第152話 貴族の思惑 暴走

ドミニクの屋敷を手中に収めたエンデ達は

この屋敷に残っていた使用人を含め

アンデットとなっているアイゼン達にも、働くことを命じる。


そのおかげで、屋敷の片付けも早く終わり

エンデ達は、早めに落ち着くことができたが

ウオッカ男爵は、違っていた。


生き残っていた兵士を集めると

まずは、屋敷の修復を手伝わせ

それが終わると、貴族達の屋敷へと向かわせた。


それは、エンデの指示によるもの。


当初、ウオッカ男爵は、集めた者達も

殺されるのでないかと、不安を覚えていた。


だが、エンデの横にいたエブリンが

ウオッカ男爵の不安に気付く。


「あんた、もしかして、良くないことを考えているの?


 先に、言っておくけど、無闇矢鱈むやみやたら

 殺したりしないわよ。


 今後の事を話し合わないといけないでしょ」


エブリンの言葉に、『確かにその通りですが・・・・・』と言葉を濁す。


その理由は、自身の利益を優先する貴族達が

『はい、そうですか』と納得するとは思えないからだ。


──彼らは、それも想定の内なのだろう・・・・・


ウオッカ男爵が、エンデ達の提案に乗れば、

勝てる見込みなど無い戦いが繰り返され、

街は崩壊するだろう。


それがわかっていても、

ウオッカ男爵には、否定するという選択肢はない。


ならば、なにをするか?


