第154話 貴族の分裂 序章
ガリウスとマリウルが、脱出方法を考えていた頃
ドミニクの屋敷は、炎に包まれており
既に、一部は、灰と化していた。
それでも、屋敷から飛び出してくる者の姿は無い。
そのことに、デルガーは、拳を強く握りしめ
燃え盛る屋敷を、睨みつける。
「この私の作戦が、ばれていたとでもいうのか・・・・・・」
ここまで来て、誰も出てこないのだから
既に、屋敷から抜け出していたことは、誰にでもわかること。
それは、兵士達も感じていたことで、
この現状に、逃げてくる者たちを待ち構えていた彼らの間にも、
今まであった緊張感が解け、緩んだ空気が、流れ始めた。
そんな中、デルガーも、
ただ燃え尽きてゆく屋敷を見ているだけの状態に疲れ
同行させていた馬車へと、歩を進める。
「私は、少し休む。
何かあった時は、一応、報告をするように」
「はっ!」
馬車に入ると、椅子にドカッと腰を下ろしたデルガーは
『ふぅ~』と大きく息を吐いた後、独り言のように呟く。
「私は、何処で間違えたのか・・・・・・
何故、奴らの姿が無い・・・・・」
『もしかして、内通者がいるのか?』なども考えたが
兵士達に伝えたのは、出発直前。
それ以降は、兵士たちが単独行動をする暇もなかった為
その線は、薄い。
だが、疑念は払えない。
──どうなっているのだ・・・・・・
奴らは、何処に消えた・・・・・
本当に、誰かが・・・・・
そんな事を考えながらも、デルガーが、椅子の上でで横になると、
精神的な疲れからか、そのまま眠りについた。
どれ位寝ていたのだろう・・・・・
暫くして、誰かに頬を叩かれる。
「誰だ、いったい、何の用だ・・・」
まだ、はっきりとしていない意識の中、
デルガーは、そう伝えて、体を
思った以上に動くことが出来ない。
両手、両足が重いのだ。
それに、動く度に『ジャラジャラ』と音がした。
そんな状態の中。再び、頬を叩かれる感触と同時に
誰かの声が、聞こえてくる。
「おい、おっさん、起きろよ!」
荒い言葉遣いと同時に、
先程より、頬を、強く叩かれた事により、デルガーが目を覚ます。
視界に飛び込んで来たのは、見慣れない光景。
薄暗い部屋と石の壁。
それと同時に、置かれている立場を理解する。
両手両足につながれた鎖。
体を動かす度に、『ジャラジャラ』といった音が部屋に響く。
「ここはどこだ!
貴様、こんな事をして、ただで済むと思っているのか!」
強気の言葉を吐き捨て、一番近くにいたダバンを睨みつけた。
そんなデルガーの様子を見ながら
ダバンは、笑みを浮かべながら告げる。
「おい、おい、元気いいね。
でも、おっさん。
自分の置かれている立場、本当に、理解しているのか?」
「何を・・・・・」
もう一度、デルガーは、辺りを見渡してみる。
しかし、見えるのは先程と同じ、石の壁と鉄の格子。
ただ、捕らえられているということは、理解できている。
「この私を拉致して、ただで済むと思うなよ!
いいか、もうすぐ、我が兵が、ここを突き止め
貴様らを、屠ってくれるわ!」
あくまでも、強気な態度を貫く、デルガーだが
この後のダバンの一言で、表情が変わる。
「兵士?
