第166話 アルマンド教国 罠
兵舎のような建物の中に入ると
ネーダ、ファール、バンダムの3人の姿があった。
だが、それだけではない。
柱の死角や、扉の向こう・・・・・
色々な所に隠れているが
こちらを伺っている聖騎士達の姿もある。
その気配を探ると、小隊以上の人数が隠れていることが判明し
エンデは、思わず声を、あげそうになったが
慌てて口を押えた。
──あれっ!
罠だったの?・・・・・
エンデは、脳内で、そう思いながらも教皇セグスロード ゴールを探す。
だが、辺りを見渡しても、それらしき者の姿は見えない。
「もしかして、騙されたの?」
エンデの言葉を聞き、ほくそ笑むネーダ達。
彼らは、エンデ達を、教皇の命令に従い
ここに、連れてきたのだ。
──ふんっ!
ノコノコ現れおって・・・・・
ここが貴様らの墓場とも知らずに・・・・・
優位に立っていると勘違いをしているネーダ達は
『ここまで、上手く行っている』と満悦感に浸っている。
教皇セグスロード ゴールの
『お前達も準備を怠るなよ』という言葉の意味は
『お前達で、始末をつけろ』という事だった。
元々、教皇セグスロード ゴールは、
エンデ達に、会うつもりなど微塵もなかったのだ。
ここまでの作戦がうまく進んだことで、
ネーダは、次の手に出る。
「こ奴らを、誰一人として、生きて帰すな!
始末せよ!」
ネーダの言葉に従い、姿を現す聖騎士達。
「うわぁ~、思ったよりも多いや」
そう言いながらも、笑顔を見せているエンデを放置し
マリウルとガリウスは、素早くエブリンとシャーロットの護衛に付いた。
そそくさと、エンデ達の前から下がっていくネーダ達を放置していると
エンデよりも前に、ダバンが進み出る。
「主、ここは俺に・・・・・」
ダバンの、その言葉を遮るように、聖騎士達が襲い掛かるが
その攻撃よりも早く動き、先制攻撃を仕掛けた。
あっという間に、距離を詰めると、一撃で屠る。
遠慮などなく、確実に息の根を止めてゆくダバンの攻撃に
聖騎士達の攻撃が止む。
一瞬の静寂が訪れると、背後で見守っていたバンダムが声をあげた。
「何をしているのだ!
さっさと、殺してしまえ!」
「はっ!」
はっぱを掛けられ、再び攻撃を仕掛けてくる聖騎士達だが
近づいた者から、ダバンが順に屠ってゆく。
その光景に、ファールもバンダムも言葉が出ない。
ネーダも、恐怖から、自然と汗を流していた。
「何故、こんなことに・・・・・」
愕然としながら
そう呟いた時には、聖騎士の殆どが倒されており
3人の護衛も見当たらない。
ダバンが動きを止め、ネーダ達に告げる。
「もう勝ち目はないぜ」
戦いの結果に『クッ!』と悔しそうに、こぶしを握るバンダム。
だが、ネーダにとって、そんなことは、もう、どうでもいい。
敗北が確定した今、彼の頭にあるのは、この場から逃げること。
ただ、それだけの為に、思考を巡らせている。
しかし、いくら考えても、良い案など浮かんでこない。
──どうすればよいのだ・・・・・
生き残っている聖騎士を盾にすることも、勿論、考えた。
また、仲間を犠牲にすることも、当然考えてみたが、
それだけでは、足りない気がする。
『ならば』と思い付いたのが、
動揺を誘うこと。
もうそれしか残っていないのだ。
──奴らが引き連れてきたアンデットが、王都の外にいる。
そ奴らに、危機が迫っているとしたら・・・・・
そう思いついたネーダは、賭けに出る。
「フフフ・・・いいか、よく聞け。
今、ここで、お前たちが足止めされている間に、
貴様の仲間のアンデット達は、
我が軍により、始末されているぞ」
不敵な笑みを浮かべながら、そう告げたネーダに
エンデの表情が変わる。
「別部隊を仕向けたんだ・・・・・
そっかぁ・・・・・
可哀そうに・・・・・」
動揺や怒りではなく、ただ、憐みの表情をみせるエンデ。
これは、予想外だった。
怒りでもなく、悲しげな眼を向けられたネーダは、
顔を真っ赤にして怒鳴る。
「そ、そんな強がりが通用するとでも思っているのか!
あちらには、この国の聖騎士総隊長のヨルムン殿が向かっているのだぞ!」
精一杯の強気の言葉で返したが、エンデ達の表情は変わらない。
だが、エブリン達の護衛をしていたマリウルやガリウスは、
エンデが見せたような悲壮感漂う表情で、ヨルムンを哀れんでいる。
そんな2人の表情に、ファールが問いかけた。
「お、おい、その顔は?
どういうことだ?
