第151話貴族の思惑 崩壊3

重力の魔法が、搔き消された後、

アンデットオオトカゲと共にガリウスが立ち上がる。


「おっさん、散々、好き勝手してくれたな。


 それによ、俺の相棒を傷つけたんだ。


 しっかりと、お礼をさせてもらうぜ」


その言葉を聞き、一番喜んだのは、アンデットオオトカゲ。


飛び上がるように、喜びを表現すると

背中に乗っていたドミニクが、体勢を崩した。


その様子に、思わず笑う。


「おい、おい、この程度のことで、尻もちをつくなんて

 運動不足じゃないか。


 それとも、その腹が、原因か?」


体型までもを馬鹿にされ、ワナワナと震えだしたドミニクが立ち上がる。


「貴様、調子に乗るなよ・・・・・」


そう言い終えたドミニクが、呪文を唱え始めた。


『業火から、生まれし精霊よ。


 我が命に従い・・・・・』


ここまで呪文を唱えた瞬間、

アンデットオオトカゲが、『はやく、やっちゃっえ!』と言わんばかりに

地団駄を踏むと、先程を同じように、ドミニクが尻もちをつく。


「おいおい、だから、言ったじゃないか。


 お前は、運動不足なんだよ」


そう言いながら、距離を詰めてゆくガリウスに

ドミニクは、後退しかない。


徐々に、追い詰められていったドミニクは、

とうとう、逃げ場のないところまで、来てしまう。


「もう、逃げ場は、ないぜ」


そう告げられたドミニクは、

てのひらを返すように

態度を急変させた。


「ま、待ってくれ。


 この度のことは、謝る。


 この場で、謝罪しよう」


「ほう・・・」


「それだけではない。


 私は、この街の貴族に顔が利く。


 いや、奴らは、私の手駒の様なものだ。


 だから、何でも、言うことを聞くし、自由にできる。


 金も名誉も、女もだ!」


話を聞くにつれ、ガリウスから表情が失われてゆく。


だが、そんなことも分かっていないのか

ドミニクは、話を続ける。


「この街にあるもの全てが、私の物なのだ。


 建物から、女、子供、全てが私の物だ!」


気が狂ったかのように言い放つドミニクだが

実際は、違う。


今も、この街を支配しているのは

教会なのだ。


そんなことも忘れてしまったのかと思える発言した

ドミニクに、ガリウスが呟く。


「金に、女・・・か・・・・・」


その言葉を聞き逃さなかったドミニクは、

笑みを浮かべて、ガリウスに告げる。


「そうだ、この街の女、それに金だって自由にできるんだぞ!」


「そうか・・・・・貴様は、心から腐っているんだな・・・」


「えっ!?」


今更ながら、勘違いに気付いたドミニクだが、

もう遅い。


ガリウスは、持っていた長槍で、ドミニクの喉を貫いた。


「もう、話さなくていい。


 耳が腐るだけだ」


ガリウスは、その状態のまま、ドミニク放り投げると

待ってましたと言わんばかりに、アンデットオオトカゲが口を開き

そのまま飲み込んだ。


『グギャ!』


喜びの声を上げたオオトカゲの背を撫でるガリウス。


「これで、満足したか?」


『ギャ!』


「そうか、良かったな」


そう告げた後、ガリウスは、アンデットオオトカゲから飛び降りた。



そのすべてを見届けていたスコット男爵。


「ドミニク様・・・・・」



計画の中心だったドミニクを失い、右往左往するスコット男爵に

兵士と魔法士を倒したアンデットオオカミの2頭が迫る。


『グルルル・・・・・』


「ヒッ!