ああ、屋敷を取り囲んでいた者たちか・・・・・
そいつらなら、もう、この世にはいないぜ」
「き、貴様、何を言っている?」
「何を言っているも何も。
お前さんを攫ったついでに、
そのまま攻撃を掛けたら、あっさりと壊滅したぜ」
「嘘だ・・・我が精鋭部隊が全滅だと・・・・・」
驚きのあまり、愕然とするデルガーだが、ダバンが告げたことは事実。
デルガーが、馬車の中で休んでいる間に、
ダバンは見張りを気絶させ、デルガーを攫った。
その後、エンデたちが背後から兵士達に、奇襲を掛けて壊滅させたのだ。
だが、言いつけ通り、負傷者は出しても、死者は出していない。
戦意を喪失させて、降伏を促したのだ。
これは、前もってエブリンから約束させられていた事。
エンデはその約束をきちんと守った。
だが、この事実をデルガーに伝えるつもりはない。
「おい、おっさん、ここからが本番だ。
色々聞きたいことがあるから
大人しく、口を割ってもらおうか」
意気消沈しているデルガーへの尋問が始まる・・・・・・
一方・・・・・
デルガーが単独で行動を起こし、ドミニクの屋敷を崩壊させた事は、
すぐに、他の貴族たちの耳に届いた。
特に、説得の為、別行動をしていたウオッカ男爵は、大いに焦った。
「なぜ、こんなことを・・・・・」
『この街が終わる・・・・・』
そう思ったウオッカ男爵は、
慌てて貴族達に招集をかけると
誰もが、気に掛けていたようで、すぐに集まることが出来たのだが
1人、足りない。
「【ソマル】殿はどうした?」
【ソマル ウンガ】男爵。
屋敷は、それなりの大きさだが、爵位だけの貴族であり
発言権も無いといっても、過言ではない人物なのだが
この場においては、違う。
皆が、心配するのは、2人目のデルガーになる可能性だ。
今、この時を好機と勘違いをして、
エンデ達に、攻撃を仕掛けたりしないかが、心配なのだ。
焦るウオッカ男爵。
「誰か、屋敷に使いを・・・・・」
ウオッカ男爵の命令に従い、使用人がソマル ウンガの屋敷へと向かった。
彼は、奉公人の【ダックス】。
馬車を使い、ソマルの屋敷に到着すると
入り口に馬車を止めたまま、屋敷の入口へと走る。
そして、一呼吸置いた後、扉を叩いた。
『ドンッドンッ』
音を聞きつけ、中から出てきたのは、落ち着いた雰囲気のメイド。
「どちら様でしょう?」
「へい、私は、スコット様の使用人のダックスと申します。
本日、我が主の屋敷に集まるように、封書が届いていたと思うのですが?」
「・・・・・」
「あ、あの、それで、
お、お迎えに伺いました」
「・・・・・少し、お待ちを」
雰囲気に圧され、しどろもどろになってしまったダックスだったが
なんとか、要件を伝えることが出来て、安堵していると
再び扉が開く。
そして、メイドの口から、思いもよらない返事が
伝えられる。
「当主は、行かないと仰っております」
「えっ!?」
予想外の返答に、固まってしまうダックス。
「聞こえませんでしたか?
当主は、行かないと仰っているのです」
「そ、そんな・・・・・
わ、私は、ウオッカ様に迎えに行くように命令されておりますので
も、もう一度・・・・・・」
「しつこいですね。
当主は行きません。
その様に、お伝えください!」
メイドは、そう言って扉を『バタン』と閉めた。
呆然とするダックス。
だが、この事をウオッカ男爵に知らせなければと思い、
急いで、その場から、立ち去る。
その様子を、カーテンの隙間から見ていたのはエンデ。
「本当に帰らせて良かったの?」
「ええ、構わないわ」
そう言って、ソファーに腰を掛け、
メイドの入れた紅茶に、エブリンが口をつける。
正面のソファーには、シャーロットが座っている。
二人は、貴族の嗜みとばかりに、優雅に紅茶を飲んでいた。
「それで、この後どうするの?」
エンデの問いに、二人は揃って、テーブルの上の受け皿に紅茶のカップを置く。
「彼らの動き方次第ね。
あのウオッカとかいう貴族が約束を守れば、何もいう事は無いわ。
今回のドミニクの屋敷を焼いたデルガーって人は、単独行動だったみたいだしね」
エブリンに視線を向けられ、
何度も
この屋敷の当主、ソマル ウンガ男爵である。
彼は、ただ・・・・そう、運が悪かった。
ドミニクの屋敷の前にいたデルガーを攫った後、
エンデ達は、迷った。
この男の口を割らす為、尋問を考えていたのだが
流石に、クレープ達に、そのような場面を見せるわけにはいかない。
そう考えていた時、ある名案が浮かぶ。
『貴族の屋敷を借りよう』
当然、ウオッカ男爵のところも、候補に挙がったが
万が一を考えると、エブリンの計画が、破綻してしまう恐れがある。
ならばと、適当ではあるが、貴族の屋敷を襲撃することにしたのだ。
ソマルの屋敷は、大きかった。
「この屋敷なら、拷問室もありそうね」
そう告げたエブリンの言葉に従い、エンデが正面から、襲撃したのだが
ソマルは、抵抗もせず、すぐに降伏した。
そして、『屋敷も財産もお渡しします。
だから、我々の命だけは・・・・・・』と願った。
ソマルは、自身の命だけでなく、使用人たちの命も助けてほしいと願ったのだ。
使用人たちも、ソマルを守るような素振りを見せている。
──従者に、信頼されているのね・・・・・・
その様子を見たエブリンは、
この屋敷での滞在を許可して頂ければ、何もしないと約束をすると
ソマルは、その提案を受け入れたのだ。
そして、現状に至る。
当然だが、デルガーが監禁されているのも、この屋敷の地下にある拷問室だが
その事を知っているのは、この屋敷にいる者だけ。
また、エブリンが、ウオッカ男爵からの従者を追い返した理由は
どうゆう事情があったにしろ、約束を破ったからだ。
──さぁ、どうするのかしら・・・・・・・
思いを馳せらせながら、再び、紅茶を口にする。
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