第163話ネーダの思惑

その言葉に、大男も、同じように笑みを漏らした。


彼は、天使様を遠目から見たことがある。


「天使様か・・・・・ありゃ、いい女だったな」


大男は、『ゲラゲラ』と笑った後、表情を一変させた。


「それで、俺たちにどうしろと?」


その言葉に、騒ぐのを止め、ネーダの次の言葉を待つ。


「お前達には、天使様の護衛として、ある場所に向かってほしい」


「ある場所?

 もったいぶらねぇで、はっきりと言えよ」


ネーダは、一拍置いて、口を開く。


「竜の墓場だ・・・・・竜の墓場に、連れ出してほしい」


『竜の墓場だと・・・・・』


周囲から驚の声が漏れる。



それもその筈。


『竜の墓場』とは

アルマンド教国の王都から、

北に向かった場所にある

山脈の谷の部分に存在する

アンデットの蔓延る地。


元は、死を予見した老竜が、最後を迎える為に

降り立った場所だったのだが、

何時からか、その竜の肉を食べようと、

魔獣たちが群がり始めたのだ。


だが、弱っても竜。


襲いかかる魔獣達を、老竜は次々に屠り、そこに屍の山を築く。


しかし、今度は、その死臭に連れられて、

また新たな魔獣達が集まってきたのだ。


こうして、最悪とも言える永久機関が出来上がり

数年経った頃、谷が埋まるほどの屍の中から、

起き上がるモノが現れ始める。


それが、アンデットと化した魔獣と竜。


彼らは、何故か、その地から離れる事は無いのだが、

赴く者には容赦などしない。


気付かれたら最後。


アンデットドラゴンが空から攻撃を放ち、

アンデットと化した魔獣が地を這い襲い掛かる。


そして再び屍の山が築かれ、アンデットが産み出されるのだ。


当然のことだが、神聖魔法の使い手を、多く持つアルマンド教国も

放置していたわけではない。


幾度となく調査団を送り込み、

対応を試みたのだが、結果は、かんばしくない。


殆どの者が帰らぬ人となった。


その為、現在は遠くからの監視だけに留まっている。




そんな場所に、『天使様を連れていけ』と命令するネーダ。


「あそこは、監視されているから、迂闊に近づくことが出来ねえ筈だよな」


大男の問いに『問題ない』と、ネーダは返す。


「既に手は打ってある。


 明日の監視は、俺の部下だ。


 お前たちが通り過ぎても、報告したり、咎めたりする者などいない」


「そうか、ならば儂らは、その天使様を連れて行くだけでいいのだな」


「上手く行けばそれでいい。


 だが、もしも生き延びるようなことがあれば・・・・・」


「わかっている。


 二度と、この街には戻らせねぇよ」


「では【ガルマ】よ、頼んだぞ」


「ああ任せておけ、

 その代わり・・・・・・」


大男、ガルマが、最後まで言い終える前に

ネーダは、懐から取り出した小袋を、ガルマに投げつける。


「これは前金だ。


 成功した暁には、その金の倍額を払おう」


「流石ネーダ様、わかってやがるぜ」


この後、全ての説明を終えたネーダは、

本殿へと帰っていった。



そして、その日の夕刻。


クルルとエルマに

ネーダは、面会を申し込む。


その願いは叶い、

夕食後、3人は、応接室で会うこととなった。


最初に、口を開いたのは、クルル。


「私達に、話があるとのことでしたね?」


「はい、本日、私の部下が、

 悪魔の拠点と思わしき場所を発見致しました」


「拠点ですか?」


「はい・・・・」


クルルとエルマは、お互いの顔を見合わせる。


「それで、私たちにどうしろと?」


「明日、私が揃えた精鋭たちが、悪魔討伐に赴きます。


 その際、天使様方にも、ご助力頂ければと・・・」


「そういうことでしたか・・・・・」


「はい、天使様方に、ご助力、

 いや、ご同行、頂けるだけでも、かの者たちの士気も上がります。


 それに、悪魔盗伐は、天使様にとっても、

 重要なことだと聞き及んでおりますゆえ

 この度の件、 お誘いさせて頂いた次第で御座います」


確かにクルルとエルマは、その為に、この地上界に降りて来た。


しかし、正面に座るネーダに、何かしらの怪しさを感じずにはいられなかった。


その為、クルルとエルマは行かない方がいいと思っいたのだが、

この誘いを無下に断る訳にもいかず、

仕方なく、ネーダの誘いを了承する。


「わかりました。


 では、同行致しましょう」


同行の約束を取り付けることに成功したネーダ。


感謝の言葉を述べた後、『明日の準備があるので』と言い残し

足早に部屋から出て行った。


部屋に残ったクルルとエルマは、そのネーダの態度に

怪しさを感じずには、いられなかった。


「やはり、怪しいですね・・・・・」


「私もそう思いました。


 ですが、断る訳には・・・・・」



「わかっています。


 ですので、万全の準備をして、向かいましょう。


 それと、報告も、上げておきましょう」


「ええ、その方が無難ね」


2人は、静かに動き出す。




そして、翌日・・・・・

本殿の前には、ネーダの部隊の50名と、クルルとエルマ。


それと、2人のお世話をするメイドの4名が揃っていた。


「天使様、ご紹介させて頂きます。


 この度の部隊を率いるリーダーのガルマで御座います」


先日と違い、立派な鎧に身を包んだガルマは、膝をつき、頭を垂れる。



「御尊顔を拝謁させて頂き、感謝の念に堪えません。


 この度の部隊を率いらせて頂きますガルマと申します。


 以後、お見知りおきを」


「私はクルル。


 こちらは、エルマだ。


 よろしく頼みます」



「はっ!

 この命に代えても、お守りいたします」



冒険者と思えぬ程の、堂に入った態度で挨拶を終えると、

ガルマは、出発の合図を送る。


「出発だ!」


その声に従い、部隊が動き出した。


「お気をつけて」


クルルとエルマの乗る馬車に向かい一礼をするネーダだが

部隊が本殿から見えなくなると、『ニヤリ』と笑みを零す。


「さて、報告にでも、向かいますか・・・・・」


そう言葉を残し、ネーダは、本殿に向かって歩き出した。




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