第155話 貴族の分裂 1 崩壊
ウオッカ男爵の屋敷に戻ったダックスは
貴族たちが集まっている部屋に顔を出す。
「旦那様、只今戻りました」
「おお、戻ったか!
それで、ソマル殿は?」
スコットの問いに、ダックスは、表情を曇らせ、言葉に詰まる。
「それがその・・・・・」
歯切れの悪いダックスの様子と、
背後に誰の姿も無い事から、事情を察した。
「来なかったのか?」
「・・・・・申し訳ございません!」
その場で土下座をし、許しを請うダックスだが
スコットに、ダックスを責めるつもりはない。
だが、事情は聴かねばならなかった。
「顔を上げてくれ・・・・・それから、説明をしてくれるか?」
「はい」
「それで、 ソマル殿には、会えたのか?」
「いえ、お会いすることは出来ませんでした」
「どういうことだ?」
ダックスは、ソマルの屋敷に到着してからの事を、包み隠さず話した。
話を聞き終えたウオッカ男爵は、確認のために、問い直す。
「では、本人には会っていないのだな」
「はい、全て従者の対応でした」
「わかった。
なら、次は私が直接出向こう。
お前は、下がってよいぞ」
ダックスが下がると、
ソマルを抜いた、その場に集まった貴族たちだけで話を始める。
「皆、忙しい所を集まってくれたことに感謝する。
実は・・・・・」
スコットは、デルガーハウドが抜け駆けし、
単独で、エンデ達に襲撃をかけたことを話したが
誰も驚かない。
それもそのはず。
このことは、貴族達、既に、知っていたからだ。
それでも、彼らが、ここに集まったのは、
今後のことについて、相談しなければならないと考えたからだった。
「ウオッカ殿、それでデルガー殿は?」
ウオッカ男爵は、首を横に振る。
「・・・・・そうか」
重い空気が張り詰める。
「前回も議題として挙げたが、皆の気持ちを聞かせてほしい」
ウオッカ男爵の意見は、全面降伏し、街を建て直すこと。
こちらが、無理に仕掛けなければ、
相手側も話を聞く耳を持っていると、説き伏せると同時に、
今後の事を考えれば、それが妥当な考え方だと皆に、説明をした。
だが、貴族という生き物は、プライドの塊。
この話を聞いても、未だ、この提案を良しとしない者達がいた。
それは、生前のドミニクに、
毎度、腰巾着のように、付き従っていた者達。
【ノース ホールド】準男爵と【ベルガー アル】準男爵だ。
準男爵は、元々貴族ではない。
何らかの功績を上げ、褒美として、貴族の地位を特別に賜った者達なのだ。
ただ、それも一代限りとなっており、この先も貴族というわけではない。
だが、新たに上位の爵位を賜れば、この先も貴族として生活が出来る。
その権利欲しさに、ドミニクに従っていたのだが、
そのドミニクは、もういない。
ならば、今の状況を利用して、這い上がるしかないと、2人は考えた。
ノース ホールドは、元は商人。
他国との取引で、財を成した男。
その財の多くを、教会に寄付したことで、準男爵の地位を賜った。
表向きは、莫大な財の殆どを教会に寄付したように装っているが、
実際は、表面上の金だけで、裏には、大量の財を隠し持っている。
ベルガー アルも同じく、財産を隠し持っているが
彼は商人ではない。
だが、それなりの顔の広さで、アルマンド教国だけでなく
他国にも広大な土地を持っている。
所謂、土地成金で、
その土地に、無償で教会を建てたことにより、貴族の地位を賜ったのだ。
そんな2人の利害は、一致している。
この騒ぎに乗じて、爵位を得る事。
そう思えるほど、貴族と庶民との差は、大きいのだ。
是が非でも、爵位を得る為、
ウオッカ男爵に、賛成するつもりなど、毛頭ない。
「私は、異議を唱えさせていただく。
ウオッカ男爵は、あのような者達の言葉を本気で信じておられるのか!?」
そう問いかけたのは、ノース。
ウオッカ男爵は、これに返答する。
「信じる、信じないではない。
もう、それしか道は残っていないのだ」
切実に訴えるウオッカ男爵に対し、今度はベルガーが異を唱えた。
「ウオッカ殿は、貴族ではないのか!
貴族とは、この地を守り、民の生活を脅かす者たちを排除する義務がある。
なのに、それを放棄し、戦いもせず、襲撃者どもに従うと申すのか!」
確かに、言っていることは、至極真っ当に思える。
だが、本心は別のところにあるのだが
2人は、それを隠し、貴族達の前で、熱弁をふるう。
「貴殿らが戦わないと仰るのなら、ここは、私どもに任せて頂こう。
但し、追い払った暁には、男爵としての地位を約束して頂く」
「ちょっと、待ってくれ!」
焦るウオッカ男爵。
もし、ノース ホールドとベルガー アルがエンデたちに戦いを挑めば
完全に、約束を違えたことになり兼ねない。
その時は、この街が崩壊してしまう。
だからこそ、必死なのだが、
2人の準男爵は、そのことを理解していない。
「貴殿らの考えは、よくわかったが
もう少し、冷静に考えてはくれまいか?」
説得を試みるウオッカ男爵だが、
ノース ホールドとベルガー アルは、
その言葉を無視して、結論を出す。
「今まで、どれだけの時間を費やしたと、お思いか!
ともかく、今回は、我々で、襲撃者どもを排除させてもらう」
その言葉を最後に、ノース ホールドとベルガー アルが、席を立つ。
「もう少し、話を!」
ウオッカ男爵は、2人を止めようとするが
その行動が裏目に出る。
ウオッカ男爵に声をかけられた2人は、
扉の前で立ち止まると、怪しい目つきでウオッカ男爵に問う。
「そこまで必要に食い下がるということは、
ウオッカ殿は、まさか、かの襲撃者たちと、何か密約でもあるのでは?」
その言葉に反応したのは、他でもない集まっていた貴族達。
ウオッカ男爵に、視線が集中する。
「天地神明にかけて、そのようなことは無い。
戯言で、話を逸らすような行為は、遠慮して頂きたい」
「そうですか、それは失礼した。
ならば、貴族としての任を果たそうとする私どもを、
貴殿が、止める必要はありませんな」
『では、失礼』と部屋を出て行くノース ホールドとベルガー アル。
2人が出て行き、扉が閉まると、残っている貴族達から、
ウオッカ男爵は、疑いのまなざしを向けられた。
──どうすればよいのだ・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます