第108話 教会 兆し

教会の中に入り、礼拝堂を歩くボーグル。


清掃が行き届いていた為、人がいることを確信すると

大声を上げた。


「誰か、居らぬか!」


響き渡るボーグルの声。


すると、奥の扉が開き、神父見習いが顔を出す。


「申し訳御座いません。


 只今、教会は封鎖されておりまして・・・・・・」



出て来た神父見習いは、教会騎士を見たことが無かった。


「貴様は、ここの神父だな」


「はい」


「では、教会騎士隊長、ヌードルフ様が来たことを、上の者に伝えてくれ」


ボーグルの言葉に、神父見習いは戸惑いを見せる。


「あの・・・・・上の者と申されましても・・・・・」


「どうした、誰か居らぬか?」


「神父様方は、全員、捕えられております。


 今ここにいるのは、私のような見習い神父と、シスター達だけなのです」


「そうか、ならば、全員をここに呼べ」


「えっ!?」


「早くしろ!!!」


声を荒げたボーグルを恐れ、

見習い神父は、慌てて他の者たちを呼びに行った。



それから暫くすると、神父見習い達とシスター達が姿を見せる。


その中に、ボーグルは、知った顔を見つけた。


「シスター【サルサ】ではないか!?」


声を掛けられたサルサは、前に進み出る。


「ヌードルフ様、ボーグル様、お久しぶりで御座います」


ゆっくりと頭を下げる。


「其方がいるのなら、話が早い。


 ここで何があったのか、教えてもらおう」


「畏まりました。


 では、こちらへ」


サルサに連れられ、奥へと進むヌードルフ。


その隣には、ギャレットが並ぶ。


2人は奥の部屋で、事のあらましを聞いた。



ガルバンが捕まった後、王国の兵士たちが教会に乗り込み、

主だった神父達を連行し、

それから、数日後に、教会が封鎖されたとの事だった。


「では、ガルバンが亡くなったという話は、事実なのだな」


「はい、それから捕えられた者たちも、既に亡くなっているかと・・・・・・」


実状を知り、直ぐにこの教会を立て直すことは

不可能だとヌードルフは、判断した。



元々、ヌードルフに、教会を立て直すつもりなど無い。


本当の狙いは、ガルバンを殺した者を探し出す事。


教会のことは、サルサに任せ

ヌードルフは、本来の目的の事を尋ねる。


「ガルバンを殺した者の素性は、わかっているのか?」


サルサは、『あくまでも噂』だと念を押してから告げた。


「素性といいますか・・・・・

 ガルバン様を倒したのは、子供だという話が・・・・・」


「子供?」


「はい、箝口令が敷かれているようで、

 定かではありませんが、

 酒場で飲んでいた兵士の話だと、子供だったと、答えております」


「その子供はどこに?」


「そこまでは・・・・・

 ですが、この国の者では無いようです」


──この国の者では無い・・・・・・

  だとすれば・・・・・・あの国か・・・



ゴンドリア帝国でなければ、アンドリウス王国の人間しかいない。


そう考えた時、

チャコールの屋敷に乗り込んだグルーワルド学院の生徒の事を思い出す。


「その子供の特徴は、わかるか?」


「いえ・・・・・申し訳御座いません」


「そうか・・・・・」


ここまで来て得られた情報は、教会を潰し、ガルバンを屠ったのが

アンドリウス王国に住む、子供かも知れないという事だけ。


『成果は、あった』


とも言えない事も無いが、教会騎士隊が動いて、これだけでは割が合わない。


「仕方ない、教会でも立て直すか・・・・・・」


ヌードルフの言葉に、ギャレットが笑みを浮かべる。


「では、そのように動きますね」


『スクッ』と立ち上がったギャレットは、

ヌードルフを置いたまま部屋を出ると

礼拝堂で待機している仲間たちの元へと向かう。



礼拝堂では、集められた神父見習いや、シスターたちの他に

教会騎士隊が屯している。


そこに、戻って来たギャレットが告げる。



「予定変更だ。


 動くことになった。


 この教会を、ある日の姿に戻す」



