第164話襲来
ネーダは、本殿に入ると報告に向かう前に自室に戻り、
自身の作戦の成功を確信して、悦に浸っていた。
「これで、教皇様もお喜びになられるだろう」
そう思った時だった。
突然、王都が震えるほどの地揺れが起こる。
本殿も揺れ、
ネーダは、手に持っていたカップから、お茶が零れると、声を上げた。
「熱っ!
これは、いったい、何事だ!」
揺れが小さくなった瞬間、ネーダは、部屋からベランダへと飛び出したのだが
その瞬間、再び轟音と共に、王都が揺れた。
思わず、バランスを崩したが、
なんとか手摺に掴まり、ネーダは、難を逃れる。
『ヨロヨロ』と立ち上がり、揺れが小さくなるまで待ち
その瞬間に、部屋の中へと戻ると
そこに、神父の【オイル】が飛び込んで来た。
「ネーダ様、大変で御座います!」
「何があった?
この振動はなんだ!?」
「ア、アンデットです。
先攻して来たアンデットたちの攻撃です。
その後方にもアンデットの集団が・・・・・」
「アンデットの集団だと・・・・・そんなものが、いったいどこに・・・・・」
「た、多分、例の『竜の墓場』からだと思われます」
『今更、何故・・・・』と動揺するネーダだが、
どちらにしろ、ネーダに、出来ることなどない。
だが、まだ手は残っていることを、思い出す。
「そうだ、天使、天使様を、早く王都に連れ戻せ!」
そう叫ぶネーダに、オイルが小声で告げる
「それが・・・・・・」
「はっきり言え!」
「行方が分かりません」
「行方が分からないだと・・・・・
そ、それでは護衛の者たちはどうなった?」
「それも不明です」
「・・・・・・なぜ、そのようなことに」
愕然とするネーダだが、
そんな暇もないとばかりに
教皇の補佐をしている者達までもが、ネーダの元に姿を見せる。
「おい、ネーダ。
天使様は、何処におられるのだ?」
バンダムから問いかけられるが、返す言葉が見つからない。
「答えろ!
あの方達は、何処におられるのだ!」
バンダムに続き、ファール、ジュネーブもネーダに詰め寄る。
「天使様の居所は、貴殿しか知らぬ。
あの方々を、何処に連れ出したのだ!」
『早く言え!』とばかりに詰め寄られたネーダは、俯きながら答えた。
「りゅ、竜の墓場に・・・・・」
「貴様、竜の墓場に、天使様を、連れ出したのか?」
「あ、ああ・・・」
愕然とする一同。
「なんということだ・・・・・」
「天使様のいない今、この騒ぎをどうやって解決するのだ・・・」
解決の策が見えないまま立ち尽くしていると、
教皇セグスロード ゴールからの呼び出しがかかり、
全員が、謁見の間へと向かった。
その謁見の間に入ると、
既に教皇セグスロード ゴールは、姿を見せており、
玉座に座っていた。
だが、教皇セグスロード ゴールは、見るからに不満そうな顔しており
補佐達を睨みながら、問いかける。
「この揺れの原因はなんだ?」
「その事ですが、アンデットの大軍が王都に押し寄せておりまして・・・・
その・・・・アンデットの先攻部隊の攻撃かと思われます」
「ふむ・・・では、この揺れの原因は
アンデットが攻めてきたと言う事だな」
「はい」
「そうか、ならば、天使様に頼むとするか」
自身が、天使の排除を目論んだくせに、
危機が迫ると直ぐに掌を返し、天使に頼ろうとしたのだが・・・。
「お、お言葉ですが教皇様。
先日の話で、天使様は・・・・・・」
ジュネーブの発言に、蓄えた髭を摩りながら、
教皇セグスロード ゴールは返事を返す。
「先日の話だと・・・・・
さて、貴殿らと何か話したかのぅ・・・・・
儂には、身に覚えがないのだが」
「そ、そんな・・・・・」
愕然とするしかない。
──それでは、今回の事はどうなるのだ・・・・・・
おおよその事は想像できるが、それは考えたくない。
ジュネーブは、頭を振り払い、その考えを打ち消そうとする。
そんなジュネーブの様子を見て
この状況が、願ってもない状況だとネーダは判断した。
──まだ、今回の事は、教皇様には報告していない。
ならば、すべての責任を、ジュネーブに被せれば・・・・・
ネーダは、ジュネーブに詰め寄る。
「貴殿が仕出かしたことを、私は知っているぞ!」
『突然、何を言っているんだ?』と驚くジュネーブが
ネーダの顔を見る。
だが、ネーダの表情は、変わらない。
「お、おい・・・・・ネーダ・・・」
問いかけようとするジュネーブの言葉を遮ると、
ネーダが続ける。
「貴殿が天使様を、この王都から連れ出し、
竜の墓場に向かわせたそうではないか」
「なっ!
