第109話 教会 思惑

イスドルナは警戒を強め、チャラそうな教会騎士から目を離さない。


だが、その行動が裏目に出る。




風上に立っていたチャラそうな教会騎士の剣を握っていない反対の手には、

短筒が握られており、そこから甘い香りが流れ出ていた。



イスドルナは、その香りを嗅いでしまう。


「うっ・・・・・」


徐々に痺れてくる体。


思うように動かない。


「貴様・・・・・なにをした・・・・・」


膝から崩れ落ちるイスドルナ。


「【イルマ】殿、こっちは終わったぞ」


生き残っていた兵士たちを屠った2人の教会騎士は、

チャラそうな教会騎士、イルマに話しかけてきた。


「こっちも、もう終わりだよ」



イルマから、少し離れたところで身動きが取れず、

地面に這いつくばるイスドルナ。


「無様だね・・・・・」


近づいたイルマは、イスドルナの背中に、無慈悲にも、剣を突き立てた。


「さてと・・・・・他のみんなは、どうなっているのかなぁ・・・・・」


イルマの言葉に、2人の教会騎士は、『問題ないでしょう』と笑った。



その予想は、当たっており

残っている2つの部隊の内の1つは、すでに壊滅していた。


その為、残りの部隊は、レントン フォルクスの部隊だけ。




レントンの部隊は、

獣道を進み、人の足跡を探していると

広々とした場所に辿り着く。



だが、その先にあるのは、行く手を阻むような絶壁。


「ここから先は無理だな・・・・・」


レントンは、引き返す合図を送る。




その時だった。


突如、レントンたちの部隊を取り囲むように炎が舞い上がった。



「クソッ!

 罠か!

 何処にいやがった!?」



『このままでは、不味い』と判断したレントンは、

魔法が使える兵士たちに、指示を出した。



「火を消せ!

 急いでこの場所から離脱するぞ!」


魔法が使える兵士たちが、一斉に呪文を唱え始める。



『我が契約せしは水の精霊、今、この場において我に・・・・・」



詠唱の途中で『ドカッ』という鈍い音と共に、

呪文を唱えていた兵士の1人が倒れた。


続けざまに、呪文を唱えていた他の兵士達も倒れ始めた。


「おい・・・・・」


レントンが、声を掛けるが、既に息をしていなかった。


「全員、陰に隠れろ!」




レントンの声に、従い、生き残っていた者達は

急いで、木の陰に隠れようとするが、ここは、開けた場所。


その為、隠れることが出来るような場所は、

殆どない。


それに、森に逃げ込もうにも、周りは、火で囲まれている。


手詰まりのレントンは、必死に、敵の姿を探す。


「何処だ!


 何処から狙っている!?」



幾ら探しても、周囲に人影はない。


「何処にいるのだ!」


レントンが、叫び声をあげた瞬間、1人の兵士が気が付く。


「隊長、あそこです!」


兵士が、指を差したのは、空。


目を凝らして見ていると、

そこには、太陽を背にして、複数の男が立っていた。


「バレましたか」


笑顔を見せるギャレット。


「全員弓を構えろ!」


兵士たちは、急いで準備を終え、弓を引く。


「撃て!」


一斉に放たれる矢。


しかし、全ての矢がギャレット達に当たる直前で、何かに阻まれて落下する。


ギャレットは、火と風の魔法の使い手。


矢を阻んだのは、風の障壁。


その後も幾度となく矢を射るが、結果は同じ。


成す統べの無いレントン。


火は迫り、

持っていた矢も尽きる。


とうとう、追い詰められたレントン達。


「クソッ!

