第160話 動き出す者たち

時は少し遡る。


エンデとの戦闘の最中、時間切れとなり

天界に戻ったバルキリーのアンジェリクだが、

想像以上に、消耗していた。


エンデとの戦闘で負った傷と、

無理をして、人間界に、降臨したことが仇になったらしく

歩くことも、ままならない。


だが、アンジェリクには、まだ、やるべきことがある。


「この事を早く、あの方に・・・・・」


体を引きずるようにして

神殿に辿り着いたアンジェリクに、番人である【ディアーブ】が気付く。


「アンジェリク!

 その傷は、どうしたの!?」


心配して、駆け寄ってきたディアーブの腕を掴み、

なんとか立ち上がったアンジェリクが告げる。


「私の事はどうでもいい。


 早く、マリスィ様にお伝えしないとならないことがあるのだ」


「わ、わかった。


 私が、同行するわ」


ディアーブは肩を貸し、アンジェリクと共に、神殿の中を進むと

ここで働いている天使達とすれ違う度に、

視線を集める。


それもその筈。


バルキリーであるアンジェリクが、瀕死ともいえる状態で

ディアーブの肩を借りて歩いているのだ。


そのような姿は、ここ数十年いや、数百年、見たこともない。


だからこそ、天使達の視線をあつめているのだが

アンジェリク達は、その視線も無視し、

神殿にある族長の部屋へと辿り着いた。


扉を叩き、ディアーブが告げる。


「ディアーブとアンジェリクです」


「入れ」


許可が下りると扉が勝手に開き、2人を中へと誘う。


白で統一された部屋。


その奥の聖水の滝の前に、マリスィはいた。


「ディアーブ、どうしたの・・・・・」


振り向き、要件を聞こうとしたマリスィの目に

瀕死のアンジェリクの姿が映る。


「アンジェリク、どうしたのですか?」


「マ、マリスィ様・・・実は・・・・」


アンジェリクの話は、ガルディの死から始まり、

降臨した先で悪魔エンデと戦いになった話を聞き、マリスィの顔が曇る。


「これは、由々しき事態ですね。


 まさか、悪魔が地上界に降臨しているとは・・・・・」


 人族を守るのが天使の役目。


間違った道に進ませず、正しき道に導く役目がある。


だが、そこに悪魔が介入すると、人々を苦しみに追いやり、

恨みやねたみ、そねみから、地上界に混乱を招き兼ねない。


それは同時に、教会の力が弱まり、

天使の力も弱くなってしまうことにつながり兼ねない。


「急ぎ、何か手を打たなければ・・・・」


マリスィは、直ぐに、6人の天使を呼びつけた。


そうして、呼ばれた天使達だが、

一様に、皆、若い。


これには、マリスィの考えがあった。


それは、経験を積ませること。


マリスィが、天使達に、言葉を掛ける。


「よく来た。


 これからお前の中から2人に 

 地上界に降りてもらおうと思う」


思わず顔を上げる6人の天使。


「マリスィ様、それは、真ですか?」


「ああ。


 先程、報告を受けたのだが

 人間界に、1体の悪魔が確認された。


 この度の任務は、その悪魔の盗伐だ」


その言葉に、6人の天使は、奮える。


「是非、その任務、この私に、お命じください!」


率先して声を上げたのは、バルキリー隊、新人の【クルル】。


「たしか・・・・・クルルだったな?」


「はい、この任務、是非、私に」


「わかった。


 では、あと1人だな・・・・・」


抜け駆けしたような感じのクルルが、任されたことで、

5人の天使達も、我先と、声を上げる。


「是非、この私に!」


「この私こそ、この任務に、相応しいかと!」


皆、この手柄を立てれる好機を逃さまいと必死だ。


その中から、マリスィが目を付けたのは

バルキリー隊の中でも、

術に重きを置いた戦闘をする【エルマ】だった。



この2人に、任せることが決まると

別室へと連行し、あるものを見せる。


マリスィの手にあるのは、『白銀の首飾り』。


「これを身に着けていれば、天界との交信はどこでも可能だ。


 それと、これには、私の力が付与してある」


マリスィが念じると、『白銀の首飾り』はプラチナの光を放った。


『おお!』と、2人から、思わず声が漏れる。


「これを、2人に授ける。


 この任務、見事に成し遂げて、帰還せよ」


「はっ!」





命を受けてから数日後、

地上界、アルマンド教国から

祈りという形で、

準備が整ったとの報告を受けたマリスィは

すぐに、2人を呼びつけた。




そして今、2人は、魔法陣の中心に立っている。



「マリスィ様、行って参ります」


「決して気を抜くでは無いぞ」


「心得ております」


「では行け!」


2人が、一礼をすると、魔法陣が光を放つ。


周囲には、見送りに来たバルキリー達の姿がある。


「この任務、しくじるではないぞ!」


「気を張りすぎるな、冷静に対処するのだ」


各々に、別れの言葉を口にしていると

2人の姿が消え、魔法陣の光が収まった。




クルルとエルマを見送った後

マリスィが、側近の1人、【ミニコン】に声を掛ける。



「この事態、精霊女王にも伝えておくのだ。


 奴らも他人事ではないだろう。


 だが、決して悪魔どもに気取られるなよ」


「はっ!」


この後、ミニコンは、急ぎ、精霊界へと向かった。




その精霊界だが、当然、地上で何か起こっていることをを察知していたが

報告や噂に上がらないことから、それほど気には留めていなかった。


だが、ミニコンからの報告より、地上界に悪魔が降臨したことを知るが

精霊女王ルンは、何かが引っ掛かる。


「それは、事実ですが?」


「ああ、間違いない。


 マリスィ様も、地上界に天使を送り込まれた」


「そうですか・・・・・」


ルンは、疑問に思うことがある。


──本当に、その者が悪魔なら、もっと酷い事態になっている筈なのに・・・・・



そう思うが、天使族からの報告を無下にするつもりはない。


「・・・・・わかりました。


 こちらでも、調べてみましょう」


「是非、そうして頂きたい。


 それと、この事は決して悪魔どもには・・・・・」


「わかっています」



ミニコンが、精霊界を去ると

ルンは、感慨深い顔で天を見上げる。


ルンには、心当たりがあった。


それは、過去の出来事。


魔王と天使の恋。


そこに産まれた子。



2人が最後に放った光が、魔王だけが使える禁忌の転生魔術

『リ・インカーネーション』だとしたら、

今地上で『悪魔』とされている子は、2人の子供。


「やはり、黙って見ている訳には、いきませんね」


ノワールと仲が良かったルンは、行動に移す。




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