第149話 貴族の思惑 崩壊

黒煙が上がる中、ゆっくりと降りてきたエンデに

ダバンが声を掛ける。


「主!」


「ダバン、応援に来たよ」


「応援と言っても・・・・」


「うん、今ので終わったね」


何でもない事のように告げるエンデに、

愕然としているゲルハルト。


「これが悪魔の力だというのか・・・・・」


集まっていた兵士達が一瞬にして

消し炭と化した、この惨状に、声も出ない。


先程まで、ダバンを倒すことに意欲を見せていた兵士達の殆どが、

もうこの世にはいないのだ。


確かに、生き残っている兵士もいるが、

この惨状に、敵対する意欲など消し飛んでおり

その手には、もう武器などを持っていない。


ただ、項垂れているだけだった。


「なんなんだ、これは・・・・・」


「私たちは、何と戦おうとしたのだ・・・・・」


情報の共有はされていたので、分かっている。


この街に来た時から、彼らにとっては、災いをもたらした者達。


兵士達の間では、

『できるだけ、手を出すな』と、言われていたのだが

上からの命令で、仕方なく、戦ったが、やはり、通達通りの結果。


大人しくこの街から去ってもらうことが

得策だとわかっていたからこその指示だった筈なのに・・・・・


『あの通達に従えば、・・・・』と後悔しても遅い。


全ては、この街の利権欲しさに、

焦って、事を起こしたアイゼン バラゴのせいでしかないのだが

その様に仕向けたのは、ドミニク デモン。


アイゼン バラゴは、まんまと、彼の思惑に乗せられたのだ。




ドミニク デモンを知る者からすれば、

挨拶を交わす程度の仲でしかなかったアイゼン バルゴに

街の半分を任せる事など、あり得ないとわかっていた。



だからと言って、その事をアイゼン バルゴに、親切に教える者などいない。



他の貴族からすれば、アイゼン バルゴがいなくなれば、分配金が増え

自身が潤う可能性があがる。


それに、ドミニクを裏切ることなど、出来る筈が無い。


彼を裏切れば、この街で住むことはおろか、

買い物すら出来なくなる。


今までなら、教会が取り仕切っていたから

その様なことは無かったのだが、今は違う。


この短期間で、ドミニクは、

街の利権の大半を握り、

一番厄介だと思われたセフィーコットまでも、屠ったのだ。


そのような者に、誰も逆らおうとはしない。


だが、唯一、例外となる存在もいる。


それが、同じ子爵でもあるアイゼン バルゴだったのだ。


いくら、教会が主となっているとはいえ、

アルマンド教国でも、貴族は、それなりの地位を保っており

同じ爵位を持つ者同士なら、全てが同等に扱われる。


金や、権力ではなく、爵位だけがものを言う。


その事が解っているからこそ、

ドミニク デモンは、アイゼン バルゴを罠にはめ

この世から、消すことに決めていた。


もし、アイゼン バルゴを、生かしていれば

傀儡かいらいの教会関係者を、

責任者として、この街の運営を任せていたとしても

アイゼン バルゴが不満を持ち、

本国に、申し立てなどをすれば

査察を送り込んでくる可能性もあるのだ。


それ程、アイゼン バルゴは、厄介な存在だった。


だが、そのアイゼン バルゴも、もうすぐ消える。


自身の手を汚さず、この街にやってきたエンデ達によって・・・。



全て、計画通りに進み、

屋敷で寛いでいるドミニク デモンの周りには

数人の貴族が、集まっていた。


「今頃、どうなっているのかな?」


心配するような言葉を吐いたドミニクだが、

その顔には、言葉とは裏腹に、笑みを浮かべていると

子飼いの貴族の1人、【スコット ダウン 】男爵も、

笑みを浮かべながら、驚いたような顔をして、問いかける。


「もしかして、ご心配なさっておいでですか?」


「そうだな、少しは、心配しているのかも、知れんな」


「それは、どちらの?」


場を和ますようなやり取りをしていると

そこにウオッカ サントーネが入って来た。


「おお、ウオッカ殿、それで、あちらの様子はどうだ?」


「予想通りです。


 彼らに、見張りを増やしたことがばれて、反感を買い、

 屋敷に、攻め込まれました。


 その結果、大勢の兵士が殺されました。


 はたから見た感じですと

 すでに、決着は着いたようなものでしたので

 先に報告をと思い、こちらに、伺った次第でございます」


「そうか、ご苦労だった」


「いえ、引き続き、あの者の屋敷の監視を致します」


言い終えたウオッカが、部屋から出て行こうとしたその時、

廊下側から、扉を破壊して、少女達が姿を現す。


「お邪魔するわよ!」


現れたのは、2人の少女と2頭のアンデット。


「貴様は、あのガキの仲間!」


「へぇ~、私達の事も知っているのね」


エブリンの言葉に、眉を顰めるウオッカ サントーネ 。


──つけられたか・・・・・だが・・・


「貴様らは、ここが何処かわかって押し入ったのか!?

