第158話 貴族の分裂  合流

少し前のこと。


ウオッカ男爵達は、別の道からソマルの屋敷へと向かっていた。


そして、屋敷に近づき、

待機しているベルガーの兵士達に姿が見えたところで

馬車を止めると、兵士に斥候を命じる。


命じられた兵士は、隠れながらソマルの屋敷に近づくと

そのまま、ベルガー達の様子を窺う。



暫く、そのまま隠れていると、

屋敷の入り口辺りで騒ぎが起こり、兵士達が動き出す。


──何が起こったんだ!?・・・・・


斥候に出ていた兵士は、この状況を、報告する為

馬車へと戻ると、ウオッカ男爵に、報告をした。


すると、話を聞いたウオッカ男爵は、

馬車を飛び出し、兵士と共に、ソマルの屋敷へと向かう。


道中、ウオッカ男爵は、

ベルガーとノースが戦いを挑んだことは理解していた為

ソマル準男爵が、すぐに、降伏するものだと思っていたが

現場に到着すると、予想外の状況が、視界に飛び込んでくる。


どう見ても不利なのはベルガー達の方が、押されていたのだ。


「こんなことは、ありえない」


思わず呟いた言葉に、同行していた兵士が驚きながら

聞き返した。


「ウオッカ様、ありえないとは?」


「ああ、ソマルという男は、武力というものを持っていないのだ」


「えっ!?」


「当然だが、護衛や、治安を守るための兵士は、抱えているが

 それだけなのだ。


 なので、あの数の兵士を、相手にできる筈が無いのだよ」



ウオッカ男爵は、自分の吐いた言葉に、ふと、疑問を持つ。


──ならば、なぜ、どうして、このような事態に・・・・・


その疑問から、ある事を想像した。


──もしかして、あの屋敷にエンデ殿が・・・・・


その考えに至ったウオッカ男爵は、

一旦、馬車に戻る決意をする。


そして、兵士と共に馬車に戻ったウオッカ男爵は

同行している貴族に、現状を話す。


「ベルガー殿とノース殿が、ソマル殿に戦いを挑んだらしい」


「では、ソマル殿は、もう・・・・・」


同行していた貴族たちは、ソマルが取り込まれたと思ったが、

その言葉をスコットが否定する。


「いや、そうはならなかった。


 私の予想だが、あの屋敷にエンデ殿が・・・・・」


「な、なんと!!!