貴様ら、何か隠しているのか?」
突然話しかけられて、思わず、ガリウスが驚く。
「あっ!スマン・・・・・気にしないでくれ・・・・・」
『気にするな』と言われても、無理なこと。
執拗に問いかけるファール。
「いったい、何を隠している!?」
苛立ちが込み上げ、徐々に憤慨してゆくファールを
隣にいたバンダムが、ファールの肩に手を置き
宥めるように、声をかけた。
「待て!
奴らの出まかせかもしれん。
慌てるんじゃない!!」
『ああ、その通りだ』と言って、話に割って入ったネーダは
エンデ達に向かって、言い放つ。
「貴様ら、いい加減なことを言っても無駄だ。
その内、表のアンデット達を倒したヨルムンが、
我が国の聖騎士達とともに、ここに押し寄せるぞ。
そうなれば、貴様らも御終いだ」
そう言い切ったネーダだが、額に汗を浮かべていた。
それもその筈。
エンデと話している間も、ネーダの視界には
生き残っていた聖騎士達が、ダバンよって屠られる姿が見えているのだ。
1人、2人と成す統べなく倒されてゆく。
そして、とうとう、その時が、訪れる。
聖騎士が、全滅したのだ。
見計らったかのように、エンデが口を開く。
「時間切れだよ。
後は、お前たちだけだぞ」
その言葉に、ネーダ達が怯むと
追い打ちをかけるように、続けて話す。
「人質は3人も要らないな。
誰か1人を残して・・・・・・」
エンデの言葉に、慌てた様子で膝をつく3人。
もう、隙をついて逃げるなどという考えは
記憶から失われており、ただ、懇願するネーダ。
「ま、待ってくれ。
我々は、教皇様に命じられただけなんだ。
ほ、本当は、こんな役、嫌だった。
だが、逆らうと、家族を危険に晒すことになる。
殺されてしまう・・・・・。
だから仕方なく従っていただけなんだ。
頼む、どうか命だけは取らないでくれ・・・・・頼む」
頭を床に付けて懇願する3人に、エンデは語り掛ける。
「さっき、そんな事言ってた?
違うよね。
ねぇ、何だったっけ?
僕たちの命は御終いとか、言ってなかった?」
「そ、それは・・・・・」
「あと、仲間が助けに来るんだっけ?
いいよ。
それまで待ってあげるよ」
エンデは踵を返すと、近くにあった椅子に腰を掛ける。
その様子を見て、エブリンがシャーロットに声をかけた。
「私たちも、ゆっくりしましょう」
「ええ、そうね・・・・・」
エブリン達も、エンデと同じように
近くにあった椅子に腰を掛けると
マリウルとガリウスも、それに習い、腰を掛けるが
視線だけは、3人に向いている。
しばらくは、このまま待機することになるのかと思われたその時、
再び地響きが起こり、建物が揺れた。
埃と同時に、古びた木材が天井から落ちてくると、
ネーダ達は、頭を抱えて声を上げる。
『ヒィ!』
驚く3人と違い、エンデは笑顔をみせて、口を開く。
「あっ、来たみたい!」
椅子から立ち上がったエンデは、入口へと視線を向けた。
すると、タイミングよく、『ギィィィ』と音を立てて扉が開くと
祭服らしき衣服を纏ったほぼ骸骨の男が姿を見せる。
「お待たせしたかのぅ」
そう言い放った骸骨の男の手には、生首が握られていたが
そのことには触れず、エンデが声を掛けた。
「お疲れ様。
それで、向こうは?」
「御心配なさるな。
儂とサラバド殿で片付けた。
もう誰も、残っておらぬよ」
「わかった。
ありがとう」
エンデと骸骨の男は、ネーダ達へと向き直ると
ゆっくりと歩きだす。
エンデと骸骨の男が近づくにつれ、
その生首が誰なのかが理解できた。
「ヨルムン・・・・・」
骸骨の男は、ネーダ達の前に、ヨルムンの首を『ヒョイ』と投げると
『その首はゴロゴロ』と転がり、丁度、3人の前で止まる。
「叔父さんたちが待っていたのは、この人でしょ。
出会えてよかったね」
笑顔で告げるエンデに、言い知れない恐怖に襲われるネーダ達。
人が従えると思えないほどの配下。
どう見ても、アンデットの骸骨の男。
それに、王都に攻めてきたアンデットの大群。
「・・・・・」
もう、声も出ない。
同時に、脳裏を過るのは悪魔の噂。
「どうして、こんなことに・・・・・」
改めてエンデの怖さを知り、呆然とするネーダ達だが、
話は、そこで終わらなかった。
骸骨の男が、口を開く。
「ネーダよ、未だに悪巧みを働いておる様じゃな」
急に話しかけられ、『えっ!?』と驚きながらも、
ネーダは骸骨の男の顔を見た。
顔に残っている肉片が、ある者の面影を残している。
「もしや!!!」
「ホッホッホッ・・・・・
やっと、気が付いた様じゃな」
ネーダに続き、ファールもバンダムも気が付く。
「【サハール】様!!!」
骸骨の男の名は、【サハール メンデス】。
現教皇セグスロード ゴールと、教皇の座を争った男だった。
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