第157話 貴族の分裂 遭遇
屋敷の主と呼ばれた少年を前に、ノースの怒りが爆発した。
「ふざけているのか!
ここはソマルの屋敷ではないか!」
怒鳴るように、吐き出した言葉に対して
アリアンヌは、冷静に答える。
「ええ、確かにソマル様のお屋敷でした。
ですが、今は、このお方、エンデ様のお屋敷で御座います」
アリアンヌの言葉を信じられず、未だ、疑いの眼差しでエンデを見ている。
「貴様が、この屋敷の主だというのなら、元の主のソマル殿はどうした?」
その問いに、アリアンヌが答える。
「ソマル様もいらっしゃいますが」
「では、ソマル殿を呼んでいただこうか」
ノースの態度は気に入らないが、
エンデが『呼んできて』とアリアンヌに伝えると、
一礼した後、ソマルを呼びに向かった。
それから暫くエントランスで待っていると、
ソマルが、アリアンヌと一緒に姿を見せる。
「ノース殿にベルガー殿、ご無沙汰しております。
それで、私に何か御用ですか?」
「『御用ですか?』ではないだろう。
この屋敷は、貴殿の屋敷であろう。
それなのに、この小僧が・・・・・・」
そこまで言うと、ソマルが手を伸ばし、言葉を遮る。
「ノース殿・・・・・この屋敷は、あちらにおられるエンデ様のお屋敷ですぞ。
貴殿と言えど、主にむかって、小僧呼ばわりは止めていただきたい」
気が弱い筈のソマルに言い返され、
驚きと同時に、怒りを覚えるノースとベルガー。
2人がソマルを睨みつけると、ソマルは、たじろいでしまうが
そこに、今まで空気のような扱いをされていたエンデが割り込んだ。
「ねえねえ、おじさん達の目的は、この屋敷の主でしょ。
だったら、僕が相手になるよ」
ソマルから視線を外した2人が、エンデと向き合う。
その時だった。
ふと、例の人物の話が、脳裏を過ったベルガー。
──あの、通達の人物も、確か、子供だった筈・・・・・
そのことを、思い出している
ノースが行動に出る。
「小僧、調子に乗るなよ」
ノースは、腰に携えていた剣を抜き、エンデに向けた。
「この屋敷の主に、どうやってなったかは知らないが
貴族に対しての礼儀を教えてやる。」
その言葉に、エンデは怯むどころか、笑みを浮かべた。
「教えてよ、おじさん」
「貴様!
調子に乗りよって・・・・・」
ノースは、我慢の限界に達したのか、
自らが、剣を振るい、エンデに襲い掛かる。
振りかぶった剣を、勢いのまま、振り下ろすノース。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
全力で、振り下ろされた剣を、エンデは、あっさり躱す。
そして、すかさず蹴りを入れた。
無防備の状態で攻撃を受け、吹き飛ばされたノースは
入口の扉を破壊し、外で待機していた兵士達の前で止まる。
『ノース様!』
驚き、声を上げる兵士達。
そこに、屋敷の中から、姿を見せたエンデが告げる。
「遊んでくれるんでしょ。
もしかして、これで終わりじゃないよね」
エンデの登場に、警戒を強める兵士達。
その中から、ノクチャートが前に出て来て
エンデに、問いかける。
「おい、小僧。
これは、お前がやったのか‥‥」
「そうだけど?」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
ノクチャートの背後から
ノースの仇とばかりに、兵士がエンデに襲いかかる。
だが、その攻撃は、不発に終わった。
その理由は、エンデの後方から飛び出して来た者が、
兵士に蹴りを入れ、弾き飛ばしたからだ。
吹き飛ばされた兵士に、皆が視線を向けていると
蹴り飛ばした男が、エンデの横に立つ。
「おい、主と遊ぶ前に、俺と遊んでくれよ」
「あっ、ダバン」
エンデを庇う姿勢を見せ、
もう一歩、前に出て、兵士達との間に、立つダバン。
「主は、下がっていてください。
ここは俺が・・・・・・」
ダバンは、何かを言いかけたが、
最後まで言うことが出来なかった。
その理由は、横から、風のように2つの物体が通り抜け
隊列の崩れた兵士達に、襲い掛かったからだった。
「あ・・・・・」
ダバンに続き、姿を見せたのはメルクとシェイク。
思うが儘に暴れ、次々に兵士達を、次々に屠る。
ノースとベルガーの兵士達は
メルクとシェイクの敵ではなかった。
目の前で繰り広げられる蹂躙劇。
出遅れてしまったダバンが、エンデの横で頭を掻いていると
屋敷に残っていた兵士が、背後から現れ
エンデに襲いかかる。
だが・・・・・
「おい、気が付いてないとでも思っているのか!」
その言葉と同時に放った蹴りが、兵士の首を飛ばすと
続け様に、他の兵士達の首も飛ばした。
体だけがその場に残り、血飛沫を上げながら、
地面に、兵士達の体だけが倒れる。
その光景に、愕然とし、声を失っているノクチャートを前に
ダバンが口を開く。
「もう、終わりかよ」
メルクとシェイクに獲物を奪われ
物足りなさそうなダバン。
そんなダバンに、エンデが提案する。
「表にも、沢山いるみたいだから
行って来たら?」
「それも、そうだな」
嬉々として、駆け出すダバンに
エンデは、手を振り見送った。
その光景を、破壊された入口から見ていたベルガーは、確信する。
「やはり、貴様があの・・・・・」
ようやくエンデ達が、この街で暴れている一行だと気が付くが
もう遅い。
エンデ達に、喧嘩を売ったからには、後戻りなど出来る筈が無い。
屋敷の表から、兵士たちの悲鳴だけが聞こえてくるこの状況に、
ベルガーが呟く。
「わ、私は・・・・・何と、戦っているのだ・・・」
護衛も屠られ、1人立ち尽くすベルガー。
そこに、エンデが歩み寄る。
「それで、おじさんたち何をしに来たの?」
話を聞く間もなく戦闘が始まった為、
改めて、ここに来た理由を聞く。
「いや、その・・・・・」
今更、脅してでも、ソマルを仲間にしようとしたなどと、
口が裂けても、言える筈が無い。
その為、言葉に詰まる。
そんなベルガーに歩み寄り、救いの手を伸ばすソマル。
「降伏してください」
「え・・・・」
「貴方達が生き残り、この街を守るには、降伏しかありません。
それとも、ここで死にますか?」
大きく首を横に振るベルガー。
「こ、降伏する。
いや、降伏いたします。
貴方様に従いますので、ど、どうか命だけは・・・・・」
エンデの前で跪き、頭を下げるベルガー。
その横に、ソマルが並んだ。
何処までもお人好しのソマル。
「エンデ様、どうか、お聞き入れ頂けませんか?」
「本当に、それでいいの?
僕たちがいなくなった時、
また、同じことを繰り返すんじゃない?」
エンデの問いに、ベルガーは、千切れるかと思う程、首を横に振る。
その為、『どうしようか?』と悩んでいると
こちらに近づいて来る、エブリンとシャーロットの姿が目に入った。
──任せた方がいいかも・・・・・
そう思ったエンデは、すぐに、エブリンに声を掛けた。
「お姉ちゃん!」
腕を組み、スタスタと歩いて来たエブリンが、エンデの前に立つ。
ある程度の、事情は分かっているので、
エブリンは、自身の考えを口にする。
「信用することは出来ないけど、今すぐ、どうこうする必要なはいわ。
全ては、今後の話し合い次第ね」
エブリンの言葉に、一応の命拾いをしたベルガーは、
『ホッ』と胸を撫で下ろした。
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