 このままでは焼け死ぬだけだ」


 何か手はないのかと、辺りを必死で見渡すが、何も見つからない。


そんな慌てふためくレントンを見ていたギャレットは

再び、魔法を使う。


『ファイヤーサークル』


ギャレットが放った魔法は、

レントンたちを取り囲んでいる火の勢いを強めた。


『ぎゃぁぁぁぁぁ!!!』


『熱い!熱い!た、助けて!』


叫び声が木霊する中、レントンを初めとするゴンドリア帝国の兵士達は、

無残にも、生きたまま炎に包まれた。



その後、暫くして、火が消える。



先程まで、緑で生い茂っていた場所だったが、

今は、焼け野原と化しており

その中には、黒焦げで、

オブジェのように、固まった兵士たちの死体が転がっていた。



全てを見届けた後、ギャレット達は

その場所から去り、山中につくったアジトへと向かった。


この一件から数日後、

王都内には、討伐隊が敗北したとの噂が広まっていた。


それもその筈、未だ、盗賊の襲撃は、収まっておらず、

王都近郊での襲撃が続いていたからだ。


そのせいで、物資の届かなくなった王都は、

物価が高騰し、貧しい者達には、

食料は手の届かない物になっている。



勿論、この状況は、国王サンボームの耳にも届いており

手をこまねいていたわけではない。


新たに、討伐隊を派遣したり

物資の流通を取り戻すために、遠方の国に、兵を向かわせたりもした。


だが、毎回、王都近郊に出没する盗賊に阻まれてしまっていたのだ。



「どうなっているのだ。


 新たな討伐隊の編成はどうなっているのだ!?」


サンボームの言葉に、集められていた貴族たちは下を向く。


その中から、1人の貴族が現状を口にした。


「陛下、申し訳御座いません。


 討伐隊は、何度も結成しております。


 しかし、誰一人として戻って来てはおりません」



貴族の報告には、言い知れぬ絶望感が漂っており

サンボームも返す言葉が無い。



「陛下、このままでは、我が帝国は終わりです。


 何とか早急に手を打たないと・・・・・」



「分かっておる。


 だが、あ奴らを退治しない事には、物資が届かないのだろう。


 誰か、『我こそは』と名乗り出る者はおらぬか?」


サンボームの言葉に、貴族たちは、再び下を向く。


これまで幾度となく、兵を送って来たが

誰一人戻って来ていない状況を考えれば

当然の反応だった。



その時、国王サンボームの護衛についているホルストが間に割って入る。


「陛下、アンドリウス王国に救援を頼んではいかがですか?」


ホルストの意見に、貴族が答える。


「あの国とは、揉めたばかりではないか。


 それに、砦も奪われ、通行も止められておる」


「無理だ。


 アンドリウス王国が、手を貸してくれるわけが無かろう」



『うんうん』と、頷く貴族たち。


そんな状況でも、ホルストは諦めない。


「いえ、私が行けば何とかなるかも知れません」


ハーフエルフであり、エンデに召喚されているホルスト。


この事は、サンボームを初めとする王家の者しか知らない。


『私が行けば・・・・・』


サンボームは、この言葉の意味を理解する。


エンデを連れてくると言っているのだと・・・・・


「出来るのか?」


「はい、お任せください。


 あの方に、お願いして参ります」


「わかった。


 儂からも手紙を書く。


 頼んだぞ」


「この命に代えても・・・・・」


何の話をしているのかわからない貴族たちを放置し、

国王サンボームは、

ホルストを、アンドリウス王国に派遣することを決めた。


玉座から立ち上がるサンボーム。


「あの国には、儂の知人がおる。


 王家に手を借りるのではない。


 その者の力を借りるのだ。


 良いか、この事は他言無用だぞ」


物資が届き、盗賊達が討伐されるのであれば、文句はない。


貴族たちは、『仰せのままに』と頭を下げる。



その日のうちに、ホルストはサンボームから手紙を預かると、

村娘のような服装に着替えて旅立つ。



それから数日後、ホルストは砦に辿り着く。


だが、当然の如く、門番に止められた。


「貴様は、何の用だ!」


ゴンドリア帝国から来た者に対しては

やはり口調は、荒くなる。


だが、ホルストは、顔色一つ変えることなく告げた。


「こんな身なりだが、私は、エンデ殿の所縁の者だ。


 誰か話の出来る方を、呼んでもらえぬか?」



確かに、村娘にしては、喋り方がおかしい。


それに、エンデの名前が出たことで、兵士は急いでメビウスに連絡を入れた。


「エンデの所縁の者だと・・・・・」


メビウスの横には、マリウルとガリウスがいた。


「父上、私が、会ってみます」


マリウルの言葉に、メビウスが頷く。


「分かった任せよう」


「待ってくれ、俺も行くぜ」


間に割って入るガリウス。


「好きにしろ・・・・」


「感謝するぜ」


マリウルは、ガリウスを伴い、ホルストと面会を果たした。



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