第162話召喚されし者 反旗
クルルとエルマが、降臨してから数日経つと
2人の存在は王都中に知れ渡っており、
今では、教皇よりも、2人を崇拝するようになり始めていた。
この状態が気に入らないのは、教皇セグスロード ゴール。
世界に教会を持ち、圧倒的な権力をもっているのに
クルルとエルマが来てからというもの、
王都において、教皇より、2人を崇拝する者が増えたことが、気に入らないのだ。
神の代理としてこの世界に来たのだから、それは当然の事なのだが、
人の感情とは、難しいもので、
頭では理解は出来ていても、感情は、コントロールできない時がある。
今まで、教皇セグスロード ゴールより、上の人間は、いなかった。
その為、誰もが、敬い、尊敬の念を抱いていたが、
今は違う。
教皇セグスロード ゴールよりも、上の存在が目の前にいるのだ。
その事に対して、不満を持ち始めた教皇セグスロード ゴールは、
自然と、クルルとエルマに対して、憎悪を膨らましてゆく。
「ジュネーブよ、
天使様は、いずこにおられるのだ?」
「本日は、護衛を引き連れて街の様子を見に・・・・・」
──人気取りに出かけおったか・・・・・
そう思う教皇だが、口には出さず
『そうか・・・・・』とだけ答えた。
だが、長年、教皇に使えるジュネーブは、細かな変化も見逃さない。
「如何為されましたか?」
「・・・うむ、例の悪魔の件について、天使様方に、詳しく話したのだが、
一向に、何かしようという様子が見受けられない。
果たしてこのままで良いのかと思うての」
教皇セグスロード ゴールの含みを持たせた言い方から、
不満を募らせていることを理解したジュネーブは、
落ち着かせるように言葉を返す。
「天使様のなさる事ですので
我々では、理解の及ばないこともあるかと存じます。
ですので、もうしばらく様子を見られては・・・・・」
教皇セグスロード ゴールを落ち着かせるために、
言葉を選んで伝えるジュネーブだが
そのような配慮も、今の教皇セグスロード ゴールには、届かない。
「そうかの・・・・・
儂には、そうは見えんのだ。
あの者共は、人々を誘惑し、
この国を、乗っ取ろうとしているようにしか見えぬのだが・・・・・」
不用意な発言に、ジュネーブが声を張り上げる。
「教皇様!!!」
思わず、声を張り上げてしまったジュネーブは
辺りを見回し、他に人がいなかったことに安堵すると、
教皇セグスロード ゴールに近づいた。
「お腹立ちなのは理解致しましたが、誰が聞いているかはわかりません。
教皇様のお考えを否定するつもりはありませんので、
もう暫くお待ちください」
「ほう・・・・それでは、この状況を、お主が何とかしてくれるというのか?」
ジュネーブを睨みつける教皇セグスロード ゴール。
思わず、怯んでしまったジュネーブだが
この場、この雰囲気の中
何も思いついていないなどと、口が裂けても言える筈が無い。
「た、楽しみにして頂ければ・・・・・」
「ほぅ・・・・・では、期待して待つとしよう」
冷や汗を流しつつも、なんとか、その場を乗り切ったジュネーブは、
一旦、教皇セグスロード ゴールから離れると
同じく補佐を務める者たちの待機している部屋へと向かった。
待機している部屋の中には、中には3人の男がおり
ジュネーブは、その中の1人に声を掛ける。
「ファール殿、ちょっと宜しいか?」
彼は、教皇セグスロード ゴールの御側役で
常日頃から、ジュネーブとは、情報を交わしあっている間柄なので
ジュネーブの様子から、何か良くない案件だと理解すると
直ぐに、他の補佐達にも声を掛けた。
「ちょっと、集まってくれ」
その呼びかけに【バンダム】と【ネーダ】が
ジュネーブのもとに集う。
「実はだな・・・・・」
ジュネーブから語られる教皇の無理難題。
困り果てる3人。
だが、ネーダだけは、『当然だ』と言わんばかりの納得したような顔をしている。
「ネーダ?」
ファールが声を掛けると、ネーダは語り出す。
「教皇様がそう思うのも当然だな。
だってここは、俺たちの国なんだぜ。
それを天使だか知らねえけど、
我が物顔で居座られたら、誰だっていい気はしないぜ」
「お前!
なんてことを言うんだ!」
諫めるバンダムだが、ネーダには届かない。
「この国を作ったのは、俺たち人族だ。
他の何者でもない。
確かに俺たちは、神様に対して敬意を払ってはいるが
奴隷の様に服従を誓っている訳ではない。
俺達には、俺達の意思がある。
この国を守るのは、我らアルマンド教国の民だ。
たかが悪魔如きに、あいつらの手を、借りる必要なんてない!」
「そうは言っても、貴殿に、何か策でもあるのか?」
「ああ、俺に、いい考えがある。
任せておけ」
そう言い残すと、ネーダは、1人で部屋から出て行くと
その姿を見送った3人は、どうしたものかと、再び思案を始めた。
一方、部屋を出たネーダは、そのまま街へと向かって歩く。
そして、着いた先は、王都の外れにある、とある酒場。
立地は悪いが、何故か、中に入ると、大勢の人で賑わっていた。
「相変わらずだな・・・」
そう呟いたネーダは、
喧噪の中を抜け、奥へと進み、カウンターの正面に立つと
酒場の店主と目が合う。
「来ているか?」
ネーダの問いに、店主は黙って頷いた。
「わかった」
そう返事をしたネーダは、店主にチップを投げつけると、
そのまま奥へ進む。
ネーダが進んだ先には、個室が並んでおり、その中の1つ、
一番奥の部屋の扉に手を掛けると、挨拶もせずに、開ける。
すると、開く音と共に、
男たちの視線がネーダに集まった。
だが、ネーダは、気にも留めていない。
部屋の中にいる、『如何にも』といった感じの男達の前を通り過ぎ
一番奥のソファーで、両側に女性を侍らせながら飲んでいる
大男の前に立った。
大男は、視線を合わせることなく、口を開く。
「これは、珍しい方が、お見えだな」
「ああ、極秘の用事だ」
その言葉に、大男は顔を上げ、笑みを浮かべた。
「まぁ、いつものことだが、報酬は?」
「安心しろ、十分な金額を用意する」
「それは、有難い。
それで、相手は誰だ?」
「それを伝える前に、一つ、忠告しておく。
今回は、失敗が命取りになる」
「ほぅ・・・・・それ程の相手ということだな」
「その通りだが、聞けば、引き返せないぞ」
「くどいぞ!
相手は、誰だ!?」
大男が、怒鳴るように言い放つと
ネーダは、笑みを浮かべて答える。
「天使様だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます