第150話 貴族の思惑 崩壊2
屋敷から出たエブリン達は、ガリウスと合流する。
「嬢ちゃんたち、無事だったか?」
「ええ、大丈夫よ。
それより、思ったよりも、早かったわね」
「ははは、こいつが、
『ガゥ』
ガリウスの背中から、1頭のアンデットオオカミが顔を出した。
「あの子・・・・・」
『バゥ』
『バウッ!』
仲間の登場に、待っていたかのようにシェイクとメルクが吠えて応えた。
アンデットオオトカゲの背中から飛び降りたアンデットオオカミは、
仲間のもとへと駆け出し、
エブリンとシャーロットの護衛に加わった。
そこに、ドミニク デモンが、兵士を引き連れ
姿を現す。
「貴様らは、この私の計画の邪魔をしたのだ。
絶対に許さん。
魔法士達は、準備できておるか?」
「既に、待機しております」
「そうか、ならば、もう何も言うことはない。
奴らを殲滅せよ!」
「御意!」
ドミニクの命令に従い、指示を受けた兵士が合図を送ると
至る所から、魔法士達が姿を現し、
呪文を、一斉に唱え始めた。
『天空より裁きを与える者よ、
神に逆らいし愚者に・・・・・』
呪文を唱える魔法士達を
エブリン達も、黙って見ている筈かない。
アンデットオオカミ達が先陣を切り、襲い掛かる。
しかし、兵士達が立ちはだかり
身を挺して魔法士達の邪魔をさせない。
そうこうしている間に、魔法士達が、呪文を唱え終えた。
『ホーリーダウン』
魔法が発動する。
突然、体に、何かが圧し掛かったかのような重さを感じ
自然と、地面に張り付けられる。
この様子に、ドミニクは、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「ふんっ!
この私を、敵にしたことを、後悔するんだな」
勝利を確信し、吐き捨てるように言い放った言葉に
ガリウスは、舌打ちをし、ドミニクを睨みつけるが
何も出来ないことを知っているので、
光属性を持っているシャーロットも
大人数で放たれた魔法には、抵抗できず、
皆と同じように、地面に張り付けられていると
そこに、ドミニクが近づいて来る。
ゆっくりと、焦らす様に近づくドミニク。
その手には、剣が握られている。
「まずは、貴様らだ。
私の計画の邪魔をしたのだから
それ相応の罰を与えてやる」
地面に伏した状態のエブリンとシャーロットのもとに辿り着くと
歪な笑みを浮かべ言い放つ。
「お前たちは、一生、私たちの奴隷として扱ってやる。
覚悟しておけ」
そう言い終えると、近くで動きを止められている
アンデットオオカミの頭部に剣を突き刺した。
『グァ!』
アンデッオオカミの力が抜けたのが、見ていても分かった。
四肢を広げた状態で、
地面に貼り付けられている姿から、既に、息絶えている事がわかるが
ドミニクは、手を緩めない。
剣を頭部から抜くと、今度は首を切り落とした。
重力に縛られている為、ゴロゴロと転がることはないが、
切り離されたこと首は、体とは、違う方向を向いた。
『グルルル・・・・・』
仲間の死に、唸り声を上げるシェイクとメルク。
アンデットオオトカゲの上に
貼り付けられた状態のガリウスも、睨みつけている。
エブリンも、アンデットオオカミを殺されたことに
怒りを隠せない。
──絶対に、後悔させてやるわ・・・・・
そう決心する横では、
小声でブツブツと、何かを呟いているシャーロットの姿があった。
だが、何も出来ないと、高を括っているドミニクは
エブリンたちの間を通り過ぎると、
アンデットオオトカゲの背中に乗った。
「これが、貴様の乗り物か・・・・
私が手懐けられればいいのだが・・・・・」
『グルルル・・・・』
唸り声を上げるアンデットオオトカゲ。
「無理そうだな、・・・・ならば」
ドミニクは、アンデットオオトカゲの背中に剣を突き刺す。
だが、アンデットオオトカゲは、声1つ漏らさない。
その態度に、苛立ちをぶつける。
「この化け物め!」
怒りを露に、何度も、何度も剣を突き刺した為
背中の肉が千切れ、残っていた血液が噴き出すが、
それでもアンデットオオトカゲは声を上げなかった。
「この化け物め!
まだ、足りぬか!」
再び、剣を振り上げるドミニクに対し、
黙って見ていられなかったガリウスが挑発する。
「おい、お前は、身動きが取れない者にしか攻撃できないのか?」
「は・・・・」
振り上げた剣を下ろしたドミニクは
視線をガリウスへと向けた。
「おい、貴様、今何と・・・・」
「『無抵抗の者しか相手にできないのか?』と言ったんだよ!」
悪態をつくガリウスに、ドミニクが、歩を進める。
アンデットオオトカゲは、危険を察知し
ガリウスを守るため、必死に動かない体を動かそうとするが
動くことは出来ない。
『グワァ!グワァ!』
必死に、声を上げるアンデットオオトカゲ。
その様子を見て、ドミニクは、何かを思いついたような顔をした。
「そうだった。
貴様がこの化け物の飼い主だったな。
丁度良い、この化け物の目の前で、貴様を八つ裂きにしてくれるわ」
ドミニクとガリウスの距離が、近づいてゆく。
そして、後、数歩で、ガリウスに到達すると思われた時、
今まで、ブツブツと独り言のように呟いていたシャーロットの声が響き渡る。
『ディスアピアランス。
消えよホーリーダウン!』
シャーロットの声と共に、魔法が発動すると
今までエブリン達を縛り付けていた重力が消えた。
途端に、シェイクとメルクが動き出す。
先程とは比較にならない素早さで、
兵士達を搔い潜ると、その勢いのまま、魔法士達に襲い掛かった。
「魔法士を守れ!」
この場にいたウオッカが、慌てて命令するが、
兵士達は、それどころではない。
魔法士に向かったシェイク達とは別に、
アンデットオオトカゲが、うっぷんを晴らすかの様に
大暴れしていたのだ。
アンデットと化しているが
彼らの仲間意識は強い。
その為、残り少なくなっていた仲間を
目の前で殺された恨みは深い。
その恨みが、今、この場で形となり現れたのだ。
メルクとシェイクが、漆黒の炎を吐き出し
魔法士達を焼き尽くすと
アンデットオオトカゲは、
斬りつけてくる兵士達の攻撃を無視して
次々に踏み潰す。
漆黒の炎に包まれ、この世から消え去る魔法士達。
踏みつけられ、人ならざる姿へと変貌する兵士達。
先程までの優勢が嘘のように、戦況は一変した。
このような状況に追い込まれ、初めて焦りを覚えたウオッカだが
もう逃げ道は無い。
兵士達と同様に、アンデットオオトカゲの餌食となった。
そんな中、解放されたシャーロットとエブリンは、『フゥ~』と息をつく。
「成功してよかったわ。
気付かれたら、どうしようかと思っていたのよ」
「その時は、私が気を引き付けるつもりだったわよ」
「そうだけど、成功するまでは、心配なことに
かわりはないわ」
「確かにそうね」
既に落ち着きを取り戻している2人の周りには
もう、兵士の姿はない。
戦況を見つめながら、エブリンが呟く。
「そろそろかしら?」
「ええ、そうですね」
2人の視線の先には、アンデットオオトカゲの姿があった。
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