それは貴殿が・・・・・」
ジュネーブの言葉を、今度は教皇セグスロード ゴールが遮る。
「ジュネーブ、貴様はなんて事をしてくれたのだ!」
怒りを露にしたような態度を見せる教皇セグスロード ゴールも、
ジュネーブに責任を押し付ける。
「もしや、このアンデットの襲撃も、貴様のせいではないのか!?
それに、天使様のお姿が見えないのも、貴様の仕業だとは・・・」
「お、お待ちください教皇様!」
教皇セグスロード ゴールの誤解を解こうとするジュネーブだが、
誰一人として、手を貸そうとはしない。
『誰も責任など取りたくはない。
それに、連帯で責任を取らされるくらいなら、
誰か1人に、責任を押し付けたほうがいい』
ファールもバンダムも、そう考え、顔を背ける。
全ての罪を被らされたジュネーブは、
それでも、必死に弁明をするが、
その言葉を、誰も聞き入れようとはしない。
「お願いです教皇様、どうか、お聞き入れください!」
最後の願いとばかりに、声を張り上げるが
その言葉も、教皇が聞き入れることはなく
ただ、一言だけ発した。
「その者を捕らえよ!」
「そ、そんな・・・・・・」
近衛となる聖騎士に拘束されたジュネーブは、
このまま、謁見の間から連れ出された。
そして、これがジュネーブの最後の姿となる。
ジュネーブが連行され、静まり返った謁見の間で
教皇セグスロード ゴールが、再び口を開く。
「アンデットの対処を、しなくてはならぬのだが
誰か、良い案は無いか?」
この言葉に、誰も口を閉ざしたままで、
何も、発しようとはしない。
それもその筈、
こんな状況を覆せる者などいないのだから。
アンデットの大群の規模にもよるが
最悪、王都の大半を、破壊されかねない。
皆が、頭を悩ませている時、
ファールが、あることに気が付く。
「そういえば、揺れが・・・・・」
教皇もファールの言葉を聞き、耳を澄ます。
「確かに、止んでいるな」
王都が静まり返ったこの状況に、一段と不安が増す。
「誰か、偵察に!」
そう叫んだ時、ファールの言葉を遮るように、
謁見の間に、1人の兵士が飛び込んで来る。
「ご報告申し上げます!
アンデットが攻撃を止め、旗を上げております」
「旗だと・・・・」
「はい、間違いありません。
それと、面会を求めております」
「アンデット如きが、この聖なる本殿に足を踏み入れようというのか!?」
怒気を孕んだネーダの言葉が響く。
だが、教皇セグスロード ゴールが、ネーダを諫めた。
「良い、ここは一度、会って見ることにしよう。
但し、場所は、本殿の庭だ」
確かに、本殿の庭なら、
アンデット達が本殿内部に足を踏み入れることはない。
「確かに、あの者達には、それで十分だと思います」
「では、アンデット共の代表者に告げよ。
面会は受け入れる。
こちらの手筈が整ったら、改めて連絡するとな」
「はっ!」
兵士が、足早に謁見の間を後にすると
教皇セグスロード ゴールは、残っていた補佐役の3人と向き合う。
「わかっていると思うが、お前達も準備を怠るなよ」
「畏まりました」
その言葉の意味を3人は理解し、直ぐに行動に移った。
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