第148話 貴族の思惑 襲来


マリウルとガリウスが、監視する者達を狩り終えても、

ダバンには、動きがみられない。


そのダバンが任された監視者達が、

いつものように、その日の任務を終える。


「おい、一旦戻るぞ」


エンデ達を一番近くで監視をしていた5人の中の1人、

【ゲルハルト】が、仲間を引き連れて、その場から離れた。


彼らの向かった先は、アイゼン バラゴの屋敷。


屋敷に到着すると、執事が出迎える。


「お疲れ様です。


 今日の報告ですが・・・・・?」



「いつもと変わらん。


 動きは無い」


「そうですか。

 

 お疲れさまでした。」



淡々と、いつものように繰り返された問答だが、

この日は違っていた。



「なぁ、タスクさんよぉ、

 俺たちは、いつまで見ているだけなんだ」



執事であるタスクに問いかけたゲルハルト。


彼自身は、そろそろ決着をつけたいと思っていた。



「そうですね。


 私も、そろそろ頃合いかと思っておりますので、

 一度、旦那様に、お伺いを立ててみますが・・・・・」


タスクは言葉を止め、ゲルハルト達の背後に、目を向ける。


「どうやら、つけられていたようですね。」



思わず、振り返るゲルハルト。


そこで目にした人物は、監視をしているゲルハルトたちには、

見覚えのある顔だった。


だが、慌てる様子もなく、話しかける。


「なんだ、俺たちをつけて来たのか?」


「ああ、そろそろ覗き見を止めて欲しくてね」


「それは無理な相談だが、貴様の監視は、今日で終わりだから安心しろ」


言い放つと同時に、ゲルハルトは、素早くダバンに向けて短剣を投げつけた。


放たれた真っ黒な2本の短剣がダバンに襲い掛かる。


いつもなら、これで終わる。


だが、ダバンはその短剣を、いとも容易く受け止めた。


「なんだこれは、不意打ちのつもりか?」


「チッ・・・・この若造が・・・・・おい!」


『おい』というゲルハルトの言葉を合図に、部下たちは剣を抜き

ダバンと向き合うように構えたのだが

突然、2人が倒れる。


驚くゲルハルトとその仲間達が、確認すると

その2人の眉間には、先程の真っ黒な短剣が刺さっていた。


「おい、折角、返してやったんだから、ちゃんと受け取れよ」


ダバンの言葉に、ゲルハルトの顔に、怒りが滲む。


「ふざけた真似を・・・・・貴様は、ここで始末する」


その言葉を合図に、部下2人が襲い掛かる。


2人は、左右に分かれダバンを挟む。


そして、阿吽の呼吸で間合いを詰めると、上段と下段に構えた剣を振りぬく。


「もらったぁぁぁぁぁ!!!」


振りぬかれた剣は、確実にダバンを切り裂くと思われたが

そこに、ダバンの姿は無い。


彼らが切りつけたのは残像。


空を切る感覚に、躱されたことを自覚するが

ダバンの行方を見失ってしまう。


「クソッ、何処に行きやがった?」


慌てて、ダバンを探そうとした瞬間、片割れの男の首が飛ぶ。


「なっ!」


見えなかった・・・・・。


ダバンもダバンの攻撃も、見えなかった。



血を撒き散らしながら、地面へと倒れ込む仲間の姿に、

自身の今後を重ねてしまい、男は動きを止めてしまった。


その予測した未来を、現実にするかのように

ダバンの声が背後から聞こえてくる。


「おい、舐めてんのか」


「えっ!?」


呆然としていたことに気付き、慌てて振り返ろうとするが、

何らかの衝撃を受けて、目の前が真っ暗になった。


『ゴロゴロ』と転がる首。


ダバンの蹴りにより、自覚のないまま屠られたのだ。


その首が、ゲルハルトの足元で止まると

ダバンが告げる。


「次は、あんたの番だぜ」


その言葉を聞いても、

ゲルハルトに、動揺した素振りすら無い。


それどころか、笑みを浮かべていた。


「確かに、貴様は強いようだな。

 

 では、これでは、どうだろう」


その言葉と同時に、ダバンを囲むように

次々と、兵士が姿を見せた。


「貴様が遊んでいる間に、援軍を呼ばせてもらったよ。


 これだけの人数を相手に、どこまで耐えられるかな」


援軍を呼んだのは、執事のタスク。


戦闘が始まると同時に、急ぎ、援軍の手配を整えたのだ。


その後、タスクは、アイゼン バラゴの所に向かった為、この場にはいない。


この場を取り仕切るのは、ゲルハルト。


「やれ!」


合図と同時に、ダバンに向かって雪崩のように押し寄せる兵士達。


その兵士達の手に、握られているのは、剣ではなく、槍。


これは、集団で襲いかかることを想定しての事。


槍ならば、剣で襲いかかるよりも、多くの人数で攻撃できる。


また、槍の刃の部分には、返しが付いていて、

一度刺さると抜けない仕組みなっていた。


この槍は、魔物や魔獣と戦うために開発された武器なのだ。




一度刺されば、抜こうとすれば、それ相応の対価を払わざる負えないし、

そのまま残しても、ダメージを与え続けることが出来る。



どちらにしろ、刺された相手にとっては、この上なく厄介な武器だが

勿論、良い事ばかりではない。


兵士が武器を手放さなければならないという欠点もあるのだが、それも想定内。


攻撃を担う兵士達から、少し間隔を置き、

多くの武器を担いで、武器庫の役目を担っている兵士までいた。


このおかげで、武器が尽きる事は無いのだ。


そんな槍を持った兵士達が、一斉に、ダバンに襲い掛かる。


近距離戦が得意なダバンにとって、厄介な武器。


しかも、何処から現れたのかわからないほど、

大勢の兵士に囲まれているので、逃げ道すら見当たらない。


仕方なく、襲ってくる者から、順に倒してゆくダバンだが

その兵士の背後からも、槍が突き出され、厄介なこと、この上ない。


──これは、不味いかもな・・・・・


そう思いながらも、ダバンは、攻撃を躱しながらも

確実に1人ずつ倒していくが、切が無いように、思えた。



増え続ける兵士。


埋まってゆく敵との間隔。


攻撃の手数も増え、ダバンは、不利な状況に追い込まれてゆく。



そんな時だった。



闇夜を切り裂くような雷鳴が響き渡り、

天から降り注いだ雷が、兵士の集団の中に落ちる。



轟音と共に、吹き飛ばされる兵士達。


一瞬にして、ダバンを囲っていた兵士の網が崩されたのだ。


「何が起こったんだ!」


背後から、高みの見物をしていたゲルハルトも、流石に驚きを隠せない。


そんなゲルハルトの目の前で

攻撃は止むことなく、確実に、逃げ惑う兵士達を狙い

屠ってゆく。


そして、

動く兵士が、殆ど見当たらなくなると、攻撃が止んだ。


愕然とするゲルハルトの前には、

想像すら出来ない程の、悲惨な光景が広がっていた。


立ち込める焼けた土の匂いと、焦げた兵士の匂い。


そんな惨状の中に、空から、1人の少年が降りてくる。

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