第167話 アルマンド教国 過去からの生還
過去、セグスロードと、時期教皇の座を争った事のあるサハールが、
何故、こうなったか・・・・・
過去の事だが、その当時の教皇が死去した為
新たな教皇を迎えるという話になり、
その候補に挙がったのが、現教皇のセグスロード ゴールと
サハール メンデスだった。
この2人の戦いとなったが、教皇の座は、誰に対しても平等で、
民衆からも慕われているサハール メンデスで間違いないと
皆が思っていた。
だが、セグスロード ゴールだけは違う。
いくら、下馬評が悪くても、譲る気などない。
だが、このままでは、敗北は必至。
それがわかっているからこそ
セグスロード ゴールは、とある計画を実行することにし
ネーダを、屋敷に呼びつけた。
「セグスロード様、何か、御用でしょうか?」
「ああ、少し、相談があっての・・・・・」
「相談と言いますと」
ネーダも、この時期に呼び出され、
相談と言う言葉から、ある程度のことは予測できる。
だからこそ、先に口を開く。
「この度の教皇選についてでしょうか?」
「その通りだ。
このままでは、あ奴に、全てを持っていかれてしまう」
「確かに、そのようになるかと」
「わかっている。
だから、貴殿に声を掛けたのだ。
ネーダよ、わかっているな」
その言葉に、全てが詰まっていた。
要は、『サハール メンデスを殺せ』と命じているのだ。
ネーダは、ニヤリと笑う。
「お任せください。
直ぐにでも、吉報を持って参ります」
それだけ伝えると、ネーダは、その場から去って行った。
その後は、お手のもの。
サハールの側近を務める者の中には、
誠実さを守っているがために、貧しい生活を送っている者もいる。
彼らも、自分だけなら、我慢も出来ただろう。
しかし、家族がいれば、そうもいかない。
ネーダは、そこに付け込み、誘惑する。
病に苦しむ家族がいる者には、高価な薬を無償で提供し
生活に困っていると知れば、金を工面した。
こうして、何度も手を差し伸べ、断ることのできない状況を作り出すと
本性を現し、命令する。
『サハール メンデスの行動の全てを、報告せよ』
その命令に、初めこそ、
『そんなこと出来ない』とか、『サハール様を裏切るなんて、無理だ』と
抵抗する素振りを見せたが、
ここで、ネーダからの援助を打ち切られると
治りかけた病も、また、悪化してしまう。
また、金銭的に落ち着き、人並みの生活が送れていた日々も終わることになる。
そうなれば、1番に困るのは、家族。
まんまと、ネーダの思惑にはまったサハールの側近達は
返す言葉も失い、最後には、ネーダの命令に従うこととなった。
こうして、ネーダのもとには、
サハールの当日の予定だけでなく、
翌日の予定までもが届くことになったが
それだけでは終わらせない。
ネーダは、手ごまにした者達を、徐々に染め上げ、
当初、サハールに向けていた罪悪感を、完全に打ち消すところまで持ってゆくと
新たな命令をする。
「『竜の墓場』を横切った先に、村がある。
その村が、原因不明の病に侵され、人々が苦しんでいるので
力を貸してほしいと告げよ」
「そ、それは・・・・・」
「出来ぬとは、言わせぬぞ。
わかっておるな」
「は、はい・・・」
この命令を聞き、サハールを売った側近達は
今更ながら、理解する。
──サハール様を、亡き者にしようとしている・・・・・・
その考えに至ったが、全てが遅すぎた。
『断りたい』
そう思う傍ら、ここで断ろうものなら、
自身だけでなく、家族までもが、この国で暮らせなくなる。
それどころか、命まで危うい。
その事がわかっているだけに、命令に従うしかないのだ。
翌日、この村の話を聞いたサハールは、直ぐに行動に移る。
手の空いている者達に声を掛け、
出来る限りの食料を積み込んで、王都を旅立った。
だが、その一行の中には、サハールを売った者達の姿はない。
彼らは、サハールが不在の間の留守を守ることと
中々、出世できない者達に『手柄を立てて来い』と任務を譲る形で
王都に残ったのだ。
殺されることがわかっている旅になど
誰も、行きたくはない。
何も聞かされず、ただ、人々を助ける為に
王都を出発したサハール達。
急ぎ、馬車を走らせ、村へと向かっていると
突然、襲撃を受ける。
彼らは、盗賊を装っているが
本当は、ネーダの息のかかった者達。
その為、金品などには目もくれず、
その場にいる者達を、確実に殺してゆく。
当然、サハール達も抵抗を見せるが
それも無駄に終わる。
なぜなら、彼らの中には、魔法を使う者までいたのだ。
近接戦だけでなく、遠距離からも襲い来る攻撃に
