。


だが、セグスロードは、諦めない。


「天空竜ラドンよ、その者を、食い殺すのだ!!」


その命令に従い、ラドンが咆哮を上げ、

3度目のブレスを放つ。


今まで以上に、近い距離で放たれたブレスに

エンデは、迷うことなく、先程と同じ結界を張った。


だが、放たれたブレスは、囮でしかなく

本来の攻撃は、別にあった。


ブレスが、結界に当たった瞬間、

突然、ラドンの姿が消え、エンデの背後の現れる。


ラドンが、初めて見せた魔法。


それが、瞬間移動だった。


予想外の行動に、エンデの動きが遅れると

襲い掛かったラドンの牙が

エンデの左腕を喰らったのだ。


一旦、距離を取るエンデだが、

左腕を失った代償は、思っていた以上に大きかった。


膝をつくエンデ。


額には汗が滲んでいる。


「エンデ!」


エブリンの叫びにも、応える余裕がない。


失われた左腕の付け根からは

止めどなく、血が流れている。


その姿を見たセグスロードは、

勝ち誇ったように、笑みを浮かべた。


「フ、ハハハ・・・・

 貴様もここまでだな。


 さて、儂もサハールと決着をつけるとするか・・・・・」


セグスロードが、再び、サハールと向き合った。



その時だった。


腕を失ったエンデの体に、変化が起きる。


左腕を押さえた状態で、

膝をついているエンデの鼓動が高鳴る。


同時に、体の中の血が

ドクンッ!ドクンッ!と、外にまで響きそうな程の音を立てた。


そして・・・・・・


「ぐ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


天に向かって、叫び声をあげた

エンデの体に変化が起き始める。


左腕の付け根から、黒い霧のようなものが噴き出すと

無くした左腕をかたどる。


そして、その黒い霧は、徐々に、左腕へと変化し始めた。


だが、それだけでは終わらない。


体も徐々に膨れ上がり、少年の体から、成人の体へと変化すると

顔も精悍な顔つきへと変わり、頭には角が生えた。


その姿を見て、セグスロードが叫ぶ。


「本性を現したな!

 やはり、悪魔だったか!

 ラドンよ、この者を、殺せ!」


『グワァァァァオ!!!』


雄叫びを上げたラドンは、再度、ブレスを放つ。


だが、ラドンが放ったブレスは、

悪魔の姿と化したエンデの左手に、吸い込まれて

消滅する。


「な、なんだと!」


目を見開くセグスロードの前で

ブレスを飲み込まれたラドンは、

牙を剥き迫るが、エンデは、その攻撃を躱した。


同時に、懐に飛び込むと、

勢いを乗せて、再度、顔面を殴りつける。


大きな音を立て、倒れ込んだラドンだったが

様子がおかしい。


先程と違い、起き上がろうとしないのだ。


そんなラドンの顔を踏みつけたエンデは

剣を取り出した。


「終わりだ・・・・・」


その言葉と同時に、ラドンの眉間に、剣を突き刺すと

ラドンの目から、光が消えた。


「ば、馬鹿な!」



奥の手だったラドンが倒されたことで

勝ち目がないと悟ったセグスロードは、

取り乱しながらも、その場から逃げようとする。


だがマリウルとガリウスに、逃げ道を塞がれた。


「おい、何処に行くつもりだ?」


「貴様は、サハール殿との決着が残っているぞ」


「く・・・・・」


逃げ道を失ったセグスロードは、

一部の望みを託し、辺りを見渡してみたが

やはりというべきか、光の戦士の姿も無くなっていた。


──ぐぐぐ・・・・・

  何故、何故、この儂が、追い詰められなければならぬのだ・・・・・


悔しさを露にしたセグスロードは

剣先をエンデに向けて、言い放つ。


「おい、悪魔っ!

 こ奴に勝てば、儂を見逃せ!

 元々、貴様らは、部外者ではないか!

 これは、元々、2人の勝負だ!

 いいか、約束だぞ!」


返事も聞かず、勝手に約束するセグスロードに

エンデは、溜息を吐く。


──何、勝手なことを言っているんだ?

  本当に、往生際の悪い奴・・・・・


そう思いながら、呆れて首を横に振るエンデに

セグスロートが、唾を飛ばしながら、

再び言い放つ。


「おいっ!

 わかったら返事をしろ!」


あくまでも、強気な態度を見せるセグスロードに

エンデが声を掛ける。


「余所見ばかりしていていいの?」


「なに!?」


振り返ると、目の前にはサハールの姿。


「これで終わりじゃ・・・・・」


暗黒の魔力を乗せた剣を、セグスロードの腹に突き刺した。


「グフッ!」


油断という大きなミスの代償は

自身の命。


「儂としたことが・・・・・なんて馬鹿な・・・ことを・・」


突き刺さる剣を支えに、

サハールに、もたれ掛かるような体勢で

セグスロードは、この世を去った。






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