 許可もなく、貴族の屋敷に押し入れば、

 その場で殺されても、文句を言えぬぞ!」


怒鳴るように、言い放ったウオッカ サントーネに

エブリンが、答える。


「そんなこと、知っているわよ。


 でも、今は、そんなこと、どうでもいいわ。


 それよりも、あんたたち、覚悟は、出来ているわよね」


意気揚々と告げたエブリンと、その周りを

ドミニク デモンは冷静に見ていた。


──こいつらの他には、誰も、いないようだな・・・・・


敵の数を把握すると

ドミニクは、エブリンとシャーロットの前に立つ。


「まぁまぁ、落ち着いてくだされ。


 見るところ、なかなか綺麗なお嬢様方ではないですか。


 よろしければ、

 物騒なことはやめて、一緒に飲みませんか?」


その言葉に、シャーロットが反応する。


「あら、面白い事を言うものね。


 でも、自己紹介も出来ない男に、興味なんてないわ」


「確かに、その通りですな。


 それは失礼を、致した。


 では、改めて。


 私、ドミニク デモンと申します。


 このアルマンド教国で子爵の地位を賜っている者です。


 以後、お見知りおきを」



優雅に自己紹介を終えたドミニクに、

シャーロットが問いかける。


「ドミニク子爵様、丁寧なご挨拶、痛み入ります。


 私は、シャーロット アボットと申しますが、

 1つ、お伺いしても、よろしいかしら?」


「なんなりと」


「そう・・・・・」


間を開けて、シャーロットが続ける。


「この国の子爵様は、幼女が好みですの?」


「はっ?

 どういうことですかな?」


「ですから、このような体型の娘が好みなんですよね?」


シャーロットが指したのは、エブリン。


「ちょっ!ちょっと!」


思わず、体を隠したエブリンだが

シャーロットの物言いに、こめかみを『ピクピク』させた。


「ね、ねぇ、シャーロット・・・・・」


シャーロットを睨みつけるエブリンを無視して

ドミニクが、問い直す。


「何時、私がそのようなことを、言いましたかな?」


「えっ!

 先程、お誘いされていたではありませんか?


 それとも、私の聞き間違いかしら?」


「このガキ・・・・・」


ドミニクが睨みつけていると、シェイクが『バゥ』と吠えた。


「間に合ったようね」


シャーロットが、ポツリと呟いた言葉に、ドミニクが反応する。


「なにが、間に合ったというのだ!」


 

何のことかわからないドミニクだったが、

直ぐにシャーロットの言葉の意味を、理解することとなった。


突然、『ドーン!』と響く音と共に、屋敷が揺れる。


「何事だ!」


うろたえるドミニク、スコット、ウオッカの3人が辺りを見渡していると

再び『ドーン!』と響いた後、

今度は『バキバキ』と、屋敷が破壊される音が耳に届く。



慌ててバルコニーに飛び出したドミニク達が目にしたのは

巨大なトカゲが体当たりを敢行し、屋敷を破壊している姿だった。


「な、なんだ、あの化け物は!」


思わず後退ってしまうドミニク。


横にいたウオッカも、後退ってしまったが

何かに気付く。


「ドミニク様、あ、あれを!」


巨大なトカゲの背に乗り、指示を送る男を見つけたのだ。


ドミニクも、その姿を見つけると

怒りを露わにする。


「あの者の仕業か!

 おい、誰か、あの男を止めろ!」


大声を上げて命令をしたドミニクが、

屋敷の中へと顔を向けたとき、あることに気付く。


「おい、あの者たちは、何処に行った・・・・・」


先程まで、部屋の中にいた筈のエブリンたちの姿が無い。


「あのガキどもぉぉぉぉぉ!!!」


怒り狂うドミニクは、壁に飾ってあった剣を手に取ると、

エブリン達の後を追い始めた。

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