第168話 アルマンド教国 本殿突入
一歩ずつ、ゆっくりと近づくサハールに
ファールとバンダムは、
慌てて逃げようと立ち上がるが、足が
その場に倒れ込んだ。
「ホッホッホッ・・・・・何処に行こうというのじゃ」
2人を見下ろすサハール。
「ま、待って下さい。
私たちは、命令されただけなんです。
家族を人質に取られて・・・・・・本当に申し訳ございません!」
膝をつき、謝罪を述べるファールに続き、バンダムも謝罪を口にする。
「サハール様、私たちは、ネーダ殿の指示に従っただけなんです。
どうか、お許しを・・・・・」
バンダムの謝罪の中に含まれていた
『ネーダの指示』だという言葉に反応するサハール。
なんとなく、わかっていたことだったが、
バンダムの自白により、実行犯の正体が判明した。
「やはり、そうだったか・・・・・
セグスロードの腰巾着め!」
2人を、そのまま放置し、サハールは向きを変える。
面影を残しているが、今のサハールは、アンデット。
骨が見え、所々に、皮膚もなく、肉が露になっている顔で、ネーダを睨む。
『ひっ!』
思わず声を上げ、後退りをするネーダ。
「く、来るな!
違う、わ、私も、命令されただけなんだ・・・・・」
「ほぅ、では本意ではないと?」
何度も頷くネーダだが、
その場にいる誰もが、その言葉を、信じようとはしない。
「そんな嘘で、この儂から逃げ切れると思っておるのか?」
『ジリジリ』と後退りをするネーダの手に、
偶然、聖騎士の落としていた剣が触れた。
その瞬間、何を血迷ったのか
ネーダは、その剣を手に取り、サハールに襲い掛かる。
「この死にぞこないのジジイがぁぁぁ!!!」
サハールに向けて、剣を振り下ろすネーダ。
だが、その剣は、武器を持っていない手で止められた。
「ば、馬鹿な!」
驚くネーダの手から、事も無げに、サハールは剣を奪った。
「これは何の真似じゃ?
こんな事をしたら、助かる命も助からなくなるぞ」
「えっ!」
ネーダは、一抹の望みを託す。
『助かる命も助からなく』
この言葉から、サハールに、慈悲を掛けてもらえると踏んだのだ。
慌てて、膝をつくネーダ。
「も、申し訳ございません。
どうか、ご慈悲を・・・・・」
頭を深々と下げる。
──昔から、甘い奴のことだ。
謝罪する人間は切れまい・・・・・そうなれば・・・・・
『まだ、チャンスはある』
そう思いながら、サハールの次の言葉を待つ。
だが、一向に、言葉が返ってこない。
『許そう・・・・・』
ただ、その一言が聞こえて来ないのだ。
ネーダは不安に駆られ、ふと顔を上げる。
すると、視界に映ったのは、
ネーダがら奪った剣を、振り下ろすサハールの姿だった。
「えっ・・・・・」
この言葉を最後に、ネーダの頭が床を転がると
跪いていた体も、床に倒れ込んだ。
「「ヒィィィ!」」
慈悲など無い一撃。
ネーダと同じように
ファールとバンダムも、
サハールが剣を振り下ろすとは思っていなかった。
そう思っていただけに、この一撃の衝撃は大きく
ただ、驚くことしかできない。
そんな2人の前に、転がっている頭に向けて
サハールが、言い放つ。
「貴様は、同志を手にかけたのだ。
そんな奴を、許す筈が無かろう」
確かに、その通りで、助ける道理などない。
この言葉を聞き、怯えるしかない2人を放置し、
サハールは、踵を返すと
エンデに近づき、膝をついた。
「主様、この一件の首謀者、
セグスロードの始末は、どうか、この私に・・・」
仰々しい態度と言葉に、
思わず、キョロキョロと辺りを見渡すエンデに
仲間たちが頷くと、
エンデは、サハールに告げる。
「わかった、任せるよ。
でも、一緒には行くからね」
「感謝致します」
話を終え、ゆっくりと立ち上がったサハールは
向きを変えて、ファールとバンダムに話しかけた。
「あ奴は、何処にいる?」
「そ、それは・・・・・」
「案内せよ」
「そ、それは・・・」
「聞こえなかったのか?
儂は、案内せよと申したのだが?」
怒気を孕んだオーラを浮かび上がらせるサハールに
元々、サハールの側近だった2人が
抵抗など、出来る筈がなく、頷くしかない。
「わ、わかりました。
ご案内致します!」
恐怖に駆られると同時に、
何とか慈悲に縋ろうと、案内を始めるファールとバンダム。
建物を出ると、本殿に向けて歩き出す。
そして、到着した本殿に入ると、
待機していた聖騎士達が、襲い掛かった。
だが、今までと同じように、
エンデの護衛を務める者達の手により、
接近した者から順に、命を失う。
敵が襲い掛かる度に、本殿の床が血に染まってゆく。
その光景に、逃げ惑うシスター達。
だが、エンデ達にとって、シスターなど眼中にない。
襲い掛かってくる者以外は放置して
エンデ達は、本殿の奥へと歩を進めた。
その頃・・・・・
当然の事だが、
この襲撃騒ぎは、セグスロードの耳にも届いていた。
「天使様は、どうしたのだ!!
まだ、見つからぬのか!!」
「も、申し訳ございません。
未だ、消息がつかめておらず・・・」
「ぐぬぬぬ・・・・
ならばネーダは、ネーダからの報告はまだか!」
「それも・・・・・」
天使の2人は、ネーダの策によって、王都にはいない。
それどころか、連絡もつかない状況にある。
また、ネーダは、サハールに手により
既に、この世にいない。
その為、セグスロードに、成す術が無いのだ。
それでも、セグスロードは、必死に考える。
しかし、いくら考えても、良い案は浮かばなかった。
その為、逃げることにした。
だが、今すぐ逃げる訳にもいかない。
逃げたとわかれば、直ぐに追手が仕向けられる。
そうなれば、逃げ切ることなど、不可能。
それならと、本殿に残っている者達を使うことにした。
護衛の聖騎士に告げる。
「残っている聖騎士、いや、本殿にいる全ての人間を
今すぐ、ここに集めろ!
そして、武器を持たせて、この部屋の守りに就かせるのだ!」
「はっ!」
聖騎士は、直ぐに動いた。
こうして、本殿に残っていた者達が、
セグスロードの前に集められると
その者達を見下ろしながら、玉座から立ち上がり告げる。
「この国、アルマンド教国は未曽有の危機にある。
我らの敵、『悪魔』が攻めてきているのだ。
我らは、神に仕えし者。
この危機に、立ち上がらなくてはならない。
武器を手に、アルマンド教国を守るのだ!」
セグスロードの言葉に、声を大にして賛同する神に仕えし者達。
この光景に、密かに笑みを浮かべるセグスロード。
━━━精々、儂の盾となり、役に立つのだ・・・・・
セグスロードは、この者達が、戦っている最中に
逃げ出すつもりでいる。
だが、同時に、この事を、
この場にいる者たちに知られるわけにはいかない。
その為、ある程度の所まではこの場に残り
混戦に紛れて逃げ出そうと考えていた。
聖騎士、神父には武器。
シスター達は後方に控え、回復魔法の準備をさせた。
こうして準備を整え、待機していると
徐々に、戦いの音が近づいてくる。
戦い慣れていない神父や、シスター達に緊張が走り
思わず、槍を持つ手に力が入ると同時に
扉が破壊され、砂埃があがった。
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