第161話動き出す者たち 召喚されし者

精霊女王ルンが、独自で動き出した頃

天からの『御言葉』を伝えられたアルマンド教国では

教皇の補佐を務める【ジュネーブ】が、

『依り代』となる巫女の準備を、終えていた。



アルマンド教国、王都には、多くの孤児院がある。


その全てが教会に属しており、親を亡くした者、

貧しくて、捨てられた子供たちを保護している。


だが、それは、あくまでも名目上で、

本来の目的は、魔力や依り代としての器の大きな者を探す為であった。


その子達が、8歳になると、孤児院で生活する全ての者が受ける『能力検査』。


この検査で、未来が振り分けられる。


光の属性を持っていれば、修道院で修業を行う事となる。


また、光の属性を持ち、依り代としての器の才に、恵まれていれば

巫女となる。


その他、別の魔法に秀でていれば、

魔法士として戦闘訓練を受けることが出来るのだが

両方に受からなかった者は、

男性であれば、アルマンド教国の先兵として

兵舎に送り込まれ、捨て駒として、扱われる。


同じように、女性も、それなりの扱われ方をする。


一定の年齢に達するまでは、シスター見習いとしての教育を受け

認められれば、そのままシスターとしての生活を送ることが出来るが

それ以外の女性は、教会に関係のある商人や貴族、

はたまた、なにかしら教会に対して、功績を上げた者に

嫁ぐことになるのだ。


この世界は、一夫多妻制なので、

名目上、第3、第4夫人として迎えられるのだが

実際は、売るなり、好きに出来る。


所謂、褒美の品でしかない。


そんな中から、選ばれた者が、神殿に集められているが

何故か、ジュネーブは、浮かない顔をしている。


この度の降臨の条件は2つ。


魔力が少なくとも、魔力の器の大きな者。


それと、若い人物。


その条件に合う者を、この場に呼んでいるのだが

最適と思われる者は、1人しかいないのだ。


勿論、それなりの人数を準備しているが、

その者達は、何かが足りないというか、

いまいち、適していない。


その為、このぎりぎりの瞬間になっても

ジュネーブは、適合者を探していた。


「シスター見習いの中に、適した者はおらぬのか?」


「申し訳ございません!

 まだ、その・・・・・」


書記官達も、過去の資料から、必死に、見合う者を探している最中だが、

召喚の儀式までの時間が殆ど残っていない為、ジュネーブは額に汗を滲ませる。


──このままでは、私の立場が・・・・・


刻々と、時間が迫る中、突然、神殿の扉が開かれた。


「ジュネーブ様、その・・・・・」


部屋に入って来た神父の横には、小汚い格好の少女。


肌も汚れており、孤児院に住まう者ではないことは、一目瞭然。


「その娘は?」


「はい、スラムを、巡回中の神父が見つけました。


 それで、年齢を聞いたところ、10歳との事だったので

 一応、孤児院で『能力検査』を受けさせたところ・・・」


「それで結果は?」


「光属性に秀でておりましたので、

 ここに連れて参りました。


 それに、まだまだ伸び代も、あるようです」


『伸び代がある』それは、器が大きい事を示している。


ジュネーブの顔が綻ぶ。


「そうか、でかしたぞ!」


ジュネーブは、少女に近寄る。


「名前は何と言う?」


「【チャコ】・・・・・」


チャコは、見るからに『捨て子』か『孤児』。


この状況に、もってこいの人物だった。


「そうか、チャコと申すのか。


 これからは、暖かい寝床と食事が与えられるぞ」


頭を撫で、微笑むジュネーブに、チャコが問いかける。


「私だけ?」


「???・・・・

 どういうことだ?」


ジュネーブが神父に尋ねるが、神父も理解していない。


ジュネーブが、チャコに、問いかける。


「話してもらえるか?」


「うん。


 私と一緒に暮らしていた友達がいるの。


 その子たちは、どうなるの?」


その言葉を聞き、閃くジュネーブ。


「チャコは、その者たちも助けたいのか?」


「うん・・・・ダメかな?」


「いやいや、そんな事は無いぞ。


 だが、それにはチャコの協力が必要だ。


 チャコが力を貸してくれるのであれば、その子供たちを保護しよう」


その言葉に、チャコは、笑みを浮かべた。


「私に出来る事なら、何でもするよ。


 だから、みんなも助けて!」


「ああ、任せなさい。


 チャコの友達は、私達が、保護しよう」


ジュネーブは、満面の笑みでが答えると

その場で、神父に命令を下し、子供たちを孤児院で保護するように伝えた。


「神父様、ありがとう。


 それで、私は、何をすればいいの?」


「それについては、お風呂で、その体を奇麗にしてからにしよう」


「お風呂・・・・・入っていいの?」


「ああ、勿論だ」


ジュネーブは、シスターを呼びつけると

チャコに、食事と風呂、そして衣服を与えるように指示を出した。


 

シスターが、チャコを連れて、神殿を後にすると

ジュネーブは、安堵の溜息をつく。


──これも、神の思し召しか・・・・・

   何はともあれ、これで『依り代』が揃った・・・・・



全てを揃えることができたジュネーブは、

神殿を出ると教皇への報告に向かった。



その日の夕刻時、

本殿屋上にある召喚の祭壇の中心には、

真っ白な貫頭衣だけを身に纏った、2人の少女が立っており

その周りに、円を描くように、多くの巫女の姿があった。


また、そこから少し離れた場所には、

教皇と、その補佐達の姿もある。


それから間もなくして、太陽が山に掛かり

空の色が変わり始めた時、円を描くように待機していた巫女達が跪き、

祝詞のりとを唱え始めると

その中心にいた2人の依り代も手を合わせ、祈りを捧げる。


すると、天から光が降り注ぎ、依り代となる少女を包み込む。


この光景に、思わず、声を漏らしそうになる教皇。


──神のみ使い様が、ご降臨なさる!・・・


2人を包む光が膨れ上がると、

その中に、姿を現すクルルとエルマ。


2人の天使は、少女達を見下ろした後、

お互いの依り代を決めると

少女達に近づいてゆく。


そして、背後に立つと、そのまま体を重ね合わせた。


最初に憑依したのは、クルル。


相性が良かったのか、何事もなく成功する。


続いてエルマ。


エルマが憑依するのは、チャコ。


チャコは、神殿での教育など、受けていない。


その為、心を空にすることなど、出来る筈が無かった。


意識が薄れゆく中、

自我を保っていたチャコは、天使エルマと出会ってしまう。


『貴方はだれ?

 もしかして、天使様?』


『私は、天使のエルマ。


 お前の体を借りて、この地上に顕現する者だ』


『体を借りる?』


『ああ、もうすぐお前の自我は消え、この私の物になる。


 だが、これも何かの縁かもしれぬ。


 最後に1つだけ、お前の願いを聞いてやろう』


本来なら、有り得ないことだが、

エルマも、初めて召喚されたので、

何も、不思議に思わず、何の気まぐれか、

チャコの願いを叶えることを、約束してしまったのだ。


『だったら・・・・・』


チャコの願い。


それは、今まで一緒に生活していた友達の幸せ。


『たくさんのパンと、暖かい寝床』


幸せを『たくさんのパンと暖かい寝床』で

例える事しかできなかったチャコだったが

エルマは、それを『幸福』と捉え、笑みを浮かべる。


『その願い、聞き受けた』


微笑み返すチャコ。


『天使様、お願いします』


その言葉を最後に、チャコの自我が消えた。




暫くして、光が収まると、『依り代』となった少女達は消え

そこには、背中から、真っ白な羽を生やした

まったく別の人物が立っていた。


「早く、御召し物を!」


教皇の言葉に、巫女達が動き、

クルルとエルマ衣服を与えると、一歩下がったところで跪くと

それに続いて、教皇をはじめとするアルマンド教国の者達が

2人の天使の前に並び、跪いた。


教皇が御礼の言葉を述べる。


「この度の御降臨、有難うございます。


 私が、アルマンド教国、教皇セグスロード ゴールと申します」



「うむ、私は、クルル。


 こちらは・・・・・」




「エルマだ。


 早速だが、悪魔とやらの話を聞こう」


「畏まりました。


 では、こちらへ」


教皇の案内に従い、クルルとエルマは、祭壇を下りて

本殿の中へと、移動する。




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