次々と、命を失ってゆく。
この時、初めて気付いた。
盗賊が、これだけ多くの魔法使いを、抱えている筈が無い。
ならば、誰が・・・・・。
考えるまでもなかった。
今、この時、サハールを邪魔に思う者は、1人しかいない。
「セグスロード、やってくれたな・・・・・」
憎しみを糧に、サハールは最後の賭けに出る。
サハールが目指すのは、竜の墓場。
サハール自身も深手を負っており
逃げ切れるとは思っていない。
だが、竜の墓場に辿り着けたなら
多くの敵を、巻き込むことが出来る。
──1人でも多く、道連れに・・・・・
セグスロード、儂だけでなく
関係の無い者まで巻き込んだ
貴様を、絶対に許さぬぞ・・・・・
サハールは、アンデットになってでも、この世に残る事を決意をし
竜の墓場を目指す。
追従してくる者達には、残り少なくなった魔力を使い、魔法を放つ。
こうして進み、竜の墓場に近づいた頃には、追手の姿も見えなくなった。
流石に、ネーダの雇った男達も、竜の墓場までは追って来ない。
やっと、一息つけると思ったサハールだったが
今度は、流した血の匂いを嗅ぎつけ、魔獣達が姿を現す。
一難去ってまた一難。
意識が朦朧とする中、必死に魔獣と戦うサハール。
だが、いくら戦っても魔獣の数は減らない。
衣服は、破かれ、体中に傷を負い
左腕は、千切れている。
何時、意識が途切れてもおかしくない状況だったが
サハールは、諦めていない。
必死に藻掻き、戦いながらも、歩を進めた。
そうして、やっとの思いで、断崖に辿り着くと
安堵したように、サハールが呟く。
「間に合った様じゃな・・・・・」
この断崖の下こそが、サハールの目指した場所であり
竜の墓場と言われるところなのだ。
安堵しているサハールに、魔獣達が、一気に襲い掛かる。
それと同時に、サハールが、断崖から身を投げた。
「ホッホッホッ・・・・・
主らも道連れじゃ・・・・・」
魔獣に噛みつかれたまま、断崖から落ちてゆく。
その途中、サハールが叫ぶ。
「セグスロード!
貴様は必ず、必ず、この手で・・・・・儂は、絶対に忘れぬぞ!!!」
怨嗟の叫びを最後に、
サハールは、地上にいたアンデットドラゴンに飲み込まれ
姿を消した。
だが、暫くすると、アンデットドラゴンは、
サハールの骨だけが吐き出した。
それから、数年後・・・・・
サハールは蘇る。
だが、彼は、思考を持たぬアンデットと化しており
ただ、その場を徘徊するだけ。
雨が降ろうが、雪が降ろうが、ただそこを漂う。
そんな毎日だったが、ある時、奇跡ともいえる出来事が起きる。
アンデットオオトカゲに乗ったエンデ達が現れたのだ。
「ここなら、仲間が増やせそうだね」
そう言って、笑顔を見せるエンデに、エブリンが注意する。
「道草ばかりだと、王都に辿り着けないわよ」
「わかっているよ。
でも、仲間は多いほうがいいでしょ」
「確かに、そうだけど・・・・・
だったら、出来るだけ早くしなさいよね!」
「うん、わかった」
エンデは、アンデットオオトカゲの背から飛び降りると
1人で、アンデットの群れの中へと、飛び込んだ。
こうして始まった戦いだったが、意識を持たないアンデットが
エンデの敵になる筈が無い。
一方的な暴力で、次々に粉砕してゆく。
そうして、戦っていくうちに
エンデは、アンデットドラゴンと向き合うこととなったのだが
アンデットドラゴンは、少なからず意識が残っているのか
攻めては来ず、ただ、エンデを眺めている。
「ねぇ、もしかして、僕のことわかるの?」
「・・・・・」
返事はない。
「気のせいかな?」
そう思ったとき、アンデットオオトカゲが、声をあげた。
『グギャァァ!!』
その声に反応するアンデット ドラゴン。
『グ・・・ガ・・・』
その反応に、アンデットオオトカゲが、喜びの声をあげたが
その瞬間、アンデットドラゴンの目が、紅黒く染まった。
『グワァァァァァ!!!』
突然、雄叫びを上げ、エンデに襲い掛かるアンデットドラゴン。
エンデは、悪魔の姿に変化し、
アンデットドラゴンの攻撃を躱した。
そして、隙だらけの、アンデットドラゴンの顔面を殴りつける。
攻撃を受け、勢いよく吹き飛んだアンデットドラゴンは
アンデットと化した魔獣達を巻き込みながら倒れた。
エンデの攻撃はまだ終わらない。
倒れたアンデットドラゴンに近づいたエンデは
その後も、何度も殴りつけて、破壊を繰り返す。
そして、頭部だけを残す形で、エンデは、攻撃を止め
声を掛けた。
「もし、聞こえていたら、何でもいいから声をだしてくれる?」
『グ・・・』
「うん、聞こえているんだね。
なら、聞くけど、僕と一緒に来る?
それなら、きちんと話せるようにも、空を飛べるようにもするよ」
エンデの問いかけは、アンデットドラゴンには、夢のような申し出だった。
もう、意識もほとんど残っていない。
また、先程のように、自身では制御できなことも増えた。
そんな煩わしいと思う日々の中で、
突然、現れた強者と思える少年からの申し出に、
アンデットドラゴンは、必死に言葉を発する。
『ガ・・・ァァァ』
その言葉を、肯定と捉えたエンデは、笑みを浮かべた。
「わかった。
一緒に、行こう!」
こうして、アンデットドラゴンを仲間にしたエンデは
約束通り、アンデットドラゴンの修復にかかる。
とは言っても、エンデは、いつものところに送り込むだけ。
いつもの所に、アンデットドラゴンを送り込んだ後
エンデが、周りを見て回っていると、
その中に、ボロボロの布を握りしめているアンデットを発見する。
「お姉ちゃん、どうして、このアンデットは、
こんな布を、握りしめているの?」
エンデに問いかけられたエブリンは、
シャーロットと共に、アンデットオオトカゲから降りると
エンデのもとへと駆け寄り、その布を確認した。
「この布って・・・・・」
「多分、間違いないわ」
2人の意見が一致する。
ボロボロで、汚れてはいるが、
その布自体は、高価な物で、
一般の人には、手が出せない品物らしい。
「だったら、このアンデットも?」
「ええ、そうね。
何故、ここで死んだのかは、わからないけど
位が高い方だったことは間違いないと、思うわよ」
その言葉を聞き、エンデは、子のアンデットも、いつもの所へと放り込んだ。
それから暫くして、エンデは、アンデットドラゴンと
アンデットを呼び出した。
地を鳴らしながら姿を見せるアンデットドラゴン。
その後ろから、アンデットが、姿を見せるが
まだ、完成していなかったのか、所々しか肉がついていない。
「あれ?
なんでだろう?」
思わず考え込むエンデに、アンデットが話しかけてきた。
「儂は、サハール メンデスと申します。
この国の教皇になっているであろう男、
セグスロード ゴールに恨みを抱く者で御座います。
儂は、この手で恨みを果たしたい。
どうか、この願いを、叶えて頂けないでしょうか?」
サハールは、頭を下げたまま、続ける。
「この願い、叶える事が出来た暁には、
アンデットと化したこの身ですが
全てを、貴方様に捧げます。
ですので、 どうか、この願い、聞き受けて頂けないでしょうか?」
懇願するサハールに、エンデが答える。
「うん、いいよ」
あっさりと同行を許したエンデは、
動けるアンデットと化した魔獣達を回収した後、
仲間と共に、アンデットドラゴンの背に乗り
再び、アルマンド教国の王都を目指した。
そして、王都の入り口での一件を終え
現在に至る。
こうして、復活したサハールは、
ネーダに続き、今度は、ファールとバンダムの2人と向き合っていた。
「ホッホッホッ・・・・・
主らも、元気そうじゃの・・・・・」
サハールに話しかけられ、
ファールとバンダムは、尋常ではない程の汗を流す。
それもその筈。
彼らは、サハールの側近でありながら
あの時、サハールを売った張本人なのだ。
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