 それでは・・・・・」


「ああ、ベルガー殿とノース殿は負けるだろう」


その言葉を聞き、同行している貴族達は、

改めて尋ねた。


「私達は、これからどうするのだ?」


「その事ですが・・・」


ずっと隠れていては、状況が悪くなるだけだと判断したウオッカ男爵は

皆に告げる。


「ソマル殿の屋敷に向かおう」


もう、それしか残っていない。


ただ、闇雲に向かうわけにはいかない為

再び、斥候を放ち、その時を待っていると

暫くして、斥候として放っていた兵士が戻ってきた。



「ウオッカ様、また、新たな動きが・・・・・」


「何があった?」


「はい、それが・・・・・」



話を聞いただけでは、戦いが終わったのかはわからなかったが、

この時を逃してはならないと感じたウオッカ男爵は、御者に告げる。


「馬車を進めてくれ」


ウオッカ男爵の指示に従い、馬車を進め、屋敷に到着すると

目の前には、むごたらしい惨状が広がっていた。


この光景に、同行している貴族達の顔色も悪い。


だが、このまま馬車の中にいるわけにはいかない。


意を決して馬車から降り、歩を進めると

先程とは比にならない程の惨状が、視界に飛び込んでくる。


息がある者は、呻き声を上げ、地面を羽虫の様に這い、蠢いている。


また、屍と化した者たちの中には、原形を留めていない者もいた。


「・・・・・」


皆が、動きを止め、言葉を失っている中、ウオッカ男爵が告げる。


「先に私が行こう」


そう告げたウオッカ男爵が、敷地内に、足を一歩踏み出した瞬間、

突然、ダバンが現れ、正面に立つ。


「お前達、何の用だ?」


「い、何時の間に!」


突然の出来事に、慌てて、剣を抜こうとする

護衛についている兵士の行動を、ウオッカ男爵が制する。


「止めるんだ」


兵士の行動を制した後、ウオッカ男爵が、ダバンと向き合う。


「エンデ殿との約束を果たす為に参りましたスコット ダウンです。


 宜しければ、面会をお願いしたいのですが」


「わかった。


 ちょっと待ってくれ」


ダバンが踵を返し、エンデの元に向かおうとしたとき、

先程、ウオッカ男爵に、行動を制された兵士が悪態をつく。


「たかが、平民の分際で、調子に乗り追って・・・・・

 今回は、命拾いをしたが、次は、必ず、痛い目に合わせてやる」


「おい!」


慌ててウオッカ男爵がたしなめたが、

もう遅い。


兵士の言葉は、ダバンの耳に届いていたのだ。


足を止め、振り返る。


「なんだ、戦いたかったのか。


 だったら、来いよ。


 次とは言わず、今すぐ、かかって来いよ」


掌を上に向け、『クィックィッ』と指を動かして

挑発するダバンに、兵士が激高する。


「貴様!

 調子に乗り追って!!」


ウオッカ男爵の制止を振り切り、

剣を抜き、ダバンに襲い掛かった。


だが・・・・・


「なんだ、その程度か・・・・・」


嘲笑うかのように、兵士の攻撃を

易々やすやすと躱したダバンは

そのまま反転して、頭部を蹴り飛ばす。


この一瞬の出来事に、貴族達だけではなく

護衛に付いていた兵士たちも言葉を失っているが

ウオッカ男爵だけは違う意味で、顔色を変え

頭を抱えていた。


──どうして、こんなことを・・・・・


弁解の余地がないこの状況。


考えるよりも早く、体が動く。


ウオッカ男爵は、跪き、頭を下げた。


「申し訳ない。


 部下の教育が、行き届かなかったばかりに

 このような行動を、とらせてしまった。


 どうか、許してほしい」


ウオッカ男爵が止めようとしていた事は、ダバンも見ていたので

敵対する意思が無かった事は、わかっていた。


「気にするな。


 咎めるつもりはない。


 だが、同じことを繰り返せば・・・・・」


「ああ、わかっている。


 今後は、もっと言い聞かせる事を約束しよう」




ウオッカ男爵との話が終わると

ダバンは、再び屋敷に向かって歩き出した。


その姿を見て、ウオッカ男爵は、ホッと胸を撫でおろす。


──助かった・・・・・


そう思っていると、先程まで、声を失っていた1人の貴族が

話し掛けてくる。


「あの化け物のような強さは、いったい何者なんだ?」


「彼は、エンデ殿の部下だ。


 間違っても、逆らわないでくれ」


「わかった・・・・・」


声を絞り出すように答えた貴族の言葉が最後となり

そのあとは、誰一人として、言葉を発さず

ただ、ダバンが現れるのを待った。


それから暫くの間、

鉄錆のような臭いが鼻を衝く

屋敷の入口で待っていると

再びダバンが、姿を見せる。



「主が会うそうだ。


 ついて来てくれ」


ダバンに従い、一行が屋敷の中へと入った途端

目についたのは、変わり果てた姿のノースだった。



彼は、あの後、一度、意識を取り戻したのだが

まだ、記憶が混濁していたのか

屋敷の中へ戻ってくると同時に

再びエンデに襲いかかった為、

ダバンにより、胴体をへし折られていた。


ありえない方向に体が曲がり

既に、息をしていないノースの姿を見て

ウオッカ男爵が呟く。


「やはり、こうなったか・・・・・」


この現状が、さも当然かのように呟いたウオッカ男爵とは違い

他の貴族達は、このノースの姿に息をのんだ。




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