その言葉に、ニヤつく教会騎士たち。


それとは逆に、驚きを隠せないでいるこの国の教会関係者。



そこに、ヌードルフも姿を見せた。


「では、始めようか・・・・・」


ヌードルフの言葉に、雄たけびを上げる教会騎士たち。



その数日後・・・・・・




ゴンドリア帝国の近郊では、盗賊が現れ、

王都に荷物が届かなくなるという事件が起きる。



その事件を重く見た国王は、討伐隊を結成した。


「これは、国の一大事。


 貴様ら、気合を入れろ!」



討伐隊のリーダー【レントン フォルクス】は、

新たに隊長に任命されたばかりの兵士。


手柄を立て、自身が隊長に相応しい事を証明するために、

この一件に気合を入れて臨んだ。


「出陣!」


レントン フォルクスと共に、150名の兵士が王都を旅立った。


彼らが、盗賊が出るという山道に差し掛かると

150名を3分隊に分け、周囲を伺いながら進む。


だが、それらしい者達が、出てくる気配すらない。


「レントン様、如何なさいますか?」


兵士の問いかけに、捜索範囲を広げるように指示を出した。




第1分隊のリーダーは、【イスドルナ】は

指示に従い、捜索範囲を広げると、川辺に辿り着く。


「ここで、一度休憩しよう」


イスドルナの言葉に、兵士たちは、一息つけると、川辺に集まった。


「喉が渇いたな」


1人の兵士が川の水を飲み始めると、

右に倣えとばかりに他の者たちも飲み始める。


「ふぅ・・・・・生き返る・・・・・・」


顔を洗ったり、足を冷やすなどをしてそれぞれが思いのままに過ごす。


そのおかげで、落ち着きを取り戻した兵士たちだったが、

最初に水を飲んだ兵士が、急に喉を押さえ苦しみだした。


『ぐ、ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


「お、おい・・・・・」


その様子に、驚いた兵士達だったが、

同じように、水を飲んだ兵士達が、次々と苦しみ始めると

水面には、魚の死体が浮き始めていた。


「毒か!」


川の水を飲まなかったリーダーのイスドルナと少数の兵士たちは、

苦しむ仲間の元に駆け寄る。


「おい、しっかりしろ!」


必死に声を掛けるが、苦しみの果てに、次々と息絶える兵士たち。


解毒剤はあるが、

毒の成分がわからない為

効くかどうかわからない。


それでも、解毒剤を取り出し、苦しむ兵士の口に

当てがった。


「解毒薬だ、飲め!

 しっかりしろ!」


まだ息のある兵士たちに声を掛け、解毒薬を飲ませるが

症状は、一向に回復しない


次々と、口から泡を吹き、動かなくなる兵士たち。


残ったのは、水を飲まなかった者達だけ。


どう考えても、盗賊の仕業だと考えられる。


「姑息な・・・・・」


イスドルナが、そう呟いた時・・・・・・



「あ~あ、残念。


 生き残りがいるなんて・・・・・」



何も無かったところから、突然姿を現した3人の騎士。


先頭に立っているのは、若くてチャラそうな男。


イスドルナは、騎士たちが着ている鎧に心当たりがあった。


「教会騎士・・・・・」


「ご名答!


 でも、覚えなくていいよ。


 無駄になるから」



言っている意味が分からない。


イスドルナは、教会騎士に対して警戒しながら問いかける。


「それは、どういう事だ!?」


「お前たちは、ここで死ぬんだよ」


チャラそうな男の言葉が合図となり、

後ろに控えていた2人の教会騎士が剣を抜くと、

生き残っていた兵士たちに襲い掛かった。




歴然とした力の差があり、

成す統べなく切り殺される兵士達。


「教会の人間が、どうして、こんな事を!」


多くの兵士を失い、立ち尽くしているすイスドルナだったが

チャラい男が近寄って来ると、咄嗟に剣を抜く。



「そんなに警戒しないでよ。


 僕の事が怖いの?」


『ニヤリ』と笑みを浮かべながら歩を進め、剣を抜いた。


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