 ひぃぃぃぃぃぃ!!!」


その場から走り去ろうとしたが、

既に、逃げ道をガリウスに塞がれていた。


「おい、何処に行こうっていうんだ?」


「そ、そこをどけぇぇぇぇ!」


ウオッカ男爵は、剣を抜き、ガリウスに襲い掛かる。


しかし、その剣を簡単に薙ぎ払ったガリウスは

ウオッカ男爵の足を引っ掛けて、地面に転がすと

そこに、舌が伸びウオッカを巻き込んだ。


「えっ!」


今にも、飲み込まれそうになっているウオッカ男爵は

ガクガクと震えている。


その光景を見ている兵士達だが、手を出してこようとはしない。


ただ、呆然としている。



そんな中、恐怖に震えているウオッカ男爵が、口を開く。


「た、頼む。


 命だけは・・・お、お願いだ・・・・・」


懇願するウオッカ男爵に、突然話しかける者が現れる。


「じゃぁ、みんなを集めてよ」


「「「えっ!」」」


突然、聞こえてきた言葉に

空に顔を向けた一同が目にしたのは、エンデの姿。


ゆっくりと降りてきたエンデが

ウオッカ男爵に告げる。


「他にも、この件に関与した貴族とか、いるんでしょ。


 だったら、呼んでよ。


 そしたら、考えてもいいよ」


「ほ、本当か!」


ウオッカ男爵の顔に、血の気が戻る。


「嘘だと思うのならば、信じなくてもいいよ。


 でも、そうなると・・・・・」


「わ、わかった。


 呼んで来よう。


 それで、私は、解放されるのか?」


 「そんなわけないよ。


 色々聞きたいことがあるから、この屋敷に残ってもらうよ」


逆らえばどうなるかわからない。


その為、生き残る道を離さないように、必死に食らいつく。


「わかった。


 従おう。


 何でも、言ってくれ」


スコットのそんな姿に、思わず笑いが込み上げてくるエンデだったが

必死に我慢して、言葉を返す。




「そんなに焦らないでよ。


 それより、僕たちがこの屋敷をもらってもいい?」




エンデの突然の提案に、『ハァ~』とため息を吐くエブリン。




「エンデ、あなた、この屋敷に住むつもりなの?」




「うん、あの子たちの家にも、これ以上いたら迷惑だと思うし、

 あっちの貴族の屋敷は、無くなったから」


「「え・・・・」」


エブリンたちに混じり、ウオッカ男爵も驚いている。


「あの・・・・あっちの屋敷とは、もしかして・・・・」


「ああ、アイゼンの屋敷の事だよ」


「アイゼン バラゴは死んだのか・・・・・」


「う~ん・・・・・

 まぁ、死んだと言えば、死んだかな」


「それは、どういう・・・・」


疑問に思うスコットに、エンデは笑顔を見せる。


「本人に聞けば」


そう言うと、エンデは左手を前に差し出し、アンデットを召喚する。


召喚されたアンデットの顔は、スコットには見覚えがあった。


「アイゼン殿か・・・・・」


『ウゴ・・・・』


フラフラと横揺れしながら、姿を現したアイゼンの後ろから

1人2人と、アンデットと化した者達が姿を見せる。


まず最初に、アイゼンの後ろから現れたアンデットは、執事のタスク。


その後に続いて現れたのは、あの屋敷で働いていた者達と

兵士達だった。



アンデットのメイドにアンデットの料理人。


何の必要があるのか、エンデは、兵士以外も魂を奪っていたのだ。


その光景を見たエブリンが、エンデに近寄る。


「あんた、悪趣味すぎるわよ!

 こんな人までアンデットにして、どうするの?」


「えっ!

 屋敷で働いてもらうんだよ。


 人数が多い方が、みんな楽でしょ」



──確かに、そうかもしれないけど

  アンデットに、料理なんて出来る訳ないでしょ・・・・・・



そう思いながら、ちょっとずれているエンデの発想に、

『やっぱり、1人にするんじゃなかった』と後悔するエブリン。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


「何でもないわよ!」


『それより、行くわよ』と言い残し、さっさと屋敷に入っていくエブリン。


その後を追うように、シャーロットたちが続く。



最後に、屋敷に入ってきたウオッカ男爵は

生き残っている使用人達に命令する。


「生き残っている者達すべてを、中庭に集めよ」

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