既に、自身の利益の事だけを考えていられる場合でない。


街が崩壊し、貴族の地位を失えば、

どのみちすべてを失う事になるのだ。


ならば、彼らを説得するしかない。


決意を新たにしたウオッカ男爵は、

ダメもとで、エブリンにお願いをする。


「申し訳ないが、彼らを説得する時間を、与えてもらえないだろうか?」


その言葉を聞き

いぶかしげに、ウオッカ男爵を、見つめているエブリンが

問いかける。


「・・・・・変なことを、考えていないでしょうね」


エブリンの言葉に、大きく首を、横に振った後

ウオッカ男爵が、口を開く。



「決して、そのようなことはございません。


 ただ、今後の事を考えた時、

 出来るだけ彼らには、従ってほしいと思っているのだ。


 ・・・今の状態のまま、会議に入れば

 間違いなく、同じことを繰り返す・・・・


 そうなれば、この街は、間違いなく終わってしまう。


 わ、私は、それだけは、避けたいのだ。


 その為にも、私に、時間を与えて頂ければ、

 必ず、貴方達を説得致します。


 ですから、どうか・・・・・」



エブリンも貴族だけに、ウオッカ男爵の言い分も、

理解できた。


確かに、これ以上の争いは、住人にも被害が及ぶ可能性が高い。


エブリンは、悩んだ末に、シャーロットに意見を求めて顔を見る。


彼女は、既に、ウオッカ男爵の提案を飲んでも良いと

結論を出していた。



「いいんじゃない。


 抵抗されても、相手に勝ち目など無いのだから、問題ないわ」


シャーロットの言葉に、安堵するウオッカ男爵。


だが、本番はこれから。


ウオッカ男爵は、貴族の説得に向かう事となる。


「貴族の説得は、貴方に任せることになるけど

 そんなに多くの時間は、与えられないわよ」


「わかっている。


 早急に動く」


そう告げた後、ウオッカ男爵は屋敷を後にして

貴族達のもとへと向かった。



それから数時間後・・・・・


~とある貴族の屋敷にて~



「悪い事は言わん。


 従うしかないのだ」


ここまでの話で、ドミニクとアイゼンが屠られたことは伝えている。


それだけに、この場の空気は重い。


だが、それも仕方ないこと。


集まっている貴族の当主達も、元は、ドミニクに従い

利益を得ようとしていた者達。


彼らの頭の中にはまだ、現実を受け入れられず

利益を狙っている者達が、多くいたのだ。


そのせいもあって、ウオッカ男爵が、必死に説き伏せようとしても

まだ、何とかなると、甘い希望を捨てきれずにいた。


──確かに、ウオッカ男爵の言い分は理解できる・・・・・だが・・・・・・

  それでは、全てを、失ってしまうではないか!・・・・・



貴族という立場とプライド

それと、欲望が邪魔をする。


「ウオッカ男爵よ、貴殿の言いたいことは、理解できた。


 だがな、何処の馬の骨かわからない輩に、

 頭を下げることなど、出来ぬ。


 ましてや、『悪魔』とも称されている者に従うなど、貴族として、

 いや、神を信じる者として、ありえない。


 貴殿の本心に、問いたい。


 ウオッカ殿は、あのような悪魔に従って、

 この街に、未来があると、お思いなのか?」



静かな口調で、スコットを問い詰めたのは

同じ男爵の【デルガー ハウド 】。


彼は、利益という欲望と

爵位を上げられるチャンスを捨てきれず、

ウオッカ男爵の提案に異議を唱えた。


だが、ウオッカ男爵だって譲ることは

出来ない。


「デルガーよ、聞いてくれ。


 彼らと戦っても、得るものなど何もないのだ。


 ただ、死者が増えるだけなのだぞ!」




それを聞いても、デルガーは、頑なに意見を曲げなかった。



「私は、あの悪魔どもと慣れあうつもりはない。


 それに、ドミニク殿やアイゼン殿が殺されたところで

 この街には、まだ、我々が残っている。


 これからは、我らが中心に立つて

 悪魔を討伐しようではないか!」


話が続けば続くほど、デルガーは、熱くなっていた。


そのせいもあって、このような発言をしたのだが

この言葉は、誰一人として、好とはしていない。


「デルガー殿、落ち着くんだ」


仲間に窘められ、すこしだけだが、落ち着きを取り戻す。


だが、意見を変えるつもりはない為

今度は、落ち着いた口調で、ウオッカ男爵に問いかけた。


「貴殿は、本気であの小僧に従うつもりか?」


「・・・・・ああ、勿論、本気だ。


 私は、かの者達の戦いをこの目で見た。


 大勢の兵士や魔法士を囲っていたドミニク殿さえ、

 歯が立たなかった・・・・・・。


 その様な脅威と、どうやって戦えというのか?」


「そ、それは・・・・・」


『1人になっても戦う』と仄めかしていたデルガーだが、

具体的な案など持ち合わせていない。


問い詰められたデルガーは下を向き、

口を閉じてしまったまま、誰とも目を合わせようとはしない。


待つことを諦めたウオッカ男爵が、再び口を開く。


「よく聞いてくれ。


 彼らの中には、神のみ力を使う者がいる」


「なんだと!?」


貴族達の動きが止まり、ウオッカ男爵に視線が集中する。


「ウオッカ殿、それは間違いないのだな?」


首を縦に振る。


「あの戦いで、ドミニク殿は、彼らを重力で縛り付けることに成功し、

 こちらの作戦通りに事は進んでいた。


 だが、彼女が力を使い、全てを、なかったことにしたのだ」


「『ディスペル』か・・・・・」


「言葉は、聞き取れなかったが、それで、間違いないでしょう」


光魔法の1つ『ディスペル』は、悪魔が使用する事の出来ない魔法。


この事実に、言葉を失う。


──私達は、何と戦おうとしているのだ・・・・・


より重苦しい空気の中、

突然、デルガーが声を上げる。


「だ、だから、何だというのだ!


 単に、光の使い手が居ただけに過ぎぬ。


 恐れる事など、何もない!」


頑なに、戦闘を望むデルガーに、とある貴族が告げる。


「なら、お主1人で、戦ってみればよかろう」


そう申し出たのは、デルガーのハウド家と友好的な関係を築いていた

ハウゼン家の当主【イングリッド ハウゼン】男爵だった。


「デルガー殿、現状を鑑みては如何かな?


 どう足掻いたところで、我らに勝利など無い。


 それに、戦いを続ければ、苦しむのは民だ。


 私は、それを望まぬ」



イングリッドは、男爵という地位に納まっているが、

人望も厚く、他の貴族からも、一目置かれている存在なのだ。


それだけに、イングリッドが『戦闘を望まない』と発言したことは

ウオッカ男爵にとって、風向きが良い方に向かったと言えた。


友好的な関係を築いていた筈のイングリッドの発言だけに

デルガーも、これ以上の抵抗は、無意味なものにしかならない。


それがわかっているからこそ、

拳を握り締め、歯を食いしばるしかできない。


「ぐぬぬぬ・・・・・」


悔しそうに、足元を見つめるデルガーの態度に

出席していた多くの貴族が、疑問を持つが

何がそこまで、デルガーを追い立てるのかは、誰にもわからなかった。


いろいろと問題はあったが

最終的には、多くの貴族が、ウオッカ男爵の提案に賛同したことで、

エンデ達と、話し合いの場を持つということで、意見は纏まった。




だが、その夜、事件が起きる・・・・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る